Act:30.999

 あれから四年ほど経過して、私は高校二年生になった。その年の夏休み期間はそれはそれはせわしなかった。

 何故なら私は、また引っ越しをすることになったからだ。というのも、私は母と二人で地元に戻ることになった。父の仕事が一段落ついて、また異動するそのタイミングだった。

 もちろん離れるのは嫌だったけれど、父の異動先は学校への交通の便があまりにも悪く(現在の場所も決して良いわけではない)、このままでは私の学校生活に不都合だ、というのは母の弁。

 引っ越し先の家具の設置などをある程度終えて、学校の転入届を出しに行った。なんでも、転入する学校は私服登校が許されているらしい。しかも、とっても大きな学校だと聞く。だけど私は流石に私服登校には気が引けたので、リボンだけ取り替えて、前の学校の制服を着て行った。

 転入手続きもつつがなく終えて、私はある場所に向かった。

 それはもちろん、彼の家だ。

 私は地元に戻ってはきたけれど、前に住んでいた家に戻ったわけではなかった。そこから少し距離はあるけれど、歩いていけない場所ではない。

 だから、一目見に行きたいと考えたのだ。もしかしたら、ちょうど会えるかもしれないし。

「元気かな」

 ワクワクしながら、私は歩き出す。近づくに連れて、懐かしい風景がどんどん現れる。五年も前のことなのに、ついこの前のように思い出せるくらいに、記憶は鮮明だ。思い出すたびに、私の歩調はどんどん楽しくなってきて、速くなっていった。


 あともう少しで彼の家というところまでやってきた。少しの期待と、少しの緊張が入り混じりつつ、どんどん近づいていく。

 そして、ついに家の目の前に到着した。『宮澤』という名札を確認して、全体を見渡す。一切、変わっていない。あえて違いがあるとすれば、自転車が変わっている。おそらく、舞ちゃんの自転車が新しくなっている。蛍の自転車は後ろに荷物が置けるママチャリで変わっていない。サドルは大分高くなっているけれど。

「……あれ?」

 それよりも一番驚いたのは、私の家だった場所に、まったく違う家が建っていることだった。新しい居住者によって、リフォームされたのだろう。

 でも、そんなことも今はどうでもいい。

 彼はまだ、ここに住んでいる。そして、いつか会うことになるんだ。

 私はまだ出逢わない運命を呪うことなく、そこを去ろうとした。

 その矢先。

 運命は、すぐにやってきたのだった。


 To Be Continued to "あんたいとる! 3" of Act:31.

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あんたいとる!-reminiscence- 不知火ふちか @shiranui_fuchika

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