004

 季節は、どんどん通り過ぎていく。穏やかな秋を終え、寂しげな冬になった。

 彼との関係は、更に疎遠になった。

 クリスマスも、初詣も、毎年会っていた私たちは別々に過ごした。

 本当に不思議な気持ちだ。生まれてからずっと、あんなにずっと一緒にいたのに、関係が希薄になったら何もない。

 冬休み明け、久しぶりに彼を見た。一切私たちの間には挨拶も会話もない。

 最近は始業時間のギリギリに来ることが多くなっていた。遅刻も、どんどん増えてきて、少し心配だ。

 もう、ずいぶんと話をしていないのに、彼のことばかり考えてしまう自分がいる。

 助けてあげられるかもわからないけれど、それよりも前の第一歩を踏み出せない私は、とっても情けない。

 彼を目で追ってしまう自分は、何をしたいんだろう。話しかけてしまえば、きっと楽になれるのに。どうしてこんなに怖いんだろう。

 彼は、私にとって幼馴染なのに、今では、もう――。

 

 本当に時間が経つのは早い。気づけば、もう卒業も間近に迫っていた。


 もちろん私と彼の距離は平行線で、何も変わっていない。

 もう、きっとこのまま卒業してしまうんだろう。そう思った。

 もうすぐ小学校生活が終わってしまうというのに、彼は連日マスクをしてずっと体調が悪そうだった。咳も酷い。

 そして、ついに学校を休んだ。どうやら、流行りの風邪が原因だった。誰かから聞いた話だと、妹の舞ちゃんも休んでいるらしい。

 彼はそれほど身体が弱い印象は無かったし、舞ちゃんは特に元気な娘だ。もちろん流行りの病気だから、一緒に住んでいる家族に移ってしまうこともわかる。

 なんだか、胸騒ぎがした。


「桜、そろそろ引っ越しの準備始めてね」

 少しずつ物が整理された家のキッチンで、私はボーっとお皿を洗っていた。

「うん、わかった」

 ニコッと笑いかけて、また作業に戻る。

 そうだ。

 私はもうすぐ引っ越してしまうんだった。

 引っ越すのは、小学校を卒業式の次の日だと聞かされていた。あと少しだ。

「それまでにちゃんと仲直りしておくんだよ」

 お母さんは私とは別の作業をしながらそう言った。

「えっ」

 驚いたのは私だ。だって、一度もそんな話をしていないから。

「結構前からでしょう。学校も一緒に行ってないみたいだし」

 全て図星だ。お母さんはニッコリしている。

「喧嘩別れなんてしたら、多分一生後悔することになるよ」

 持っていたお皿とスポンジを取って、お母さんはそのまま皿洗いを始めた。

 やっぱり、お母さんは凄い。娘のちょっとした変化で何もかも見抜いてしまうんだから。

「ほら、引っ越しの準備してきなさい」

 そうだよね。このままじゃ、ダメだよね。

「うん、いってきます」

 私は意を決して、家を出た。

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