第30話 神楽祭4


 «推奨はできんぞ。いくらお前でもオーバーヒートを起こした直後だ。不確定要素が多すぎる»


 「それでもやるしかないさ。彼女がこれから当主としてやってくには、ここで公開討伐を休むわけにはいかない。せめて、俺がそれなりの成果を上げないとな」


 «はあ、わからんな。前から思っていたが、お前はなぜこいつにそこまで肩入れする? もともと陰陽道などめんどくさがっていたお前が»


 乙葉は懐かしいものでも見るかのような、優しい目で美咲を見つめた。


 「・・・・・昔は違ったさ」


 «え?»


 「昔は、お前に会うよりもっと前。俺はもっと一生懸命だった。だけど、半霊体化の術を受けた後からかな。なんでもできるようになっちゃったんだ」


 «・・・・いいことじゃないか»


 「なんでもできるってのはな、達成感がないんだ。お前は空を飛べるが、それに達成感を覚えたことがあるか? 確かに最初飛べたときはあったかもしれない。でも、それが当たり前になれば、達成感など生まれない。・・・・・やる気もなくなるさ」

 

 «・・・・・・・・»


 「だけど、こいつは今も一生懸命だ。それがまぶしくて、助けたいって思ったんだ。だからかな」


 «・・・・・そうか»


 「ああ」


 «まあ、その、なんだ。頑張れよ。できることなら協力するからの»


 「ありがとう」


 -------------------------深夜


 神楽の舞台にした神社前には、それぞれの衣装に身を包んだ陰陽師たちが集まっている。乙葉はその中でも、目立たないようにハジにいた。


 (あのおとこは・・・・・あそこか)


 視線を巡らすと、猫を肩に乗せたあの男がうれしそうに待機していた。ばっちりと衣装に身を包み、やる気満々だ。


 対して、乙葉はいつも通り、紺色のシャツに黒のズボンだけだ。どうせ、霊装展開すれば、関係ないだろうと思ってのことだった。


 「では、諸君。公開討伐に際し、注意事項を申し伝える」


 大頭様の朗々とした声が神社に響く。


 「いつもより霊力が濃い悪霊たちは、倒すと霊核を落とす。これを1番、集めたものに褒美を与えるものとする。また、陰陽師同士での争いは命にかかわらない程度に行うこと、悪霊討伐を優先させることを旨とせよ」


 「では、公開討伐。開始じゃ!」


 各々が一斉に神社前から姿を消す。1人残された乙葉はゆっくりと左手に霊力を集中させた。


 「霊装展開 鴉」

 

 旅館にいる鴉と一時的に霊力回路をつないで、霊装を展開する。霊装といってもコートは出さずに、刀だけ出現させた。


 (さて、やりますか)


 ※次回更新 5月23日 土曜日 0:00

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