第27話 神楽祭1
「・・・・こんなに朝弱かったのか」
あれからいろいろやってみたが、美咲は二度寝してしまった。すぐそばで声をかけられていながら寝られるのは、一種の才能だ。
(しょうがない)
乙葉はじゃがみこむと、美咲の両頬を両手でつかんだ。
「ごめんね?」
ギュム~~~~
「はう⁉」
手加減しながらも引っ張ると、美咲は変な声を上げて、目を開けた。
「・・・・どういう状況?」
頬を引っ張られたまま器用にしゃべる美咲を見下ろしながら、乙葉は笑みを浮かべた。
「朝だよ」
「・・・・ほっぺが痛い」
「そりゃ、引っ張ってるからね」
「・・・なんで?」
「起きないから」
乙葉は手を離し、立ち上がった。
「準備、あるんじゃないのか? あと30分くらいで出発しないと、間に合わないぞ」
「え、うそ!。もう、そんな時間⁉」
慌てて布団から抜け出した美咲は、洗面所に駆け込んだ。乙葉は残されたくしゃくしゃの布団をたたみ始めた。
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「な、なんとか間に合った、みたいだね」
「そうだな・・・・」
(たぶん、ビリだろうけど)
出雲の某神社。人払いの結界内で全国津々浦々の陰陽師が集まっていた。スーツ姿の人もいれば、ギャルみたいなのもいる。
はたから見れば、なんの接点もなさそうな人たちの集まりである。
「い、いよいよだね!」
小声で乙葉に言った美咲はやる気満々の顔を輝かせた。
「お、久しぶりやな。あんちゃん」
いきなり、後ろから声が聞こえてきた。以前、学校に入ってきたやつだ。
「し、知り合いなの?」
「いや。知らない」
乙葉はその声のほうを見ようともせずに、美咲の手を取った。そのまま人込みの中に紛れ込む。
「まあま。話だけでもさせてくれへん?」
器用にも2人の前に割り込んだその男は、屈託のない笑みで話しかけてきた。
「なんの用だ」
「あんちゃんらは公開討伐出るん?」
「・・・・・ああ」
「そっかそっか。それならええんや。時間取らせたな。ほな、また!」
乙葉の、迷惑オーラを感じ取ったのか、それだけ言ってその男は去っていった。
「ね、ねえ、さ。・・・誰なのかな」
「昔少し話したことがあるだけだよ。とりあえずは、神楽に集中しようか」
「そうだね! でも他の地域の陰陽師とも交流があるなんて、すごいね」
「あいつぐらいだよ。それも俺はそんなに好ましく思ってないし」
「そうなの? ゆかいそうな人だったけど」
「確かに愉快ではあるな。だけど、めんどくさそうなのは間違いない」
「ん~、それは私もちょっと思ったかな。しつこそう」
※次回更新 5月9日 土曜日 0:00
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