第8話 登校


 「あ、あの、」


 「ん、ちょっと待って」


 乙葉は頭上で腕輪を振り、雑霊を払う。なるべくなら討伐関連のことは聞かれたくない。


 「よし。で、なに?」


 「えっと、それで私に指導はしてくれるの?」


 「ああ、君が望むのなら、ね」


 「うん、うん! よろしくお願いします!」


 乙葉が了承すると、美咲は嬉しそうに表情を緩めた。


 (根はいい奴みたいだな)


 そんな話をしていると、学校が見えてきた。2人が通っている高校だ。


 「なあ、少し思ったんだけど」


 「なになに?」


 「2人で登校したら不自然じゃないか?」


 「? どして?」


 美咲はきょとんとして、乙葉に尋ねた。


 「俺たち、学校で話したことないだろう」


 「あ・・・・・・・」


 (今気づいたのかよ・・・)


 美咲はあからさまに周りの視線を意識し始めた。うつむいて顔を隠すように歩いている。


 「・・・・先に行こうか?」


 「え?」


 「いや、俺が先に行けば気にせずに登校でき、」

 

 「待って!」

 

 「はい?」


 先に行こうとした乙葉のブレザーの裾を美咲はしっかりとつかんでいた。


 「き、気にしてないから!」


 「いや、でも」


 「いいから!」


 「・・・・わかったよ」


 乙葉が美咲の隣に並ぶと、美咲はようやく裾から手を離した。


 (なんなんだ、いったい‥)


 «お前、メガネかけてるよな?»


 (なんだ、起きてたのか、鴉)


 いきなり鴉の声が乙葉の頭の中に響いた。


 «今起きたところだ。で、どうなんだ? ちゃんと作用してるんだろうな»


 (大丈夫だ、しっかり作用している)


 乙葉は目を隠すために特別なメガネをかけている。乙葉の目は生まれつきの魅了チャームの魔眼である。といってもかなり弱いもので、戦闘ではせいぜい相手の警戒度を下げるくらいにしか使えない。


 しかし、日常では文字通り人を魅了してしまう。


 (でもこれ、無意識に発動しちゃうんだよなあ)


 魔眼はその力の代わりに、ほとんどの場合常時発動パッシブである。だからこそ、乙葉のメガネは必要不可欠なものなのだ。


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 (視線がつらい・・)


 通学路ではそうでもなかったが、2人が学校に入った瞬間に、周りの生徒がガン見してきた。


 (確かに美咲は美人だし、うちの生徒会長でもある。でも、別に男女二人組なんて珍しくもないだろうに)


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 2人は黙ったままで、教室まで向かう。というか、しゃべれるような雰囲気ではない。


 乙葉の教室の前まで来ると、美咲が口を開いた。


 「お昼って暇、かな?」


 「昼?」


 「うん、これからのこととか聞いておきたいから話したいんだけど、いい?」


 「わかった。どこに行けばいい?」


 「生徒会室に来て。昼は誰もいないから」


 「了解。じゃ、昼に」


 「うん、昼に」


 ※次回更新 3月4日 水曜日 0:00

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