内緒

 オレとセレスは真っ白な空間に2人で立っていた。


「これが空間神剣イペスか。初めて見るな」


 オレは落ちていた剣を拾い上げる。

 おそらくこの剣は迷宮で見つけたんだろう。

 迷宮はこの世界のあちこちに突如として現れるダンジョンのことだ。そこには、まだ見ぬ財宝や遺物などが眠っていると言われている。


「ガゼル………君は一体……」


 そんなことを思っていると後ろからセレスの声が聞こえる。

 今まで戦いの気迫に圧倒されて言葉も発することもできなくなっていたが、金縛りから解放されたんだろう。


「魔王って………それにその力は……?」


 今まで思っていたことが口からこぼれ出る。


「実はオレ、昔魔王やってたんだ」


 セレスになら大丈夫だろう、そう判断し秘密を打ち明けることを決める。


「えっ?魔王って、あの魔王?十数年前に勇者レリシアが倒したっていう……」


 魔王と勇者の戦いは今歴史の授業で習っているところだ。

 セレスは信じられないといった顔で目を白黒させている。


「まぁ、その魔王であってるぞ。正確には魔王は逃げて転生したんだけどな」


「………ほんとに?」


 急に魔王です、なんて言っても信じられないのは当然だろう、セレスは疑惑の眼差しでオレを見つめる。


「マジだ」


「……じゃあ、その転生したのがガゼル、君ってこと?」


「そういうことだ」


 だんだん飲み込めてきたようで落ち着きを取り戻していく。


「このことは誰にも言わないでくれないか?」


 どうして、とセレスが訊いてくる。


「オレは普通に平穏に暮らしたいだけなんだ。魔王だってバレたらきっと色んなことに巻き込まれる」


「……わかった。誰にも言わないよ」


 セレスも《転移魔法》を使えるせいで、色んなことに巻き込まれてきた。今回もそこに目をつけられ、逃走用に利用されようとしていた。

 そんなセレスだからこそ、平穏に暮らしたいというオレの思いがわかってくれたようだ。


「あ、そういえばガゼル、君はどうやって生き返ったの?殺した僕が言うのもなんだけど、確実に首をはね飛ばしたのに…」


「あぁ、そのことか。さっきも言った通りオレは首をはね飛ばされた程度じゃ死なない。オレの身体はちょっとワケありでな。今はまだ話せないが、いずれ必ず話すから待っててくれないか?」


「……分かったよ」


セレスは渋々納得してくれたようだ。


「それにしても……君ってなんでもありなんだね……」


 セレスが呆れたように呟く。


「じゃあ敵も倒したし、元の世界に戻ろうか。今回も裏切ったことはみんなに謝っとけよ」


「分かってるよ。人質をとられていたとはいえ、また裏切ったんだ。ちゃんとみんなに謝りたい」


 オレは空間神剣イペスを地に突き刺した。




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