第3話

 突然の二人きりー…。

 いや、別にそこまで考える必要なんかないよ。

 だって、たった一年だよ?

一年離れてただけで二人きりとか慣れてるし。

 小学校の時、こっそり二人で授業抜け出したり。中学一年の時、肩車してもらったり。

 そうだよ。何にも変わらないよ。


「ー…い。おーい?ふわりさーん??」


 目の前に手が振られた。


「あ、ハイッ!な、何でしょう?」


「ふわりのオジさんから、俺の部屋はふわりの部屋の隣って言われてー…」


「あ、うん。今から案内するね」


「ー…じゃなくて、もう一通り自由に見させて貰ったんだけど、その……ごめんな?」


「へ?」


 海夏君が謝るような事なんて無いはずだけど……。


「お前の部屋も見ちゃったから……」


「別に部屋くらい良い……ヨ…あああああ!!」


 だんだんと青ざめていく。


「いや、本当にごめん……実はお前にあんな趣味があったとは思わなくて……ククク」


 ドタドタドタバンッ!


 部屋に向かう途中背後でずっと海夏君が笑いを噛み殺しているのが聞こえたが、今はそれどころじゃ無かった。

 開ききったドアの先に広がっていたのは、女の子らしくない服がタンスをはじめ散らばった部屋。

恐ろしく汚い。

その原因は、今日の朝ー…。


「ない!ない!!靴下がなーい!!」


 タンスの中や机の下、布団、何処を探してもなかなか見つからなかった。

 山積みの中に挟まれていた片方の靴下を見つける頃には、部屋はもう散らかりゴミだめの中。


「やっぱり、人は見掛けによらねぇな!ククッ……まさかゴリラのパンツが趣味だったとは」


 パ……?

 部屋の端から端まで、舐めまわるように見る。

そしてようやく、見つけた。


「ち、チガッッ!!これはー…」


 慌ててゴミだめの頂にあるソレを剥ぎ取るように取り、見えないように隠す。

 恥ずかしくて、死ぬ!


「真白と遊んだ時にゴリラの顔が面白くて、ノリで!お揃い買ったの!!」


 顔が暑い。絶対に林檎みたいになってる。


「だからあたしの趣味じゃないッッ!!」


 そう言うあたしを海夏君はニヤニヤしながら見てる。

 絶対に「ふーん。そういう事にしてやるか」って思ってる顔だよ。


「海夏君のバカッッ!変態ッッ!!」


 一瞬きょとんとした顔をしたと思ったら、また一人楽しそうに笑った。

 この笑顔、懐かしいから何だか胸の奥がキュッてなる。

 怒ってるのも馬鹿らしくなって来たな。

でも、そんなに笑わなくても良いよね?


「怒った?ごめんってふわり!ねぇ、ふわり怒?怒なの??」


 あたしはプイッとソッポを向く。

もう少しだけ、ソっポ向いちゃうもんね!


「怒ですぅ〜〜」 





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