#04 on the Beach

「おーっ、いいねいいね、その表情かお!!」

「ほーらほら、そこでぶすーっとしない!! 爽やかスマイル!!」

「はーいはーい、お兄さん、そのポーズ頂きっ!!」


 ……おかしい。俺は一体何だってこんなことをしてるんだろう!?


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 あの、衝撃の(カメラとの)出会いからすぐ後。


「いやー、今日は眼福眼福、こんな稀少なカメラ、一生のうち何度お目にかかれるか」

 店長がまるで宝くじにでも当たったような満面の笑みで宣う。

「まー、世の中には面白いカメラがあるもんですね。……んじゃ俺はこれで……ヴぇっ!?」

 会計を済ませ、店を出ようとした俺の襟元が引っ張られ、思わず変な声が出た。

「待って」

「……き、急に引っ張らないでよ……ヴぇ……で、何?」

「まだ話は終わってない」

「話って……何が?」

「店長さんもさっき言ってた」

「だから、何を!?」

「カラーと、どっちが良いのか比べなきゃ」

!! ――あ、それか」

「そう」


「ははは、こりゃあ一本撮…取られたねー」

 店長はからからと笑い、俺たちを送り出したのだ。

 現像料の半額券を付けて。


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 ――そして、現在。


 俺達は『パインカメラ』から徒歩15分の海岸に居る。

 初夏とは言え夏休み前のため、人影はまばらだ。

 そもそもメインの海水浴場はもう少し先の方なので、ここはちょっとした穴場になっており、俺も海を撮りたい時にはよく来ている。

 それはいいとして――。


「ほらー、ぼーっとしないの。仕事しよ、仕事!!」

「そもそも仕事でも何でもねーっての!!」

「あららー、もう飽きちゃったの~?」

 唇の両端をと持ち上げてにや~っと嗤う。

 どうも彼女、普段とスイッチが入った時のテンションの落差が酷い。色々と。

「大体、海岸で何の取り柄も無い男子高校生の写真撮ったって面白くも何とも無いだろうがよ」

「――何の取り柄も、ねぇ?」

 ふっとスイッチが切れたように静かになる。やりにくいったらありゃしない。

「あーそっかそっか、それなら攻守交代、何の取り柄も無い女子高生の写真でも撮ってかな~い、お兄さん?」

 そうかと思うとこれだ。さっきのにやにや嗤いが復活している。これ絶対揶揄からかってる奴だよね!?


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「あっは~ん♥」

「うっふ~ん♥」

「チョットだけヨん♥」


 人気の無い浜辺で艶っぽい嬌声を上げる女子高生が一人。

 ……ほんとーに俺は何をやらされてるんだろうねぇ!?


「ちょいとお兄サン、悪いわよ?」

 一瞬の物思いの隙を突いて突如として目の前に現れるその当人。

 SPの暗めのファインダーが顔で埋め尽くされる。

「――わわわっっっ!! 近いっ!! 顔がっ!! あーびっくりした!!」

「あら~? 照れちゃってまぁ~」

 だからそのにやにや嗤いをやめろっての!!

「大体、キミねぇ? こうして行きずりの可愛いジョシコーセーがモデルやってくれるなんて幸運、そうそう無いと思うわよ?」

 アーソウデスネー。

「そう思ったらもっと気合い入れる!! それとも何? 能書きだけで腕の方はからっきし駄目なタイプ~?」

 む。

「そんじょそこらのカメラ小僧と一緒にすんないっ!! 俺は実践派なんだよっ!!」

「ほぉ。そりゃ楽しみだねぇ♪ それじゃお手並み拝見♪」

 ……なんかどーも、まんまと彼女にノせられた気がしないでもないが。

「いーぜ、こっからは本気マジで撮ってやらぁ。覚悟しろよ?」

「……それ、芸術のために、とか言って脱がせにかかる前フリ?」

「そう言いながら脱ぐなー!! 誰が言うかー!!」

 ……し、心臓に悪い。

 まぁ、彼女もどうせこっちを揶揄からかってるだけで、脱ぐのはだけだろうし――

「――ってコラ!! ホントに脱ぐな!! 誰か来たら大変な――!!」

 本当に上着を脱ぎ始めた彼女を焦って止めようとすると、またもやにやにや嗤いで返された。

「暑いから上着脱ぐだけなんだけど~? まさかその先まで期待しちゃった~?」

「――☆△●!!」

 あーもー!! これだから、これだから、女って奴は……っ!!


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 最後の行は現在ではコンプライアンス的にアレかもですが、飽くまでも「主人公の心情表現」ということですので、ご寛恕の程を。m(_ _)m

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ピュアクローム・ガール ひとえあきら @HitoeAkira

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