「彼女は踊った」メイキング

悠井すみれ

第1話

 昨年末から開催されていたこむらさき様主催の自主企画、第一回こむら川小説大賞(https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054893286563)に、私は「彼女は踊った」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054893374440)で参加させていただいておりました。

 主催者および闇の評議員の皆様から講評をいただいたこと、また、イトリトーコ様主催の自主企画「小説の書き方・自作解説・創作論・魂の叫び…などの集会所」(https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054893779648)が開催されていることを受けて、蛇足ながら拙作の解説というかどのような経緯と発想で書いたのかを語ってみます。




 こむら川小説大賞ですが、「進捗ケツバット」と掲げる通り、「とりあえず書いてみよう、完結させてみよう」「未完の傑作より完結済の駄作」というような精神が主催様周辺にあると私は(勝手に)認識し、その趣旨に強く賛同しています。また、評議員(審査員)お三方からの講評と、参加作者の皆さまからの自主的な感想が確実にいただけるというのは自作の客観的な評価のためには大変貴重な機会だと思います。

 ですので、企画開催が発表された時点で参加したいとは思っていました。が、問題は、昨年末の私は公募向けとカクヨムコン向けの二つの長編プラス小説家になろうでの連載作他を抱えて余裕のない状況でした。ので、参加するとしても掌編にするしかないなあ、と思っておりました。


 下限3000字ぴったりの作品にしてやろう、と考えたのはこの段階です。というのも、企画開始数時間後には既に複数の参加作品が投稿されており、早さではどうやっても敵わない状況になっていたからです。内容で抜きん出たものが書ければ良いとは言え、都合よく名案が降って来るとも限りません。多くの参加作の中で目立つとしたら、最低限の字数で刺すしかない! という訳です。また、普通に考えて良く知らない書き手の、(企画上限の)1万字近い作品を読むのは少々ハードルが高いです。★の数や読了の賑わいで人目を惹くことができれば良いとは言え、都合よく(略)。


 そして、3000字ぴったりを攻めるのを決めた理由がもうひとつあります。主催様周辺で、「3000字でストーリーを見せるのは難しいのではないか」「一場面を切り取った話が精一杯では?」というような(うろ覚えなので厳密にこういう表現ではなかったかもしれませんが)やり取りがあったのを観測したことです。

 それを見ていた私は思いました。(3000字、やろうと思えば結構できるけどなあ……)と。小説家になろうの方では2000字制限の企画に参加したことがあったり、今回と同じ3000字程度で自分的には中々よくできた作品が書けたことがあったりした経験から、ですね。


 という訳で「3000字ぴったり」で「起承転結がある」短編を書くことが決まりました。次は題材です。評議員の好みが吸血鬼ものと聞いて、その方面で考えようともしたのですが上手くまとまらず……結果的に、以前からほんのりと温めていた、童話「赤い靴」から着想したアイディアを膨らませて変形させることにしました。




 もともとのアイディアは「(赤い靴を履いた子のように)踊ることが大好きな少女が、踊りたい一心で成り上がる。しかし踊ることしか頭になかったがゆえに騙され利用され罪を押し付けられ、処刑台に上ることになる。絞首台からぶら下がる彼女の足は、まるで踊っているようだった」という感じのものでした。少女の幼馴染で、住む世界が変わった彼女を遠くから眺め続け、処刑を見ることになった少年の視点のつもりだった気がします。大まかな構図は、公開版の「彼女は踊った」と同じですね。原案と「彼女が踊った」の違いは大体以下の通り


1.(ぼんやり貴族の愛人になって~~などと考えていたので)舞台をより近代に

2.(アントワネット的に浮ついた女の子のイメージだったので)「彼女」を浮世離れした舞踊の天才に

3.視点人物である「私」に、「天才に及ばないがその才能は理解できる秀才」という属性を付与


 1.~3.のいずれも、「私そういうの好きだから」程度の、さしたる深さもない理由で決まっていったような気がしますが、創作論的にも一応意味がない訳ではない……かもしれません。


 1.は、舞台設定に費やす字数を減らせそう、ということ。原案のままだと、貴族社会の階級だとか身分差だとか成り上がる過程だとかを描写することになるので、必要な場面=文字数が増えることが予想されます。それよりは、ざっくりと恐怖政治の国ですよ、と匂わせる方が楽……だと思います、多分。「新聞」「銃」など、比較的分かりやすい、イメージを限定しやすい単語を使えるのもポイントですね。

 2.は、短い尺の中で「彼女」の鮮烈なイメージを残すために。貴族社会で成り上がり、そしてドロップアウトした少女、も悲劇的だし私の好みではありますが、「誰もが恐怖に怯えて顔を伏せ目を背ける社会の中、ひたすら舞踊への情熱で命を燃やした天才」の方がイメージは強烈でしょう。1.の舞台設定の変更も、こうなるとより「彼女」を際立たせることができそうです。

 そして3.も、「彼女」をより輝かせるための比較対象として平凡な「彼」の目線が必要だったから、ということになるのでしょう。普通の人が語らないと、天才の輝きもある種の狂気や異常さも伝わらないものですから。個人的な信条として、恋愛感情だけの関係よりも、それに加えた嫉妬や憎悪や羨望といった感情が篭った矢印の方が、より強く人の心に刺さるものだとも思っています。読者が感情移入するであろう視点人物「私」が「彼女」への賞賛を惜しまないことで、読者にも「彼女」の像が印象的に浮かび上がらせられたら良いなあ、という計算でした。




 さて、構想が概ね固まったところで執筆開始です。2019年12月31日の夜だったと思います。よゐこチャンネルを見ながらキーボードを叩いていました。


 企画中のご感想等で、3000字なのに情報量が多い! と言っていただくことが多かったようなので、少ない字数に押し込むために心がけていることを幾つか。


・固有名詞は出さない

 国名や人名など、積もり積もれば字数を食われるので「私」「彼女」「この国」で通します。描きたいのは彼女の生きざまであって、名前や舞台設定や歴史背景はノイズなのです。ノイズはばっさり切り落とします。あと、これは今言語化したのですが、「私」にとって「彼女」は「彼女」でしかなかった、という発想は良いものだと思います。名前などどうでも良く、「彼女」という存在だけが「私」に深く刻まれていてそうとしか呼べなかったのでしょう。


・説明しない

 描きたいのは彼女の生きざま(略)なのです。「朝刊に処刑者リストが載っている」「処刑見学は国民の義務」「かつてはこの国にも芸術に財源を割く余裕があった」などの断片的な情報から、「大幅な政治体制の転換があって極端な思想のもとに独裁・恐怖政治がおこなわれている」くらいにざっくりと理解してもらえればOKです。このあたり、現実の歴史をある程度知っていたり、ディストピアSFに親しんでいたりする読者なら「あーあんな感じね」で通じる……と思うのですが、興味関心の偏りによっては全く通じないかもしれません。が、大体分かるだろうと信じて描写説明を削ぎ落すことになります。ここでは読者を信じるしかないのでドキドキです。


 説明しない、で言うと、「私」が「彼女」をどう思っているか明言していないのもこだわりかもしれません。好悪、愛憎、嫉妬、憧れ、いずれの感情が彼を刑場に向かわせたのかは読者のご想像にお任せします、となっています。が、「彼女」をどれだけじっくり見ていたか、心の奥底に刻んでいたかを吐露させることで、その答えになっていれば良いなあ、と思います。


 そして初稿が完成&字数調整が完了したのは2020年に突入した直後、だったと思います。構想が固まっていれば書き上げるのは早くて済みますね。冗長な表現やなくても通じる形容詞を削ったり、最終的には句読点で字数調整したりは、公募で規定枚数と戦ううちにある程度慣れるもので……。




 以上、「私は踊った」のメイキングでした。本編よりも解説が長いという不格好な有り様ではありますが、何かしらの参考になれば幸いです。

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