第25話 ヒロインの狙いは……




 ◇ ◇ ◇




 魔法学院は五日に一度、王立学園は三日に一度、お休みがある。


 全員の休みが一日中重なる日はとても少ないので、その日は冒険者ギルドの依頼はで受けずに、揃って遠出をすることにした。

 お金を稼ぐことが主目的ではないので、悪目立ちしないための対策として、ダンジョンに潜ることにしたのである。

 あそこは国の管轄なので、ギルドの依頼を受けなくても入れる。入り口にいる騎士団の詰め所で滞在時間と名前を報告すればいいだけなので、ちょうど良かった。


 危険はあるが、優秀な従者達がいるし、短い時間しか捻出できない彼女達が効率的にレベル上げをしようと思ったらそれぐらいの無茶は必要だという判断をしたのである。

 ただ王都から行くとなると、シリル所有の魔法がかかった馬車を使ったとしても往復で四時間の場所にある。

 門限のあるヴィヴィアンとフレデリックはあまり行けていないので、徐々にシリル達とのレベル差は開いてしまっていた。


 その他にも、予定を合わせて数時間だけ一緒に活動する日もあれば、魔法学院組と王立学院組に分かれて別々に討伐に向かう日もあったが、何気に高スペックな四人は順調に経験値稼ぎをしていった。




 ――そうして、更なる魔力量の増量とパーソナルレベル上げに力を入れて過ごし、一ヶ月ほど経った頃……。


 ヒロインのヒューシャ男爵令嬢の情報も少しずつ集まってきた。


 初めはシナリオを逸脱した行動をとることも多いので、自分たちとそう変わらない知識量の持ち主かと思った事もあったのだが、調べていくうちにそうではないことも分かった。


 影達の報告では、シナリオとかゲームとか悪役令嬢とかの聞き慣れない単語を、ぶつぶつ呟いていたところに遭遇したと言うのだ。

 だから引き続き、自分達よりは細部まで覚えているっぽいヒロイン枠のヒューシャ男爵令嬢を見張ることにした。




 残念ながらシナリオをそんなに細部まで覚えてないヴィヴィアンとフレデリック。

 二人共、自身でプレイしていないし、それぞれの友人や妹が好きな場面を語るのを話半分に聞いていただけのソフトユーザーだ。


 ヴィヴィアンが悪役令嬢に関して記憶が鮮明な部分があるのは、断罪の最後がどれも悲惨すぎて忘れられず、残ってしまっていたのだろし、フレデリックが 攻略対象者の出会いだけはやたらと詳しいのは、その場面が大好きだったという妹から、繰り返し聞いていたからだ。知識が片寄っているのである。




「メインの攻略対象である五人の他にも、ワンコキャラとか弟キャラとか、そういう人がいませんでした?」


「ええ、他にも癒しキャラとかお助けキャラとかもいたと思います」


「……そう言われるとうっすらと思い出せるような?」


「僕も何となくは覚えてはいるんですけど……ダメですね、個人名までは忘れてるんですよ」


「分かります。皆さん、やたらとキラキラしい西洋風のお名前で長かったですし、人数も多かったんですもの」


「そうですよねっ。僕、前世では、カタカナの名前を覚えるのが苦手で世界史とかダメだったんですよねぇ」


「分かりますわっ」


 ヴィヴィアンも前世で同じく苦労した事を思い出す。


「それに妹は他にもいろんな乙女ゲームをプレイしていたので、余計にごっちゃになってしまっているんですよ」


わたくしの友人も一緒ですわ……どのタイトルも楽しそうに話してくれたんですが、わたくしには皆、同じように見えてしまって……友人一押しの第二王子殿下以外は名前以外の部分も曖昧なんですの」


「興味がないとそんなものですよ。僕も一緒ですって」


 そう言ってフレデリックも苦笑した。二人とも、この世界に転生するとわかっていたらもう少しちゃんと覚えておくんだったという思いをずっと持っているので、お互いの気持ちがよく分かる。ヴィヴィアンも思わず苦笑してしまった。




「……そういえばあのヒロインのヒューシャ男爵令嬢……チルチルとミチルみたいな名前の…… 何ておっしゃったかしら?」


「ルチル嬢ですよ」


「そうそう、そのルチルさんの狙いは分かりましたの?」


「影の報告では、おそらくですが第二王子殿下が一番の攻略候補なのではないかと」


「まあぁ、殿下を? よくあんなのと恋愛しようと思えますわよね。わたくしには無理ですわ」


 ヒロインさんは前世も平民で今世も元平民ですのに、本当に攻略なさるおつもりなのでしょうか?


「え……どうして? 殿下って格好よくないですか?」


「限度があります。あれでは眩しすぎますもの。お側にいると気が休まらないですわ」


「ああ、そういえば、何か無駄にキラキラと煌めいているよね、彼」


「ええ、ああいう方はそう……例えば前世のアイドルみたいに、一方的に恋心を捧げるようなのが丁度いいんです」


「成る程。そういうもんなんですね、何か分かります」


 首を傾げてフンフンと頷くお顔が猛烈に可愛いなと思いながら、美少年のあざとい仕草を眺める。


 前世を思い出してから、以前は何とも思わなかった攻略対象の顔を意識して見てみて、少し感動したのを覚えている。

 例えるなら、実写化に完璧に成功したものを目の前に提示された感じだろうか……スチルにはない圧倒的な魅力は生身だと迫力があり過ぎた。





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