第7話 どっちが主人なんだか……



 そこで専属の戦闘メイドに護衛させる他にも、誘拐などの事件防止のためにと高価な防犯グッズを買い与えられている。

 それが、常に持ち歩くようにといているブレスレット型魔道具『発見君ハッケンクン』である。


 ……この安直なネーミングセンスはどうかと思わないこともないが、ともかく『発見君』は彼女の所在地を随時、二人のメイドへと知らせてくれている。高価なだけあって、素晴らしく便利で優秀な魔道具なのだ。

 そう言えば、前世の知識にもGPS機能という、同じような性能を持った技術があったなあと思ったものだ。向こうは科学、こちらは魔法という違いはあるけれども、人間の考えることは世界が違ってもよく似ているといったところなのか……。


 メイド達が、こうして計ったようなタイミングで出迎えられるのには、そうゆう事情があったのである。


「送っていただきまして、ありがとうございます」


「どういたしまして。では、今日はこの辺で」


「ええ、これからよろしくお願い致しますわ」




 背を向けて、男子寮へと向かう彼の後ろ姿を見送りながら、攻略対象のイケメン全てを回避できなかったのは痛かったが、まさかその中の一人からこんな協力を得られるとは……と複雑な思いを持った。


 得難いことではあるし嬉しいのだが、ヒロインが押し掛けてくる可能性が上がったかもしれない……ということを考えると、果たしていいのか悪いのか。



 ――判断に悩むところである。



「お帰りなさいませ、お嬢様」


「お早いお帰りでしたが何かございましたか、お嬢様」


「まあ、色々と……ね?」


「なんですか、色々って。また何か厄介ごとですか」


「早く白状なさった方がよろしいですよ、どうせ最後には全部教えていただくことになるのですから」


「ちょっとあなた達、うるさいですわよ!?」


「「お嬢様が一番うるさいです」」


「……っ!」


 ――彼女たちは乳姉妹なだけあって遠慮がない。その上このように、ひとこと言い返すと二倍になって返ってくる。

 双子な分、息がぴったりで口を挟む隙がなく、尚更、厄介なのである……勝てる気がしない。




 ちなみにこの二人には乙女ゲームの記憶についても、何だかんだでバレてしまったというか……。


 ――あれは衝撃的だった王立学園の入園式後のこと。


 怒涛のように押し寄せて来る前世の記憶から、自分が悪役令嬢だと気づいて動揺し、へこんでいたのを目ざとく気付かれてしまったのだ。

 二人は双子ならではの絶妙な連携をみせ、飴と鞭の使い分けで何があったのかを根掘り葉掘り主人から聞き出したのである。乳姉妹の勘は、本当に鋭くて困る。


 ただ、さすがにこの世界が乙女ゲームと類似しているという事や、違う世界で生きた前世の記憶があることまでは言えず、破滅する未来の予知夢を見てショックを受けたのだ……とだけ伝えてある。


 普通に魔法の存在する世界なので、少々の不思議は疑問を持たれず受け入れられる下地があるのが幸いした。


 二人も多少は訝しんだようだが、ヴィヴィアンの言うことを信じてくれて、そういう事情ならと色々調べてくれた。


 この魔法学院への入学を勧めてくれたのも、実は彼女達なのである。



 ――うちの戦闘メイド達は、基本的に主人に忠実で有能なのだ。



 時には、それって主人に対する態度じゃないんじゃないの……とか、色々言いたい事はあるのだけれど、それを補って十分すぎる程で……。


 前世で庶民だった記憶を取り戻してからは、その方が気安くていいかもと思ってしまっている自分もいるので複雑なのである。




 そんな優秀な戦闘メイドの二人に、一人で対抗できる筈もないのはお分かりいただけるだろうか……。


 結局いつものように、女子寮の最上階にある自分の部屋に戻った途端、洗いざらい打ち明けるはめになってしまったのだった。



 ――アリスの美味しい手作りケーキと引き換えに……。


 おかしいですわね?


 主人はわたくしの筈ですのに、何故こんなにも立場が弱いのかしら?


 ……そりゃあ、毎回、食べ物に釣られるわたくしも悪いですわよ、ええ。


 でも仕方ないじゃありませんか。アリスの作るケーキは絶品なんですもの! 


 体型維持のためにと中々食べさせてくれませんし……こんなチャンスは逃せませんでしたの!



 双子には胃袋をガッチリ捕まれている他にも、三年後の断罪回避に向けての対策も一緒に考えてくれている。何から何までお世話になっているのだ。


 困ったものだが彼女達の行動は全て、主人の事を第一に考えてものだと分かっているので、しっかりものの双子の姉妹に、いつも強く出れないヴィヴィアンなのだった……。




「……成る程。つまり、フレデリック様もお嬢様と同じ未来視を体験された……と」


「ええ、そうなんですの」


「お嬢様お一人だけならともかく、他にも同様の方がいらっしゃったとなると……これはもっと真剣に取り組まなくてはいけませんね、セレス」


「ええ。勿論ですわ、アリス。今日からでも警戒レベルを上げましょう」


 今回も上手いことやって主人から話を聞き出した双子は、顔を見合わせると真剣な表情で頷き合う。





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