長男に届いた人形

長男に届いた物

 日曜日の朝だ。天気は上々、平日よりは遅い時間に洗濯物を干し終わり、ちょっとお茶でもと思った時、玄関のインターホンを押す音がした。

「宅配でーす。」

 また、夫が何か買ったのだろうか?

 "…?…"

 宛名は長男になっていた。大学生の長男はスマホとバイト先を手に入れてから、ごくたまにネットでの買い物をするようになった。でも、それはいつも"ミュージック"とか"楽器"という文字の含まれる名前の会社からで、バンドサークルに入っている長男らしく中身はCDや楽器の部品だったりした。

 しかし今回の長男あての荷物はフリマサイトからで、内容物は人形とある。

“.人形…?…人形?…人形⁉︎"

 15×20×8センチくらいの箱をふるとガサガサという保護材らしき音とかすかにコトコトと軽い物が箱の内壁にぶつかる音がする。

 "私はひょっとして見てはいけない物を見てしまったのか?"

 じっと箱を見つめていると。中に横たわる人形が見えてくるような気がした。

 ウルトラマンとか、仮面ライダーとか?

 確かに夫に似て趣味の範囲が多い長男は音楽だけでなく、あらゆる物に興味をもち、ウルトラマンや仮面ライダーなどの意外と深い設定や自分の見解について弟達に熱く語っている時はあった。

 だがしかし長男の趣味はあくまでも、広く浅くであり、しかも何かを収集するようなことはなかったはず。はず…だけど?

 "ウルトラマンとか…かなぁ?"

と考えて、さらに箱を見つめていると、また新たな物が見えてきたような気がしてハッとした。

"まさか…まさか…魔女っ子とか…ロリ系とか、とにかく少女をかたどった……⁉︎"

その可能性に、とたんにモヤモヤした思いが胸に上がってくる。

"いやいや、そんな趣味があるなんて…!"

 幼女の人形に喜んで頬ずりしている長男の姿が目にうかぶ。

思わず両手で頭を抱え込みそうになったとき、後ろから長男の声がした。

「おはよう。」

いつもどおりの長男だ。出かけるつもりかデニムのジャケットを着て車のキイを手にしている。

「お…おはよう…」

一瞬、とまどった後

「さっき、あんたに宅配…届いたよ」

と平静を装って声をかけて、箱を差し出す。

 はたして、わが長男は焦るのか?慌てるのか?その反応をドキドキして見ると、長男は

「あぁ、届いたんだ。」

と、何事もないように箱を受け取る。

「人形…って書いてあるんだけど…?あ、あれ…かな?…ウルトラマンとか…仮面ライダー…とか?」

「違うよ。」

「え?え?え?じゃあ…」

何?と聞きかけて、これ以上聞いていいのか悩む。

「俺のじゃないよ。人に頼まれたの。ネットショッピングができないからって。」

どうでもいいように長男が言った。

「あー、なるほど」

と少し安心すると、今度はやはり中の人形が気になってくる。

「ふーん、じゃあ人形って、何の?何の人形なの? まさか…魔女っ子とかロリ系とか〜」

"それにしてもネットができない人って、今時珍しい大学生ね。"

などと思いながら、からかい気味に聞いてみると、

「ち〜が〜う〜よ!」

という返事。

「じゃあ、なによ?」

と、長男の顔に顔を近づけて聞いてやる。

長男は一瞬、怯んで後ずさるとこたえた。

「キティ!キティちゃんってやつ!」

"男子大学生がキティちゃん?"

思いがけない箱の中身を聞いて ''へ?" という顔になる。そして次の瞬間に頭に浮かんだ考えを言葉にしてみる。

「あー…ははーん…そういう事か。頼まれたと言っても、お金はあんたが払うのね。キティちゃん好きな女の子がいるんだな〜」

思わず長男の頬を指でグリグリしようとすると、素早く防御された。

「ちがーう!女の子じゃない。ついでに言うと学生でもない。」

 ふたたび "へ?" と思っていると、今度は長男がニヤニヤしてこちらの反応を楽しんでいる。

「じゃあ、誰よ。誰があんたにキティちゃん買わせたのよ?」

こちらの予想をことごとく裏切ってくる答えに少し不満顔でいうと、長男は靴を履きながら言った。

「30過ぎの刺青入ったおっさん。おっさんからキティちゃんを頼まれたの。もちろんお金はもらうよ。」

「はぁ〜⁈おっさん?おっさんがキティちゃん買ったの?」

私の反応を楽しそうに見ると

「そう。おっさんのキティちゃん」

とニヤニヤしながら長男

"いやいや、なんだそれ? 長男もしくはおっさんがロリ系とか魔女っ子を買ったっていうなら納得するぞ!でも、おっさんがキティちゃんって謎しかないぞ?"

と、あらゆる思いが頭が駆け回っていると

「じゃあ、」

と立ち上がり出て行こうとする長男、

「ちょっ…ちょっ…ちょっと待ってよ!」

と謎を解くべく引き止めようとしたが、

「いってきま〜す!」

と笑いながら長男は出て行ってしまった。

"おっさんのキティちゃん"

'それを頼まれて手に入れた息子…"

考えれば考えるほど謎が深まる日曜日の朝だった。








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