お題:鏡

 空に浮かぶあれは何だろうか。

 まるで、この世界が映された様なあれは。

 というか、私の──この国に住む者なら、見知った場所、王城が見える気がするのだけれど。

 でも、私以外は、誰も気が付いていないみたい。

 みんな、一所懸命に日常を営んでいる。

 気が付くと、私の手には一本の刀が。どう見ても業物だ。

 何故こんなものが私の手の中に?


 切っ先を見つめていると、意識を刀に持っていかれそうになる。危ない。これは、光の明滅で相手の意識を逸らす刀じゃない。──正しく、刀身の向こう側の世界に引き込もうとする、生きている刀なんだ。

 故に、私はこう名付けた。


 ──神刀【天照あまてらす】と。


 その瞬間、刀が私に応える思念を送ってくる。やっぱり、生きていたのね、あなた。


 突然、悲鳴が上がる。

 その方向を見ると、光を反射する不定形な〝何か〟が何十体と現れていた。

 あれは──この刀と同じ。鏡合わせむこうの世界へ引き込む存在。

 私の体は、自然と動いていた。

 その名に相応しい〝業火〟を纏った【天照】でひとつの太刀を繰り出す。

 何故か、立ち回り方が分かる。

 不定形な物体──そうね、現世うつしよから隠れた世界、隠世かくりよから現れた物体だから、隠者とでもしましょうか。

 隠者を一体、切り捨ててはすに構える。

 ──【天照】が「こう使えばいいよ」と、思念を伝えてくる。

 ほんとうに? 信用するわよ?

 私は、刀を地面に突き刺し、こう唱える。


「《──天照よ・全てを燃やし尽くせ》」


 次の瞬間、隠者の足下から火柱が上がり、溶かして消滅させてしまった。


 うん。これでいい。

 あとは、あの【鏡】。

 あの【鏡】はまずい。

 この子が伝えてくる思念で理解出来たけど、あの向こう側は、非物理的階層アンフィジカルレイヤー──物理的な〝概念〟は〝存在〟することが出来ない空間だ。

 それも、一度迷い込むと二度と元の世界に出られない。

 あれは、多次元歪曲空間層だから、四次元的な方向感覚を持っていたとしても戻れないだろう。

 このままでは、この世界が壊される。どうすればいい?


 また、【天照】が思念を送ってきた。でも、これは──いや、これしかないのか。【君】が【私】を選んだ時点で、薄々気付いては居たよ。

 君達隠者・・・・──ううん。【神】の目的が、私だってことを。

 そうでしょ? 太陽神【天照大御神】様?

 ……分かりました。


「《隠世よ・我を贄とし・その鉾を収め給え》そして──二度と迷惑を掛けるな。《業火の炎よ・全てを焼き尽くせ・我が意思消えるまで》」


 その瞬間、一つの世界から──否、その世界の多重並行世界パラレルワールドからも、一人の少女が消えた。

 その少女の行方を知るものはいないが、その時、遥かな上空で炎の様な物を見た者が居たという。

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