ともだちの魔法は星の色~その転校生、のじゃロリ魔法少女につき~

ひさなぽぴー/天野緋真

第1話 青い色の流れ星

 夏祭りからの帰り道。お父さんに手を引かれて歩くわたしは、何気なく空を見上げて「あ」って声を上げた。


「どうかした?」

「流れ星だよ」


 お父さんに聞かれて、食べ終わって持て余していた割りばしを持った手で、空を指さす。

 それにつられたお父さんが空を見て、「おお」と感心した風に言った。


「きれいな流れ星だねぇ」

「うん」


 そう言ってる間に流れ星は消えちゃったけど、でも、本当にきれいだった。


「ああでも、ちょっと残念……」

「どうしてだい?」

「だって、願いごと言えなかったもん」

「ははは、なるほど」

「三回も言わなきゃいけないの、絶対多いと思う……」

「そうだねぇ、流れ星すぐ消えちゃうもんねぇ」


 ほんと、なんで流れ星すぐ消えちゃうの?

 叶えてほしいお願い、たくさんあるのにな。

 サンタさんはおもちゃとか、形のあるやつだから、そうじゃないやつ。そういうの、叶えてもらいたいのに。


「うーん……じゃあ、できるだけ短い願いごとを考えるのはどうだい? それならもしかしてチャンスがあるかも!」

「短いお願い……うーん……」


 お父さんは「グッドアイディア!」なんて笑うけど、わたしはそうは思えなくってぷくりとほっぺを膨らませる。


 うん、そうだね、短かったらきっと行けるよね。

 でもできないよ、そんなの。だって、あれもこれもっていっぱい考えちゃう。それを短くするなんて、できないもん。


「ははは、そうかもしれない。でもね泉美いずみ? 前もって考えとけば、急に流れ星が来ても慌てずに済むじゃないか。そしたらちょっとくらい長くっても、行けるかもしれないだろ?」

「おお。お父さん頭いい!」

「はっはっは、だろー!?」


 嬉しそうにお父さんが笑う。


 そっか、防災グッズみたいに考えとけばいいんだ。

 そんな風に思ったら、別に少しくらいいいかなって思えた。


「で? 泉美はお星さまに何を願うのかな?」

「んー……内緒!」

「えー、いいじゃないか、お父さんには教えてくれよォ」

「ダメ、絶対内緒だもん」


 ぷいって顔を背けたら、お父さんが「けちー!」ってスネた風に言う。


 でも、これは言えないもん。

 言ったらきっと、お父さん心配するもん。

 だから言わないんだもん。言えないんだもん。


「あ! 泉美! ほら流れ星! 第二弾が来たよ!」

「えっ、ほんと!? ほんとだ!」


 お父さんにつられて空を見たら、ほんとだった。

 黒い夜の空をまるでハサミで切るみたいに、青い流れ星がまっすぐ走ってた。


「ん……っ!」


 思わず流れ星に手を合わせる。隣で、お父さんもおんなじことをしてた。


 間に合えー! そう思って、わたしは必死に願いごとを心の中で繰り返す。


 わたしの必死さにこたえてくれたのか、その流れ星は意外と長持ちしてくれた。でもわたしがお願いし終わったのはギリギリだったから、やっぱり流れ星ってあわてんぼうだと思う。

 まあでも、今回は三回お願いごと言えたし、怒らないであげよう。


「……やー、やっぱりダメだったよ。泉美はどうだった?」

「えー? 内緒」

「ん? そう言うってことは行けたんだなー? なんだよぉ、教えておくれよぉ」

「ダメ、内緒!」


 さっきも言ったけど、これはお父さんには内緒だもんね。


 自分で自分にうんって頷いて、わたしはもう一度空を見る。

 もちろんもう流れ星は見えなくって、そこにあったのはいつもの夏の夜空だけで……。


(……叶えてくれるかなぁ?)


 あの青い流れ星は、ちゃんと聞いてくれてたかな。

 聞いてくれるといいな。

 叶えてくれるのが無理でも、ちょっとだけ手伝ってくれたらいいな。


(……親友がほしい)


 念のためもう一度、心の中でお願いして。

 わたしはなんでもないように、お父さんに笑いかけた。


 夏休みがもうすぐ終わる、八月のある日のことだった。

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