空にあいた穴



冷たい空気が纏わりつく、そんな夜

吐く息は実体をもってわたしの周りを漂った



苦手な季節の数少ない好きなもの

雲一つない空

まばゆい小さな光が

ここぞとばかりに輝いている


プロキオン オリオン 久しぶり

シリウス また会えた


日付けの境目。あいまいな時間。

誰もいないのをいいことに

お星様にあいさつだ


ベガ アンドロメダ 元気でね

アクトゥール スピカ もうちょっと



冬の星座に戻ろうと再び空を見上げると

そこには そこには そこには 何もなかった。

瞬きを何度してもプロキオンは

駆け寄ってこない


慌てて辺りを見ると

わたしの上だけ何もない。

すっぽりわたしの上だけ何もない。


それはまるで大気の目のよう

深く 深く 奥深く

ただずっと澄み切った瑠璃紺の闇が

続くだけ。悲哀に満ちた目をしてた。

今まで感じたことない寒気と永遠の孤独が

わたしに降り注ぐ


ゆっくりはらりゆるりと降り注ぐ

淡く柔らかな雪のように降り注ぐ


触れようと手を伸ばすと

なにやら小さな音がした。

これは誰にも届くはずのない

空の鼻歌

雲の口笛

宇宙の独り言

様々な声がぎゅっとつまった密度の高い音


黙ってただただ耳を傾ける うんうんそうだね

それが嬉しいのか目から音が溢れ出す


そんなことがあったんだ


溢れて溢れてとまらない

わたしの周りは銀河系となっていく。


だんだんと細やかに音は弾けていく


ずっと一人で寂しかったね


満足したように音は弾み上がる

チャラリンポラリントゥララティリン


わたしはずっと一緒だし

私はあなたのなかにいるからね


通うじあって、笑いあって

消えてなくなる寸前に

十滴の太陽色がとろりと

手の平にのかって 瞬間に消えていた


それがあまりにもおいしそうだから

勢いよく飲み干す

冷たい空気が逃げ去って

体の中にのどかな風が吹きぬける


夜明けがもうすぐやってくる




わたしはまた青白い空を見上げて

春の星座を歌いだす。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る