第8話 砂が降り掛けられたタコは食えない

 

 



 

 長閑だった公園から一目散に人々が避難した中、流れに逆らい向かう2人。


 目視した怪人は、老人を自らの赤い触手で絡めて頭上に掲げている。


 300m先、走っても30秒以上は掛かる距離。明らかに間に合わない距離を前に、イエローは高らかな笑い声を上げる。


 その顔はおもちゃで遊べる時の無邪気な子ども。


「あっはははは!! 先手必殺!! バンバーン!!」


 両手を前に出して狙いを定めていないかの様な早撃ち。


 舌舐め摺りをして狙う様は、一体どちらが捕食者なのか。


 イエローの眼前に出現した二丁のライフル光銃が弾丸を放つ。


 一発がタコ怪人の足を千切れさせ、もう一発がタコ怪人の眉間を寸分の狂いなく貫いた。


 空中から放られた老人は、ブラウンが土を操作して受け止める。


 怪人の運が悪いのか、ブラウン達の悪運が強いのか。怪人が出現してわずか30秒。普通なら全国でテレビ放映されてもおかしくないレベルの討伐速度だが、野次馬さえ出来る間もなく呆気なく本日も終わった。眉間を貫かれて墨の様な脳漿を撒いて破裂したタコ怪人は、哀れ簡単に退治されたのである。


 なお、ヘドロの血をモロに被ってしまった老人は一瞬で気絶である。


「あははは!!! ねえ足りないよ!! もっとバンバンさせてよ!!」


 物足りなかったのかもう十発ほど弾となるエネルギーを込めようとするイエロー。タコ怪人を見る影もないたこ焼きの具、もとい細切れにしようとした所で、横からブラウンに頭をポンポンと叩かれた。


「処理が面倒だろ。ほら、行くぞ」

「……ちぇー」


 途端に目の色の熱が冷めて唇を尖らすイエロー。ハイになりやすいが、ごねずに言うことを聞くのも彼女が戦隊員でやれている理由だろう。


 辺りに漂う悪臭にげんなりしつつ、土を動かしてとりあえず現場を綺麗にするブラウン。後処理はよくやっているので手馴れたものである。ちなみに、この後警察が現場検証に来たり博士に連絡したり、清掃などの事後作業もあるがそこから先はブラウン達の知る所でない。


 老人を少し離れたベンチに寝かして、人がわんさか来る前に着替えてずらかる2人だが、ブラウンはころころと石をつまらなさそうに蹴るイエローへと声を掛けた。


「イエロー」

「なーに?」

「さっきは見事だったな。よくやった」

「…えへへへ」


 日中よく寝惚けているブラウンに褒められるのは珍しい。一瞬動きの止まったイエローは、父に褒められた幼子の様に照れた顔で笑った。


「今の孤児院は楽しいか?」

「うん楽しいよー。チビ達は元気だし、せんせーは優しいし」

「そうか。学校はどうだ」

「つまんない。追い払っても絡んでくる男子ばっかなの」

「そうか」


 イエローは無邪気さや破天荒なまでの天真爛漫さを持っているが、よく言えば明るいムードメーカーであり容姿も愛らしい。目立つ容姿と戦隊員ということもあって人気であるのだろう。


 ころころと石を蹴るイエローは学校を思い出してつまらなさそうであるが、イエローを拾った時を思えば情緒が育って来ていることに喜びが湧く。


「バンバンしてる時が一番すき。もっともっと遊びたいの。そしたら褒めてくれる?」


 強く石を蹴っとばしたイエローは、両手を後ろで組んでブラウンを振り向いた。


 発砲への興奮は幼少期の洗脳教育と周囲が恐れた影響。情緒はようやく育ち始めたばかり。褒められることを望むのは、そうやって認められて愛されていると思わないと居場所がないと考えるから。


 破壊へと陶酔する様な、大人へと縋る様な少女の眼差しを見て、ブラウンは手を伸ばす。


 そうしてわしゃわしゃと少女の髪をぐしゃぐしゃにした。


「わっ、わわっ。何するんだよブラウンー!」

「怪人を撃つのはいいが、褒められたいならまず赤点をどうにかすることだな」

「ブラウンの意地悪ー! この前答え間違えて教えた癖にー」

「あっ、あれはブランクというのがあってだな」


 わたわたと焦る冴えないオジサンに、髪を押さえながら舌を出す少女。


 撫でられた頭の感触は、とても硬くて大きくて温かくてたくましい。地獄だとも知らなかった酷い場所からイエローを救い上げたのは、何の面白みもないこの無骨一辺倒な手だ。


 初めて家族になってくれたのは、戦隊カラーズの姉や兄、そして父や母たちなのだ。


「あははは!! じゃあ宿題したらまたいっぱいバンバンするね!!」

「……まぁ、イエローが楽しいなら」

「うん楽しいよ!! さいっこうに!!」


 全てが全てとは言わずとも、ふつうの少女の様な生活をして楽しみを見つけて欲しいブラウン。なので戦闘狂に磨きが掛かってないかと心配中。子どものいない子育てパパさんの悩みは深い。あれ?俺育て方間違ってる?


 対するイエローは家族に会えるこの仕事や、ブラウン達の役に立てることが楽しいのである。まぁ、ガトリングハイは既に趣味レベルまで根付いているが。



 という訳で、本日もいつも通り事務所に戻る2人。



「おい。私への土産はタコ怪人を倒したという業務報告のみなのか?」



 しかしたこ焼きのお土産を買い忘れていたことで、博士からネチネチと責められて本日の業務を終えるのでした。





 おしまい



 

  











 

 いや、物語は続くぞよ?


 

トネコメ「名乗る前に遠距離から倒していくスタイル(笑顔」


 イエローのタイプは中・遠距離攻撃型


あおのりいっぱいのたこ焼きは美味しいけど、歯に付くのが困るよねぇ~

 


この作品のストック終了☆不定期更新なりまふ~☆

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隊員ブラウンは日中目立たない トネリコ @toneriko33

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