これからどうしよう
電気街駅発の、出発を待っている電車の中で、タクヤに色々と聞いてみた。
静ちゃんと付き合った経緯。そして付き合っていた期間の過ごし方。
なんてことない、普通の恋人達の出会いと日常だ。
しかも清い交際を続けていたらしく、まだ手を繋いだだけという……。
セックスは最低限度しかしていないってのは、俺の知らない彼女との話だったのね。
今思えば、清い交際で正解だったのだ。
ベッドに入った途端にがぶり。なんて事が、まじで起こっていたかもしれない。
吸血鬼。
漫画にアニメ、小説や映画といった様々なマスメディアに登場する空想上の生き物。
最大の特徴は、人間の血を吸って延々と生きるところだろう。
作品によって、設定がころころ変わるのだが、ニンニクが苦手だったり、太陽の光を浴びたら灰になってしまったり。たしか、十字架にも弱かったかな?
俺達が知っている吸血鬼というのは、だいたいこんな感じだ。
そんな想像力が生み出した怪物が、電気街の平凡な昼間に突然現れた。近しい人から変身するような形で。
「静ちゃんって、ニンニクとか食べてた?」
我ながら、間抜けな質問をしてしまったと思う。
アストラが太陽の下で、元気に歩き回っていたから気になったのだが、彼女が吸血鬼だった男にかける言葉ではないな。
「そういえば、一緒に食事をしたことはないね」
タクヤは普通に答えてくれる。
一番ショックを受けてもいいはずなのに、特に取り乱している様子もない。もしかしたら、考えることを止めているだけかも知れないが、いつものタクヤと、あまり変わらないように見えた。
「これからどうするかだなぁ……」
盗聴やハッキングを疑って警察に行こうとしたら、
吸血鬼に脅されて引き返してきた。
これからどうしたらいいのか、まるで宙ぶらりんだ。
「ゲームは続けろって、静ちゃん言ってた」
電車の中刷りを見上げながらタクヤが言う。
確かにそう俺も聞いた。その後に、理由は金曜日になればわかる。と意味深な発言も。
一体、ゾンビーゾンビーとは何なんだ?
吸血鬼が管理している時点で、普通ではない。
ログインしたとたんに、俺達のプライベートがゲームに反映されてしまったし、告げ口をしようとしたら、先回りして脅された。
長生き過ぎて、暇になった吸血鬼が道楽で始めた趣味だとしたら、お前らだけで楽しくやれよと、言ってやりたい。
それに、俺達だけでなく最大で六百六十六人のプレイヤーがゾンビーゾンビーに接続しているはずだ。その人達も、プレイを強要されているのだろうか?
うーん。頭いたいわ。
ウジウジ考えるのは苦手なんだよなぁ。
そういえば、ゲームの中で救世主というプレイヤーがいたな。レベル三十五だったから、相当やりこんでいるんだろう。こんな訳のわからないゲームに。物好きなものだ……。
……て、あっ!
あいつも言っていた。金曜日って!
頭の中の雑音が急に静かになったような気がして、ぼんやりとしていた考えが鮮明になってくる。
どうやら金曜日に何かが起こるのは間違いない。
ゲームの管理者であるアストラと、おそらく上級プレイヤーである救世主が言うのだ。
救世主に会うべきだと思った。
今、ゲームの事について教えてくれるのは、あいつしか思い付かない。
「タクヤ。救世主に会いに行くぞ」
「え? ああ! さっきの人?」
「そうだ。あいつは絶対何か知っている」
「でも、実はもう疲労がピークで……」
だよな。当たり前だと思うよ。でも今は休んでいたら駄目なんだ。
「頑張れよ。いや、その、付き合ってくれよ。金曜だ。金曜までに準備しておかないと、とんでもない事が起きそうな気がするんだ」
「えええ……。まじで……」
どうしたらいいかなんて、俺に分かるはずがない。
全てが予想外で、それらの事に間違いない選択を出来る奴なんて、おそらくいないからだ。
取り敢えずは救世主に会う。
例え核心に迫る事を知らなかったとしても、俺達と近い境遇なのは疑いようがない。
そこから何か掴めるはずだ。
救世主は、まだゲーム内に居るだろうか。
出発を知らせるアナウンスが、電車内に響いた。
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