ファイル5 青い鳥

「先生、本日最後の方の相談票です」


『氏名、T.K。年齢、28歳。性別、女性。職業、非常勤公務員』


 唖然とした。相談票の一行目に書いてあるプロフィールは、高木加奈子28歳Dカップではないのか?


 カウンセリングルームに入ると、いつもはお澄まし顔の高木加奈子が、微笑んでいた。

 かつてない展開なのだが、ここはいたって普通にいくぞ。


「おめえさん、どうしたね?」

「先生がなかなか気づかないから」


 やはり、お願い暴力的に愛してだったのか?

「そいつはどういうことだい!?」

おおきな バームクーヘン あげますっ!  一人では食べきれないので」

 高木加奈子はおれに、バームクーヘンが入っている箱を差し出してきた。

 気づかないって、大きなバームクーヘンがどうしたんだ?


「ああ、おおきなバームクーヘン、ありがとうな

「わたしね、青い鳥を探してたんです。本当にほんとうにいろいろな所で」

 青い鳥っていうと、カワセミかな? 彼女は何を言いたいんだ?


「川になら、青い鳥がいるかもしれんな」

「いえ。もう見つけました。そこに」


 あれれ? 高木加奈子はこんなに素敵な笑顔をする女性だったか?

 加奈子がニコニコしながら指差すのは、先ほどもらったバームクーヘンの箱だ。

 見ると、パッケージには青い鳥の絵が描いてある。


 カワセミじゃないアホだおれ。メーテルリンクだ。


『幸せはすぐ近くに』

『一人では食べきれない』

 そうか。


「高木さん、おれと一緒にこれを食べないか?付き合いませんか?

「ええ。喜んで」


 右手で相談票を、くしゃくしゃに握り締めてポケットに入れ、左手で加奈子の右手を握って、市民センターをあとにした。

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行間から滲み出すホンネ 里見つばさ @AoyamaTsubasa

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