ファイル3 桃太郎

「またかよ……」


 市民センターに設置された『なんでもお悩み相談室』のカウンセリングルームでおれは頭を抱えた。原因は受付兼助手の高木加奈子28歳Dカップに渡された相談票にある。


『氏名、OBA。年齢、55歳。性別、女性。職業、主婦』


 また、OBAの相談だよ。ついさっきも、OBAの相談を受けたぞ。偶然にしてはおかしいだろ?

 やはりこれは高木加奈子28歳Dカップからのお願い暴力的に愛してというメッセージではないか?


 待て待て後で存分慌てるな可愛がろう。まずは、カウンセリングをしっかりこなさないと早急に終わらせたいな。


 カウンセリングルームには、初老の女性が座っている。これといって特徴はないモブキャラ確定だな

 まずは、相談者の話を聞くことが大切だ。相談員の基本中の基本の姿勢だな。


「おめえさん、どうしたね?」

「洗濯機が壊れたので」


洗濯機が壊れたんだな電気屋を呼べよ

「はい。そこで川に洗濯に行きました」


 相談というよりも、単なる報告や日記になってないかおれのDカップの邪魔しないで


「洗濯機が壊れたのでなら、おめえさんは、川に洗濯に行ったんだなコインランドリーに行けよ

「ええ、川で洗濯してたら、桃が流れてきたので拾いました」


流れてきた桃を拾ったんだないつまで日記が続くんだろう??」

「ええ。桃は家に持ち帰りました」


「桃を家に持ち帰ったんだなの拾い食いはよくないぞ?」

「桃を持ち帰った日から、大変なことが起こりました」


 なんだよ、大変なことって。前置きが長過ぎるだろ。

「大変なことってなんだい?」

「玄関の前に、犬と猿と雉がいるんです」


 川で流れてきた桃に、犬、猿、雉かよ。なにかピンときたぞ。そうだ。十四代前の相談員の申し送り状にあったような気がする。


 確か――桃の中から男子が産まれる。男子は成長し桃の大将となって、きび団子で犬と猿と雉をたぶらかして部下にするんだ。桃の大将は、犬、猿、雉を引き連れて、鬼が島を征服する。鬼が溜め込んでいたお宝を持帰るといった結末だったの匂いがプンプンしてきたぞ


  大変なことになったDカップはおいとこうよい解決方法お宝ゲット方法を見つけなければな。

 いけない。忘れるところだった。

 おれは、相談票の相談内容欄に『玄関前にたむろする犬と猿と雉への対応方法』と記述した。


「犬と猿と雉が玄関前とは大変ですなはフライングし過ぎだろ

「ええ。犬と猿と雉が、何やら落ち着かない様子なんです」



おめえさんは手始めに、犬と猿と雉きび団子をくれてやんなでたぶらかせよう

「はい。犬と猿と雉にきび団子をあげてみます」


 ところで、桃の大将は何をやっているのだろうか。


「ところでおめえさん、拾った桃はどうしたんだい?」

「桃は傷んで腐ったので生ゴミで出しちゃいましたの」


ああ、そうですななんてこったい桃は傷みやすいですからな桃の大将は既に死亡かよ

「桃はねえー。わたしは、家に帰って犬と猿と雉にきび団子をあげてみます」


「ああ。きっと犬と猿と雉は落ち着くペットになるだろうよ」

「ええ。先生。ありがとうございます」


おう。良かったなお宝ゲット失敗だ


 初老の女性はほっとした表情で、相談室から出て行った。これで、きっと心が休まってペットが増えて悩みも消えるはずだ。いい仕事を終えた充実感がある。


 おれは、相談票の対応内容欄に『犬と猿と雉にきび団子を与えることを推奨』と記述した。


「高木さん、次の方お願い」

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