第4話 窓際クランの呪いの置物

 王都には人々の憩いの場としての広場がいくつかがある。

 街路樹が植えられており、噴水がある。そんな場所だ。


 町の外が危険なため、子供たちが遊んでいる情景をよく見る。

 最近は気候もいいので、普段なら子供達の元気な声が聞こえるはずだが、今は聞こえない。


 しかし、いま、この広場はなんとも言い難い雰囲気となっていた。

 その原因は間違いなく広場の片隅でブツブツと何事かを呟きながら置物の様に座り込んでいる少年が原因だろう。


 誰も不審者には近づきたくない。

 探索者という武力を持った個人がいるこの王都ではなおのことだ。


「どうすればいいんだ」


 その呪いの置物の様になっていたのはユーリだった。

 探索者になるのが難しいとわかったユーリは就職活動をしていたが、早速、現実に直面していた。


「仕事がない」


 そう。色々回っては見たが、仕事が見つからなかったのだ。

 ちなみに、就職活動ではこんなことがあった。


 ーーー商店にてーーー

「うちでは食料品から衣類雑貨までなんでも取り扱ってますよ。何かご入用でしょうか?どうですか!?この服。最高級の絹を使っていて肌触りは抜群です」

「あのー、商品を見にきたんじゃなくて、仕事を探しにきたんですけど」

「なんだ。客じゃないのか」

「すみません」

「まぁ、いいけどね。それで、君、何ができるの?」

「こう言った店で働いたことはないですが、やる気はあります。なんでもします!」

「うーん。特にやってもらえることはないかな」


 ーーー料理店にてーーー

「うちの料理はうまいよー。ダンジョン産の新鮮な食材を使っているからね。お貴族様にも人気なんだよ」

「あのー。料理を食べにきたんじゃなくて、仕事を探しにきたんですけど」

「なんだ。客じゃないのか」

「すみません」

「まぁ、いいけどね。それで、君、どんな料理ができるの?」

「厨房に立った経験は少ないですが、どんなものでも料理して見せます」

「うーん。ごめんね。今は仕事はないわ」


 ーーー龍馬車屋にてーーー

「いらっしゃい。地龍はすごいんですよ。足も速いし力持ち。重い荷物も軽々運ぶ。草食でその辺の雑草やサボテンみたいな草までたべれて、フンは肥料の材料として重宝される。砂漠では砂と混ぜて薪がわりにもなるんですよ」

「あのー。仕事を探しにきたんですけど」

「なんだ。客じゃねぇのか」

「すみません」

「まぁ、いいけどな。お前、何ができるんだ?」

「えーっと、馬には乗れます。動物の世話も好きな方です」

「ふーむ。悪いけど、他を当たってくれ」


 ーーーーーー


 そうして、大広間の片隅に頭を抱えたユーリという置物が出来上がった。

 当然と言えば当然である。

 この王都では新年に一つずつ皆歳をとり、成人したものはそこで職につく。

 今は四の月。仕事を始める時期ではない。

 一定の期間働き続けられる仕事にはすでに定員一杯に働いている人がいる。


「とりあえず、ガテン系の仕事をして金稼ぎからかー」


 例外となるのが日雇いの仕事だ。

 街壁の修理などがそれに当たる。

 魔物に街壁を壊されなければ発生しないため、日雇いとなる。

 探索者がアルバイト的にやることが多く、比較的きつい割りに実入りは少ない。

 探索者にとっては楽な仕事になるからだ。

 まぁ、他にも色々と理由があって実入りは良くないのだが…。背に腹は変えられない。

 ガテン系は大丈夫だよね?


「よし!」

「あれ?君は昨日の少年じゃないか」


 ユーリが置物から労働者へ飛躍的な進化を果たそうとしていた時、声をかけてくる人がいた。

 よく見ると、昨日クランハウスの場所を教えてくれた衛兵さんだった。


「あ、衛兵さん。昨日はありがとうございました」

「いや、いいんだよ。道案内も我々の仕事だからね。昨日はちゃんと目的地に着けたかい?」

「はい。おかげさまで。世話になりました。衛兵さん」


 ユーリは感謝の気持ちを込めてお礼を言った。

 普段はあまり感謝されないことで予想以上の感謝をされ、衛兵は少し恥ずかしくなって頬をかいた。


「はは、それは良かった。それと、私はラルフと言うんだ。衛兵はこの街にたくさんいるから、そう呼んでくれるとありがたいかな」

「わかりました。ラルフさん。僕はユーリと言います。ところで、ラルフさんはこんなところで何をしているんですか?」


 ユーリはラルフに対して軽い感じに聞いた。

 すると、ラルフは罰が悪そうな顔をして、周りを少し見回しながらユーリに言った。


「あぁ、大広間に何か不審者がいると言う報告を受けてきたんだ」

「えぇ!大丈夫なんですか!?」

「あー。なんだ。もう解決したみたいだ」


 ラルフは周りを軽く見渡しながらそう告げた。

 つられるようにユーリも周りを見回すと、野次馬のようにこちらを伺う住民の姿があった。

 そう、ラルフが報告を受けた不審者はユーリのことだった。

 大広間の端っこで陰気なオーラを出しながらブツブツ喋る不審者。

 普通に事案である。

 おまわりさんこいつです。


「・・・連日お手数をおかけしてしまい申し訳ありません」

「はは、これくらいは問題ないよ。次からは気をつけてほしいけどね」

「はい」


 小さく恐縮するユーリにラルフは優しい言葉をかけた。開き直ったりして暴れ出すものも多い中、素直に反省するユーリは問題にもならない。

 実際、反省している様子のユーリを見て、野次馬たちは歩き去っている。


「君も大変だと思うけど、周りに迷惑はかけないようにね」

「本当に申し訳ありません。・・・あれ?ラルフさんは『紅の獅子』の状況を知っているんですか?」

「?あぁ、この街の住人はほとんど知っているんじゃないかな?1年間は大変だろ?」


 この街でクランというのは何かと目立つものだ。窓際クランといえど、注目はされている。むしろ、窓際だからこそ注目されているという部分も少なくない。

 まぁ、『紅の獅子』は特殊な事情から注目を受けている部分はあるのだが。


「そうなんですよね。今職探しをしてて…。」

「?職探し?」


 潰れるクランだから当然職探しをするというユーリ。

 クランに所属しているんだから仕事を探す必要はないと思うラルフ。

 どうやら、ラルフとユーリで話が噛み合っていないようだ。


「ユーリくんは探索者になりたいんじゃないのかい?」

「まぁ、そうなんですけど、現状じゃ難しいかなって。1年でクランが潰れちゃうんじゃ探索者をしていても来年から無職になっちゃうじゃないですか」

「あぁ、なるほどね」


 ラルフはユーリが懸念していることがわかった。

 どうやら、ユーリは探索者についてよくわかっていないらしい。

 わかっていないなら教えてやればいいと、ラルフは説明を始めた。


「1年後のことはとりあえず考えなくてもいいんじゃないかな?だって・・・・・」


 ラルフの説明を聞いた後、ユーリはクランハウスに向かって駆け出した。

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