第18話 女子会?②

――ババ抜き。


順番は、夢から時計回りに音筆、僕、空乃という今の座席の順だ。音筆が僕の隣にいると見えてしまいそうなので、僕は左の席へと移った。なので僕の正面には夢。音筆の正面に空乃がいる。


カードを切り終え皆に配り、各々揃っているカードを捨てていく。僕の手札は五枚、ジョーカーはない。まずまずだろう。でもギャップって僕は負けたら何をしたらいいのか。



「じゃあ始めるよ~」

夢が音筆の手札を一枚抜き取り始まった。


「よしゃ、幸先いいね~」

揃っていた様で二枚捨てる。


「ま、最初はこんなもんよね」

今度は音筆が僕のカードを抜き取る。


「チッ」


ナチュラルに舌打ちされた。

どうやら揃わなかったようだ。


そして僕の番。

空乃の方を向き、カードを選ぶ。

って、おい。


「ど、どうぞ」

早速一枚カードが飛び出ていた。

これは罠か?


「うーん」

試しにその飛び出しているカードに触れようとしてみる。


「ハッ……!」

嬉しそうにする空乃。


今度はその横のカードに触れようとしてみる。

「う……」

明らかにシュンとする。


「ふむ」

試しにカードの上を通過するよう右から左に手をスライドさせてみる。


シュン

パァー

シュン


罠じゃないのかよ。

まるで感情の変化を隠しきれていない。


「なぁ、空乃」


「な、なんでしょう」


「ポーカーフェイスって知ってる?」


「ポーカーってトランプのですよね?」


それを見て驚いた表情の音筆と、笑いを堪えている夢だった。


「ああ、まぁそんなとこ」

どうしようこれ、あえて取ってあげた方がいいのかな。


迷った僕だったが、まだ一巡目だし、とりあえず泳がせてみる事にした。

「あぁ……」


飛び出していないカードを抜き取ると、明らかにシュンとした。ちょっと面白い。


そして今度は空乃が夢のを抜き取る。

「やった!」

揃ったようで喜んで二枚捨てる。

良かったな、空乃。


こんな調子で四、五巡程して、残っているのは空乃と夢。空乃が残っている事については、悪いけど案の定だ。これでも二巡目でジョーカーを引いたんだが、その後音筆に抜き取られてしまい、僕が一抜け、次に音筆。そして今、空乃が負けようとしている。


「どっちにしようかな~」

意地悪くちょこちょこ手を動かす夢。

空乃の反応を楽しんでいるらしい。

もうやめたげて。


そして楽しむだけ楽しんで満足したのか、あっけなく止めを刺した。

「こっちだぁー!」


「あぁ……!」


――終了。


「一回戦目の敗者は~」

テレテレテレとお決まりのサウンドのようなものを口ずさむ夢。


「デデン!空乃ちんでーす!」


「うわー……」

やはりシュンとする空乃。


「気になる罰ゲームは~こちら!ナース服です!」


「ええっ!?」

驚く空乃と音筆。


「いやお前が決めんのかよ!つか罰ゲームって言っちゃってるんだけど!?それにどっから持ってきたんだそんなもん!」


「やれやれ、質問が多いなぁ~目依斗は」


「だけど夢さん……ありがとうございますっ!」

僕は真摯にお辞儀した。


「分かればいいのだよ、分かれば」

ほっほっほと笑っている。


「ちょっと夢!ギャップバトルじゃなかったの!?」


「何言ってんの琴ちん、これだって十分ギャップでしょうに」


「そうだぞ、夢の言う通りだ。むしろこれこそがギャップと言えよう」

急に寝返る僕だった。


「アンタねぇ~」


「まぁまぁ琴乃ちゃん……」

何やら空乃がヒソヒソと音筆と夢に耳打ちをしている。


「なるほど、オッケー!」


「……それもそうね。いいわ、そういう事なら」


何を話していたのかは分からないが、これは負けられない戦いになってきたぞ。


「じゃあ決まったところでハイ、これがナース服ね」

と、バッグから取り出し夢が空乃に手渡した。


なんでそんなもの持ってるのかなんて野暮な事を聞くのは、もうやめだ。今この瞬間、生きている事を神に感謝し、しっかりと目に焼き付けておこう。メッシ達、すまん。


「これに着替えればいいんですね」


「はい、お願いします」

空乃の目の前まで歩いていき、僕はその場で体育座りをした。


「お願いしますじゃないわよー!」

瞬間、横から音筆にスライディングキックされ吹き飛んだ。


「ぶうぇ」

そのまま転がり壁にぶつかる。


「ここでのわけないでしょ!?」


苦笑しながら空乃は部屋に着替えに行った。


「助けて夢えもーん!」

夢にすがる様に抱き付いた。


「よしよし目依斗君、僕がいるから大丈夫だよ」


「何よそのムカつく小芝居は!夢もあんまり甘やかすんじゃないの!」


「怖いよ夢えもん」

夢に必死にしがみつく。


「安心して目依斗君。僕が――」


「いいから離れなさいって!」

夢から僕を引き剥がそうとする。



そんな事をしている内に、空乃が戻ってきた。

「あの……どうでしょうか?」


目を奪われて気が緩んだのか、一瞬の隙に音筆に投げ飛ばされた。


「ブルアァ」

またしても床をズサァと滑り、空乃の足元で止まった。


「大丈夫ですか?」

手を差し伸べてくれる空乃。


「ハッ、なんだ天使か」


「えっ?」


純白のナース服が良く似合っていた。


「うわ~、空乃ちん可愛い~」


「ほんと。空乃は白とか清楚な感じの色が良く似合うわよね」


僕を無視して皆空乃に近付いていった。


「あ、ありがとうございます」

恥ずかしそうに空乃がこちらを見ている。


「確かにめちゃ可愛いな」


「そ、そんなこと……」


「夢先生!」


「なんだね目依斗君」


「写真撮影はありでしょうか?」



「うーむ……許可しよう!」


「ありがとうございます!」

お決まりの様に綺麗なお辞儀をする。


「だから、ありがとうございますじゃないっての!」


「でも許可貰ったんだが!」


「本人から貰いなさいよ!」


「空乃さん!いいでしょうか?」


「恥ずかしいですけど、一枚だけなら」


「ありがとうございます!」

お辞儀位安いもんだ。

何度だってしてやろう。

酔いが回ってきたのか変なスイッチが入り始めていた。


「良かったわね!」

フンっと音筆。


さっきまでは、こんなに怒りっぽくなかったのに。


「では失礼して」

スマホを取り出し

「ハイ、チーズ」


恥ずかしそうに照れ笑いしながらもピースしてくれた。


「ありがとな!」


「いえ、お礼を言われる程では」


「大切に保管させて頂きます」


「大袈裟ですよ」

と笑う。



「んじゃー、そろそろ二回戦始めるよー」


「ではその前に着替えてきますね」


「んーん、そのままで大丈夫だよー」


まさかのそのまま続行。


「え、でも」


「大丈夫、負けた人は次から観戦だから。そのまま気楽にお酒でも飲みながら見ててよ」


「バトルロイヤル形式かよ!?」


「確かにその方がいいわね。また空乃が負けちゃったら不公平だものね」

と音筆。


「そう言われてみればそうか」



「ではでは第二回戦!」


「定規戦争、略して定戦!」


「発想が斜め上すぎる!」



――こうして二回戦が始まった。

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