第十四話「作戦会議」

「つまりお前は異世界からきた偽物勇者ってやつか。噂では聞いていた」

「ダン。これならダンジョン潜れるんじゃねーか。こいつのは光魔法だから水じゃ消えない」


「えーと。モリオだったな。捜索の手伝いをしてくれないか? それにウエスキンに用があったんだろう?」

「構いません。ウエスキンさんの命が掛かっていますから。ただ、僕は全く戦えませんが大丈夫ですか?」


 ローレルは腰に手を当てて胸を張る。


「明かりさえあればどーってことねぇ! あたしらはここらじゃ結構有名な冒険者なんだ。任せときな! なあダン?」

「まあ、そうだが」


 ダンはため息交じりに頷いた。


「な! モリオっちは心配すんな! しっかりダンが守ってくれっから」

「なら安心です。向かうのは今すぐですか?」


「いいや、少し食料などの準備をする。ウエスキンが負傷している可能性も考えて治癒術師を一人雇いたい。出発するなら明日の朝だ」

「わかりました」


****


 モリオは白んだ空の中待ち合わせの冒険ギルドの扉を開けた。

 キュリにはこのことを伝えてはいない。心配を掛けさせないためだ。伝えたのはシャンプー台作成の打ち合わせをするとだけ。


 冒険者ギルド。

 様々な人から依頼を受け付ける窓口であり冒険者へ仕事を提供する場。素材の収集や魔物の討伐、護衛、迷い人の捜索など多岐にわたる依頼が集まる。

 パーティー募集の場も兼ねているため、待機の場としてギルド直営の飲食店と隣接しているのが一般的。

 ギルドから依頼を受ける、またはパーティーに参加するためにはギルド登録が必要。

 冒険者はランク付けがある。最初はEから始まり、仕事をこなしてしくとランクアップ申請を行う権利が得られる。

 依頼にもランクがあり、最も簡単なEランクから最高難度のSまである。

 冒険者は同ランク以下の依頼を受けることが可能。

 ギルドは24時間営業で飲食店も同じであるため、常に酒の匂いと活気が溢れている。


 ラーン王国アドベ区ギルド支店は、一階がギルド受付で二階が飲食店となっている。


 モリオはダンに言われた通り受付でギルド登録の申請を行った。

 登録する内容は、氏名、年齢、住所、魔型、冒険職。


 受付にいたのは女性。紺色のギルド制服を固く着ていて三つ編みを右肩から提げている。

 制服はタイトスカートにジャケット、頭にはギャリソンキャップ。


 モリオはスラスラと記入していくが冒険職の欄で手を止めた。


「あの。この冒険職とはなんでしょうか?」


 受付嬢は肩眉を下げた。

 モリオはこの反応を見てすぐに言葉を付けたす。


「僕は異世界から来た者でして、こちらの世界のことには疎いもので……」


 受付嬢は納得したように手をポンと叩く。


「冒険職は冒険者の役割でして――」


 受付嬢は丁寧に説明をした。


 アタッカー。

 攻撃に特化している職。近接で戦う剣士や攻撃魔法を得意としている魔法使いを指す。

 戦士や剣士、魔術師、弓士など。


 タンク。

 最前線で魔物の攻撃を受けるパーティーの盾となる職。

 重戦士など。剣士や戦士が行うこともある。


 ヒーラー。

 回復を行う支援職。

 治癒術師や薬師など。


 サポーター。

 戦闘以外に特化している職。探索や道案内などパーティーの支援を行う。

 戦闘を行わない非戦闘員職。


「例えば剣士でしたらアタッカー・剣士となります」

「なるほど」


 モリオは『サポーター・美容師』と記入して提出した。


「はい。こちらの内容で登録させていただきます。しばらくお待ちください」


 受付嬢はその場で処理を進める。

 デスクの横にある魔法陣の書かれた二つの石板の一つに書面を乗せる。もうひとつの石板にはカードサイズの金属板を乗せた。右上に大きくEと彫られている以外は何も書かれていない板。

 すると、魔法陣がぼんやりと光って金属板に『モリオ・加賀美』と彫られた。

 名前が彫られたことを確認するとモリオに向き直る。


「では最後に魔素認証の登録を行いますので、このギルドカードに魔素を送り込んでください」


 受付嬢は金属板をモリオに手渡す。

 モリオは言われた通り魔素を送り込む。

 すると彫られた名前の下に住所などの情報が光った文字で浮かび上がった。


「はい。魔素認証の登録が完了しました。ご本人様以外の魔素では個人情報は浮き上がりませんのでご安心ください。それと、ギルドカードは依頼を受ける際などに必要となりますので常に携帯して下さい。死体回収の際には身元確認に使用もしますので。これで登録は完了です。なにかご質問はありますでしょうか?」

「い、いえ。ありがとうございます」


 モリオは死体回収という言葉で世界の違いを改めて実感していた。魔物のいる世界。外に出れば死と隣り合わせの世界。

 今からでもダンにことわりを入れて帰ろうか。ウエスキン以外にもシャンプー台を作れる職人はいるのではないか。と。


 まだ早朝だというのにモリオの周りには冒険者が何人もいた。

 依頼ボードに貼られた依頼内容を確認している者。受付の順番待ちをしている列。待ち合わせ場所の二階へ駆け上がっていく者。壁に寄りかかって目を瞑っている者。

 それらの騒音は皆命がけである。


 モリオはギルドカードを見つめたまま立ち尽くしていた。騒音も耳には入っていない。

 そんなモリオの肩に大きな手が乗せられた。


「なに突っ立ってんだ? お! ギルド登録したんだな」


 手を乗せたのはダン。モリオのギルドカードをのぞき込みながら笑顔を作った。

 モリオはここで周りの騒音が耳に入ってくる。


「ダンさん。おはようございます」

「おう! どうしんだ? おっかない顔してるぞ?」


「いえ。何でもありません」

「そうか。まあ上で朝飯食おう。ローレルもいるだろうし」


 モリオはダンの背中をついて二階へ上がった。

 いくつものテーブルが並び、冒険者たちが食事をしている。これから依頼に向かうパーティーや昨日から飲んでそのまま寝ているパーティーなど、早朝だというのに酒の匂いが漂っている。


 そんなパーティーたちの中異様なテーブルが一つ。そのテーブルには二人の冒険者。

 一人はテーブルの上には大の字になって寝ているローレル。右手には空になったジョッキが握られたままで、口からは大量の唾液が流れている。

 もう一人は行儀良く背筋を伸ばして座る女性。

 ローブを羽織っていて、両眉を下げて不安そうな表情。

 ローブは魔法学校の制服と似ているが色は白。透明感のある金髪で、長い髪は下ろしている。両サイドの髪を三つ編みにして後ろで留めた髪型。椅子の横にはリュックが置かれていて、金属製のメイスがリュックの下に括り付けてある。


 ダンは呆れたように頭に手を当てて二人の元へ。


「ったくローレルはまた酔いつぶれたのか」


 ローブの女性はダンに気づくとシュッと立ち上がりペコリと頭を下げた。


「パーティ募集にあったウエスキン捜索のパーティはこちらで合っていますでしょうか?」

「そうだ。君が治癒術師だな」


「はい。ミル・クリエットと申します。受付で確認したところ、上で大の字で寝ている女性のところへと案内されましたが、合っているのか不安で」

「申し訳ない。こいつはいつもこうなんだ。俺はダン。こっちのひょろいのがモリオ。で、この寝てるアホがローレル」


 モリオは軽く頭を下げる。

 ミルもペコリと下げる。


「まあ朝飯食いながら内容を説明する、ミルもモリオも好きなもん頼んでくれ」


 ダンは慣れた手つきでローレルをテーブルの下に引きずり落として席に着く。


 三人は料理を注文して本題に入った。


「まず馬を走らせてダンジョンへ向かう。ダンジョンまでは馬を使えば半日も掛からずに着くだろう。ミルとモリオ、馬は?」

「いえ」

「いいえ」


「なら俺かローレルの後ろに乗れ。ミルは戦えるか?」

「申し訳ありません。メイスの扱いを学んだ程度で実践ではまだ。今回が初の依頼ですのでランクもEです」


 ミルは恥ずかしそうに言った。


「まあ、俺とローレルがいれば戦闘は問題ない。ミルは一応モリオの側にいてくれ。こいつは戦闘がかっらきっしダメらしいからな」


 ミルは首を傾げた。


「モリオはただの明かり役だ。こいつは光型でな。これから行くダンジョンは暗くて水型の魔物が多くてランプの火を消してくる。だからこいつが必要ってわけだ」

「光型? 勇者様のみが持つというあの光型ですか?」


「そうだ。異世界から召喚された偽物勇者」


 モリオは偽物勇者という単語が気に食わなかったが飲み込んだ。


「俺はタンク。こっちの寝てるアホがアタッカー。魔物自体は強くないが、万が一を考慮してミルはモリオの護衛だ」

「わかりました」


「ウエスキンがもしダンジョン内にいるならかなり衰弱している可能性がある。暗闇の中ではぐれてから一週間近く経つからな」

「近くの森などに脱出している可能性は?」


「その可能性は少ない。はぐれてから四日ほどダンジョン近辺を捜索をしていたが発見できなかった。ウエスキンはダンジョンさえ出られれば自力でここまで戻ってくることは出来るはずだ。しかし、戻ってきてはいない。ダンジョン内で迷っている可能性が高い。あのダンジョンは入り組んだ迷路状になっているからな。ウエスキンも馬鹿じゃない。救助が来るまで体力を温存するのことに徹しているはずだ」

「そうですか。魔物の種類は?」


「スライムだ。ただ魔法を使うがな」

「マジックスライムですか……この辺りでは見ない種ですね」


「そうだ。ただ俺とローレルはマジックスライム程度なんてことはない。明かりさえあればな。だから捜索自体は難しくはない」


 ウエイトレスが料理を運んできた。


「まあ作戦って程の作戦じゃないがこんな感じだ。ダンジョン自体も入り組んではいるが深くはないとウエスキンが言っていたからな。とりあえず飯にしよう」

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