第4話 探偵は本物だった。


八乙女を中心に両側に2人ずつ、計5人のグループを形成して歩いている。


「それでお前は何で俺たちが八乙女を尾行しているのか聞かないのか?」


側から見れば八乙女をあまり話したことない天音が呼びだしたり、八乙女を観察してたのだ不思議に思うのも無理はない。というより不思議に思うはずなのだ。

俺たちが住宅街の道角に隠れ、八乙女の様子を伺っている時、俺はまどかに話しかけた。そのまどかは口元を緩ませて、堂々と言い放つ。


「まどかちゃんは探偵ですから」


どういうこと。探偵ってそんなに凄いのか。事情を知らなくてもそれがわかっているのだろうか。

でも満面の笑みで八乙女の尾行をしているまどかを見るとそんなことはどうでも良くなる。


「その、あなたが本当の探偵だと言うなら八乙女さんが家に着くまでの間に推理してみなさい」


今まで緊張の面持ちで八乙女の様子を伺っていた天音がまどかに言う。そういう所は天音にも好奇心があるのか。それとも厨二心を擽られたのだろうか。


「天音ちゃんはまだまどかを疑っているんですね。でも分かりました。もしまどかの推理が当たったら探偵だと認めてくれるんですね?それと私はまどかちゃんです!」


「えぇ。絶対当たらないと思うけど。やってみなさい。それと私を名前で呼ばないで」


ふたりが話している間にも八乙女は仲良く話しながら角を曲がって見えなくなる。だが、俺たちはすぐさま後を追い、角に隠れる。


「まどかの推理力の凄さに驚かないでくださいね?では始めますよ。まどかは最初学校に登校してたときに違和感を覚えました」


「違和感?」


「はい。一見いつもの賑やかな日常風景なんですが、どこか引っかかるんです。そして、ひとまず席について、得意の人間観察をしたんです。すると、1人の少女が凄い汗をかいて、怯えていたんですよ」


「それ私ね」


待てよ。天音はその時、俺が授業中に起きた時ときと同じ状況だったんじゃないだろうか。だとしたら、俺は起きた時、八乙女しか見ていなかった。だから天音も俺と同じだと思っていた。だけどそれが違かったんだ。天音は俺より早くタイムリープしていた。何故俺と天音にタイムラグがあるのか。血塗られた少女を見た時間の差か?わからない。そこに引っかかるが今は考えても解決しないので尾行に集中する。


「そうです。天音ちゃんの様子が変だったのでずっと観察していたんですけど、何かに納得したのでしょうか?生徒に声をかけて、連れて行くんです。1人、また1人と。今まで孤高の人だと思っていたんですが、いきなり色んな人に声をかけるなんて変だとしか思えなかったんです」


「孤高...。流石に少し傷つくわね。私は無意味な関係を欲しいとは思ったことはないわ。時間も体力も使うなら自分の時間に力を使うのは当然のことじゃない?それを孤高と一括りにしないで欲しいわ」


「そこまで孤高というワードで話されるとは思いませんでした。そんなに気にしていたならごめんなさい。では訂正します。1人を好み、周りとの関係は不要な人で良いですか?」


「少しイラッとするけど、まぁ良いわ。それより早く続きを言いなさい」


まどかに鋭い目線を送るが、それよりもまどかの推理が気になったようで続きを促す。


「そこからは神崎さんが天音ちゃんみたいになって、昼休みには天音ちゃんが未来ちゃんに話しかけていて、そこには何故か神崎さんも居て。未来ちゃんが教室に帰ってきたら凄い顔をしていたり、これはこの教室で何か起こっているのではないかと思ったわけです」


未来ちゃんって八乙女のことだったんだな。知らなかった。ってかまどかは八乙女と話したことがあるのだろうか。


「なるほどね。あなたも私のことを言えたものではないことは良くわかったわ」


それにしてもまどかの観察眼の凄さに驚きを隠せない。ずっと教室に座っているからと言ってそこまで状況を把握できるものでもない。


「何故か私が話しかけるとみんな逃げて行くんですが、この話は置いといて、続けますね。それで神崎さんと天音ちゃんがやけに仲良くなってるみたいで話していて、目線では2人とも未来ちゃんの動向を伺って。そして、未来ちゃんが席を立つと2人とも未来ちゃんを追いかけようとしていたので、このまどかちゃんが声をかけた訳です。それは早速と暗殺者の如く俊敏にお2人の前へ現れて...事件臭がぷんぷんとしましたから。これぞ探偵の性なのです!」


「なるほどね。そこまでの経緯は分かったわ。ではあなたの推理を拝見しようじゃない」


「はい、これまでのことを踏まえて私は1つの結論を出しました。お2人は正夢か幻、はたまた未来か過去で何かあったんじゃないですか?急に様子が変わったり、仲良くなったりした。これはそうとしか言いようがありません!それに未来ちゃんにを気にしていたので未来ちゃんに関わる何があったのでしょう。何かに襲われたり、被害に遭った。お2人はそれを回避したいがために今未来ちゃんをストーカーしているんですよね?要するにお2人は正夢か、幻、はたまた未来か過去で未来ちゃんを見た。そこには何かしらに襲われたり、被害に遭った未来ちゃんがいた。だから今こうしているのでしょう!これが私の推理です!どうですか?」


「い、いや凄すぎて言葉が出ないわ...。あなた探偵だったのね」


天音は正直目の前にいる少女を見縊っていたのだろう。その凄さを目の当たりにして、動けないでいる。


「俺も1日の教室の様子を観察しているだけでここまで当てられることに驚いている」


まどかの推理力はそっとやそこらで身につく技量を超えている。過去?未来?そんなもの誰が考えても到底辿り着けない選択肢だ。それをこの少女はやってのけたのだ。探偵と認めるしかないだろう。探偵ごっこと思っていた俺が恥ずかしくなる。


「えっへん。まどかちゃんは探偵です!まどかは相当の戦力になりますよー?」


あたかも自分が勝ったかのように挑発してくるまどか。だが、天音は穏やかな表情でまどかの肩に手を置く。


「えぇ。ここまで聞かされたら認めるしかなさそうね。むしろこちらからお願いするわ」


「ふふっ。良いでしょう。このまどか惜しみなく協力しましょう!あ、それで答えは?」


「あなたの推理に付け足すと、私たちは1週間前、201の教室で死んだ八乙女さんを見つけたの。だからその犯人を見つけるために行動している最中という訳よ」


「実際聞くと相当信じがたいですが、まぁそこはどうでも良いですね。とにかく犯人探しです!やりましょう!楽しみです!」


あくまでも探偵がしたいだけでその事情はどうでもいいみたいだ。推理もただの口遊びとしか思ってないのだろう。

そうこう、俺たちが話している間にも八乙女たちが歩いて行き、カフェで戯れていたり(俺たちはカフェの奥で見守っていた)、カラオケに行ったり(俺たちは隣の部屋を取り、歌が終わるタイミングを見計らっていた)、買い物行ったりと散々遊び、やっとのことで八乙女グループは1人、また1人と分かれていき、最終的に八乙女だけになった。


「はぁー、やっとね。尾行って凄く疲れるものね」


後少しで夕日が沈み、夜になる所。八乙女の後ろの電柱に俺たち3人が隠れている。


「誰かさんがカフェでパンケーキ食べたり、カラオケで飲み放題やピザ頼んでいたよな。それに会計押し付けてくるな」


「しょうがないじゃない。その、カフェとかカラオケとか行ったことがなかったんだから...」


顔を赤らめ、言いにくそうにする。今まで尖っていた天音から急に態度が変わると変な気分になる。


「ちょっと可愛く言ってももう遅いぞ」


「あら何か言った?それに私は財布を忘れたの。後で返すわよ」


「お金はもういい。女子に払わせるのもなんか後味悪いし」


「神崎くんにも少しは男気があったのね。それならお言葉に甘えさせてもらうわ。あ、だったら後でもう一軒奢ってくれない?」


「お前は俺をなんだと思っているんだ。図々しいにも程があるぞ」


「刺されたい?」


「奢ります。むしろ奢らせてください」


「よろしい」


「2人ともいちゃつくのは他でやってもらえませんか?ストーキングは慎重にやるものです。気を緩めると見失いますよ」


さっきまで楽しんで推理していたまどかが言える立場ではないが。こと尾行についてはまどかが先輩なのでうなずくしか出来ない。


「好き好んで神崎くんといちゃつく人は世界中を探しても1人もいないと思うわ」


「流石に誰かはいるだろ」


「あなたはどれだけ自分を過剰評価している訳?あなたの存在はミジンコ以下よりもさらに下の存在だわ」


「酷いだろ。本当に奢って欲しいのか?」


「もちろん!」


なんなんだこいつは流石に俺でもそこまで言われたら傷つくだろ。それにミジンコ以下の以下の人に奢られたいのだろうか。


「未来ちゃんが止まりました」


八乙女が止まったのは、ボロアパートと思しき二階建て木造作り、階段も錆切っていて、今にも下に落ちそうな建物。八乙女は階段を登っていき、1番端の部屋に入って行く。


「まさか未来ちゃんがこんな所に住んでいるなんて驚きです」


「そうね。それもあるけど、今日は特に変わったことは無かったわ。今日の所はこれで終わりにする?」


「いえ、このまま帰るより未来ちゃんの家に行きましょう。中へは入れてもらえなくても玄関からわかることもありますから。では天音ちゃん行ってください」


「わ、私?行くことは問題ないけれど、先程八乙女さんとは揉めたのよね。今私が行って逆撫でするのも良くないから神崎くん、行ってくれない?」


「確かにその判断は分かるが面倒ごとを押し付けられた気がするけど行くか」


「神崎くん一言余計よ」


「そうかよ...」


俺は天音に言われ八乙女の部屋へと向かう。階段を登るたび軋む音がするので怖さを感じながら登り、部屋をノックする。


「今向かいまーす」


ドア越しに聞こえてくる八乙女の声。だんだんと足音が聞こえ、ドアが開かれる。


「よう」


ドンッ!!


開けた瞬間に閉められた。


「少し話がしたい」


俺がそう言うと扉が開かれた。少しは話させてくれるみたいだ。


「何で私の家がわかったわけ?」


目を細め警戒して聞いてくる。もう俺には表で接するのを辞めているのかトゲがある感じだ。

玄関には散らばった靴がいくつもある。それもヒールとかの女性ものの靴ばかり。


「まぁ、色々な人に聞いたりして」


この回答で特定の名前を出すのは良くない。八乙女が追及すれば1発で分かることだから。なので、誤魔化すしかない。


「まさかつけてきたんじゃないでしょうね?」


警戒心が強まってきている。流石にこれ以上上手く誤魔化す方法が分からない。

八乙女の部屋の中は玄関から見る限り、ゴミ屋敷かのように散らかり放題だ。八乙女に問題があるのか親に問題があるのか、多分後者だろう。学校の印象からしてゴミを散らかす用には到底見えない。


「八乙女、何か困ったことはないか?」


「話がないんだったら、帰って」


「いや、待てー」


ドンッ!!


扉が閉まり、厳重に鍵がかけられたようだ。

やってしまった感は拭えないが、とにかく天音たちのところに戻るとしよう。

あいつらは階段の下にいた。


「そういうことね。最初から神崎くんには期待してないから大丈夫よ」


それは何か言われるより傷つくような。


「そうですね。状況が分かっただけで良しとしましょう」


その後俺たちは天音が1回も入ったことがないと言うのでファミレスでたらふく食い、会計は俺持ちになった。さりげなくまどかの分も奢らせたのだった。

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