第3話 探偵は最初からいない


「それで神崎くん。私は引き続き犯人を探すわ」


授業を終え、放課後。まだ談笑していたり、部活の準備、帰る準備をしている生徒がちらほらいる。その中にも当然八乙女はいる。

それに隣が天音だったこともあり、今話し合っている最中なのだが、そもそも今までこいつの存在自体知らなかったのだ。流石にこれからは事件のこともあるし、クラスメイトだけでも覚えるべきだろう。


「まさか俺にやったみたいにするのか?」


「何か問題でも?」


「問題ありすぎだ。危険すぎる。違う方法で探すぞ」


天音は一見見た目は頭良さそうに見えるが、バカなのかもしれない。


「だから命令しないでくれる?それ以外に最善な方法はあるの?なかったから私はそうしてるのよ」


「まだ一週間あるだろ。そう焦るなって。天音が死んだら元も子もないだろ」


「名前で呼ばないでくれる?気持ち悪いから。だったら何か案出しなさいよ」


「そうだな。とりあえず八乙女の周辺調査だな」


「それで解決する?」


「天音の方法よりは幾分かマシだ」


「だから天音って...。まぁ良いわ。ひとまず神崎くんの意見に乗るわ。神崎くんが使えないと思ったらすぐさま単独で動くからね」


「自分勝手だな」


「カッターで刺されたい?」


「ごめんなさい」


「よろしい」


「おっ、早速八乙女が立ち上がったぞ」


良いタイミングで八乙女が立ち上がったようだ。これ以上、天音の目線に耐えられる自信がない。八乙女に続いてグループの生徒達が立ち上がる。それほどまでに八乙女という人間は人気があるのか。


「そうみたいね...」


先程のこともあるのか天音はどこか浮かない表情をしている。それもそのはずだ、今まで普通に接していた知り合いが当然自分の知らない表情を出したのだ、驚くよりも受け入れられないのだろう。それに自分の話下手な所も反省しているみたいだ。


「何やってるんだ。早よいくぞ」


「神崎くん。私に指図しないでって何度も」


「いちいちうるせーよ。もう八乙女が行っちゃうぞ」


「うるさいっってこの私に!?後で絶対刺す」


最後の方の言葉が小さくて聞こえなかった。


「何か言ったか?」


「な・に・も」


だから満面の笑みを浮かべながらカッター持つのやめて。


そして、俺たちは八乙女の後を追うのだった。




「うふふ。探偵まどかちゃんの登場です!!」


どこからか幼げな声が聞こえてくる。


「何かお悩みでしたらこの私が見事解決に導きましょう」


「うげっっ、まさかまどかちゃんの存在が見えてないとな。こっちですよ、こっち」


視界に手が映ったり映らなかったり、そして、俺は面倒臭くて無視していた存在に目を向ける。

すると、そこに居たのは制服でありながらも鹿撃ち帽を被り、右手には虫眼鏡を持っている少女がいた。まさに探偵とでもいう格好をしている。幼さが残るがとても可愛い顔をしているが、栗色のストレートロングは彼女の庇護欲を掻き立てる物になっている。小柄な身体は小動物のような繊細さを携えている。

俺が無視していると、彼女はぷくっと頬を膨らませた。


「やっと気付いてくれましたね!この私が貴方達のストーカー行為を手伝ってあげます!」


「言い方に問題があるが、俺たちは尾行だ。お前もやりたいのか?」


「お前ではありません。まどかちゃんです!私のことは今後そう呼んでください。そして、あなたの質問に答えるとやりたいに決まってます!」


決まっているとは。流石、探偵の格好をしているだけはある。それにこの純粋無垢な目の輝きに眩しく感じる。


「ちょっと待ってあなたは不要よ。人数が多ければ良いってこともないと思うし、それに」


「まぁそうだろう。連れては行けないしな」


「そうね。こんな小学生は」


俺たちはまどかを冷めた目で見つめる。


「・・・」


「・・・」


「今なにか言いましたか?」


沈黙の後、まどかは殺気を帯びた目で俺たちを蔑む。


「えぇ。あなたは小学生なのにこの学校の制服を着ているみたいだし、何かどこかで盗んだのね。それに中学生に良くあるのだけれどあなたは発症が早いのね」


殆ど初対面にもかかわらず天音のこの言いように凄さを感じる。八乙女の失敗はもう忘れたのだろうか。まぁ目の前にいる彼女はいじりやすい感じもあるので一概には言えないが。


「まどかちゃんは高校生でーーーーーーーーす!!そんなこともわからないのですか?まぁ多少、ほんの多少、すごく多少身長が低いとは言われますが、ちゃんと高校生ですし、まどかは天音さんと神崎さんの同じクラスメイトですよ!!それに発症って何ですか!私は病気ではありませんよ!!」


俺とこいつは基本単独行動だからまぁ知らなくても許してほしい。


「あら、そう。確かにあなたも居た感じはするわね。でもあなたは厨二病という病気を患っているの!これは治るのに苦労がいる病気よ。そしてあなたは重症よ!!」


まるで自分が体験したかのような物言いだった。過去を思い出しながら話す天音の新たな一面が垣間見れた。


「な、なぬ!?ちゅ、厨二病ですか!」


まどかが驚いた様子で汗を浮かべる。


「そうよ。だからあなたは連れていけないの。こっちは探偵の真似事をしているのではないの。真剣に命にかけてやってるの。あなたとの遊びには付き合えないわ」


「ははーん。よくもこのまどかを遊びだって言い切りましたね?この紋章・・・じゃなくてこのバッチが目に見えぬか!」


どこかで聞いたセリフを吐き、制服の懐から赤いバッチが差し出された。よく見ると少女探偵団と小さく書いてある。


「そ、それは・・・なんだ?」


「私も知らないわね」


「良いでしょう良いでしょう。無知なあなたたちに教えてあげましょう。このバッチはその名も少女探貞団の証!この町の秩序と安全を守るのが私たちの仕事!救った事件や事故は数知れず、町のボランティアや浮気調査まで色々なことをやっている組織よ!このまどかちゃんがあなたたちの危機を察して駆けつけたのよ!」


まどかは元気良く言い、それを言い終えるとえっへんと声を漏らし、満足した様子になる。


「流石にそこまで行くと擁護できないわね。でも、あなたの心意気は伝わったわ。ひとまず八乙女さんを追いかけないといけないの。ついてきて良いけど、その妄言はもうやめて」


まどかの厨二病の本気度に天音は呆れた様子で、諦めたようにため息を溢すと仕方ないとまどかの同行を認めた。


「妄言・・・。まぁ良いでしょう...」


天音の言葉が気に障ったのか、また怒り出そうとするが一歩寸前のところで抑え、まどかは素直に従う。


「では急いで行くか。グループ行動している訳だから、それなりに目立つし、歩く速度も自然と遅くなる。まだ昇降口あたりに居るだろう」


客観的意見を言うと天音はわかっているわよとでも言うかのような鋭い目線を送る。


「神崎くん、次私に指図したら本気で刺すからね」


目が人のそれではなかった。怖すぎる。


「それは勘弁してくれ」


「くれぐれもあなたの立場を理解しなさい?」


「はい...」


天音は俺をあなたの言うことを何でも聞く従者とでも勘違いしているのだろうか。俺は先を行く天音についていくのだった。

今までずっと名前を呼ばれていなかったまどかは私の名前を呼んでかのように高々に宣言する。


「私はまどかちゃんです!」


そして、一足遅れてまどかもついてくる。

俺は灰色だった日常が賑やかになりつつある俺の非日常につい嬉しく思ってしまう自分がいた。

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