創作秘話『命の涙』 ~いつまで経っても完成しない!~

●プロット交換会・第二弾!


私(=ハルカ)の突然の思いつきによって始まったプロット交換企画も、いよいよ第二弾です。


第一弾は白井銀歌さんのプロットで作品を書かせていただきましたが、第二弾は私がプロットを用意させていただきました。

それがこちら。


――――――――

高校一年生の春。

僕は建物の三階から飛び降りるが、気付けば病院にいた。

仕事で海外にいる両親は来ていない。姉が遺書を破り捨て、ただの事故だと伝えたからだ。

絶望の中、僕は病院の中庭で同学年の美月と出会う。

彼女は陸上の選手だったが交通事故で走れなくなってしまった。

怪我を抱えても明るく笑う美月は僕を照らす光だった。

だがある夜、彼女は死にたいと涙をこぼす。

僕は彼女の手を取り、二人で未来を生きようと約束する。

――――――――


……くっ、暗い!

手癖でプロットを作るとどうしても暗くなりがちな私です。

(;´Д`)



●蔵出しプロット、日の目を見る


そもそもこのプロットは、私が数年温め続けてきたアイデアを今回のプロット交換企画用にまとめたものでした。

温めていた理由は単純で、自分の力不足で書けなかったからです。

設定や場面やセリフなどのメモをまとめたものの、どうしても本文が書き出せないまま保管してありました。

これまでに何度も書こうと試みては、そのたびに挫折を繰り返していました。

今回プロット交換企画をするにあたり、私はふと思いました。


「そうだ、この機会ならきっと作品を書きあげることができる!」


そして私は意気揚々とこの蔵出しプロットを銀歌さんにお渡ししたのです。

銀歌さんは普段コメディ作品を中心に書かれている方なので、私が用意したプロットを見てさぞかし驚かれたことでしょう。

あとから考えると、これはもはや事故レベル。

(;´Д`)


「普段は扱わない題材なので勉強になった」とおっしゃってくださった銀歌さんは懐が深いなと思いました。



●だがしかし、書き上がらない!


「2,000字だけ書けばいいし、場面のメモもあるし。3日あれば書き終わるだろう」


このときの私はそう思っていました。

だから余裕こいてコメディの方に時間をかけたりもしました。


ところが……いざ書き始めようとすると、これが難しい!

書きたいことがあり過ぎて、そのくせパーツがばらばらでうまく繋がらない。

繋がるように設定や場面を足すと2,000字では収まらない。


シリアスな作品はこれまでにも何度も書いてきましたし、むしろ得意分野だと思っています。それでもこの作品は手ごわいものでした。

さすが数年寝かされたプロットは一味違います。


そんな私をよそに、銀歌さんは締め切りよりずいぶん前にさらっと書き上げてきました。さすが仕事が早い。

万が一、私がこの作品を完成させられなくても、この世にはすでにこのプロットの完成作品がある。

その事実は私を勇気づけてくれました。


結局、締め切りを十日も過ぎてしまいましたが、どうにか形にすることができました。

広い心で待ってくださった銀歌さんには頭が上がりません。



●読み比べタイム!


そんなわけで、どうにかこうにか無事に作品を投稿することができました。

いよいよお楽しみの読み比べタイムです!


銀歌さんの作品はアオハル成分が濃厚で、読みながらにやにやしてしまいました。

自分のプロットからまさかのアオハルが錬成されるとは予想外でした!

読者が楽しめる要素を入れている点はさすが銀歌さんです。


また、詳しくは後述しますが、銀歌さんの作品では主人公がたどってきた人生について多くの文字数を割いており、そこが印象的でした。



●タイトルについて


銀歌さんの作品タイトル『僕の美しい月』は、聞いた瞬間「なんてロマンチックなタイトルなんだ!」と静かな感動を覚えました。しかもそれが作品の内容ときちんとリンクしていて素晴らしい。

一方の私は『命の涙』とかなりシンプルなものですが、これはこれで「このタイトルしかない!」と思うものをつけているので、自分としては納得しています。


タイトルについては、第一段も第二弾も銀歌さんのタイトルのつけ方がわかりやすくて良いなと思ったので見習っていきたいものです。



●注文の多いプロットからも個性による違いは生まれる


銀歌さんの作品と私の作品には多くの共通点があります。

それもそのはずで、プロットの指定が事細かかったからです。

「三階から飛び降りた」「両親は海外で仕事」「姉が遺書を破り捨てた」「姉がただの事故だと伝えたので両親は来ない」「病院の中庭」で「美月と出会う」「美月は陸上の選手」「死にたい、と美月が言う」など、さすがに指定が多すぎたかなという気もしました。


それでも物語が進むにつれて両者の違いや個性が見えてきて、とても興味深かったです。


また、両者の作品のどちらもが「病院のベッドで目を覚ます」シーンから始まっていますが、これはプロットではとくに設定していない部分でした。

ここが被るということは、これがこの物語の最適解なのかもしれませんね。



●「恋に落ちるのに理由は要らなくても死ぬのは理由が必要」(←名言)


銀歌さんの作品と私の作品とで大きく異なる点は、下記の二つでした。

 ・主人公と姉との関係性

 ・自殺の理由


ここに両者の考え方の違いが出ていて興味深かったです。


銀歌さんの作品では、主人公と姉の仲が険悪でした。

姉が自殺の原因になっているほどです。

普段明るい作品を書かれている銀歌さんがこの重苦しいシーンに文字数を割いたのは意外でした。

しかし、そこにはきちんとした理由がありました。


銀歌さん

「自分のプロットじゃないのをいいことにアオハルな感じで甘くしてみました。前半に尺を使いすぎたけど恋に落ちるのに理由は要らなくても死ぬのは理由が必要だと思ったのでそういう配分になりました」

(ノベプラのコメント返信より抜粋)


「恋に落ちるのに理由は要らなくても死ぬのは理由が必要」。

めっちゃ名言だと思いました。

また、銀歌さんはこのようなこともおっしゃっていました。


銀歌さん

「コメントでも少し書いたけど、恋に落ちるのって理由要らないじゃないですか。ぶっちゃけ、狭い範囲で年相応の相手が居たらそこでくっつくことなんてよくあるし」


ハルカ

「たしかに」


銀歌さん

「なので、そこはあまり気にせず、死ぬ理由の方をメインで考えました」

「そこで残ったパーツが『姉』ですよね」


ハルカ

「ふむふむ」


銀歌さん

「なので、姉を悪者にしました」


ハルカ

「うまくはまってますね。よく考えてらっしゃる」


逆に私は「死ぬ理由」をあえてぼかしてあります。

死にたくなる理由は人それぞれで、中には「そんな理由で死ぬの?」と思うような理由で死ぬ人もいると思います。でもそれは当人にとっては生きるか死ぬかの大問題なわけで。その人の悩みの本質は当人にしかわりません。

いくら文字数を割いて説明したところで、当事者でなければ「寄りそう」ことしかできず、完全に理解するのは困難であるというのが私の考えです。


……というのは建前で。

本当は文字数が足りなかったからです。書きたい内容・書かなくてはならない内容を並べて優先順位をつけて書いていった結果こうなったわけです。あと100文字あったら自殺の理由をほのめかすくらいはしていたかもしれません。10,000字あればきっちり書いていたと思います。


一応、自殺の動機の設定は用意してあります。

主人公が中学生の頃から両親は海外での仕事が多く、家を空けがちで、主人公は多感な時期に相談できる相手がおらず、重要な意思決定を自分でしなくてはならない場面も多かったようです。そのことが積もり積もって彼は次第に「息苦しさ」を感じるようになっていました。

三階という微妙な高さから飛び降りたのも、「死にたい」というよりは「両親に自分を見てほしい」という気持ちの表れだったのではないかと思います。


ちなみに、私が自殺の理由を書かなかったことに対して銀歌さんは驚かれたようです。読者の中にも気になった方がいたかもしれませんね。

このあたりは今後の創作に生かしたいと思います。



●情報量が多すぎる!


小説を書き慣れている方ならお気付きでしょう。

私が用意したプロットは、到底2,000文字に収まる内容ではありません。私なら少なくとも10,000文字は欲しい。ですが、今回はあえて短い文字数で書くことにこだわりました。


実は、今回の作品には密かな目的がありました。

それは作中で「説明」を練習をすること。

小説の中にはたくさんの情報が詰まっています。それらをひとつひとつ丁寧に説明すれば、たしかにわかりやすい文章になるでしょう。そのかわり、文字数は増えるし、退屈な文章になってしまいます。

一方で、まったく説明がないと状況をつかむことができません。


そこで私が考えた方法は下記のふたつでした。

1.すべてを説明しようとせず、最低限の説明だけにする

2.ストーリーを展開させるのと同時進行で、言葉の端々で説明をする


文章がうまいと感じる作品の多くは、短い言葉でもうまく説明しているものが多いと感じます。そういった文章を作るには、語彙の豊かさや表現力が物を言うのではないかと思います。

手持ちの部品のバリエーションが多いほど豊かな表現ができるし、しっくりはまる部品も探しやすくなるというわけです。


今回は2,000字という短い作品だったので、執筆中にたびたび立ち止まり「もっと最適な言葉はないか」と深く考えてみました。

執筆に時間はかかってしまいましたが、これはとても良い経験になったと感じます。



●文字数の関係で変化したこと ①姉との関係性


今回の作品を書いていて面白かったのは、「上限の文字数に収めるために設定を変えた」ことです。

普段なら、文字数が超過すればまず余計な言葉がないか、もっと短い言葉で言い表せないか、削っても意味の通じる部分はないか、といった点を見ていきます。

ところが今回はそれだけでは足りなかったので、設定を見直すことにしました。


まず、姉との関係です。

ノベプラに投稿した作品だと、姉は内心では弟のことをとても心配していて、弟の自殺未遂にショックを受け、その出来事を『なかったこと』にしたいという気持ちから遺書を破り捨ててしまいました。


ですが、最初の予定では下記のような設定でした。

主人公の姉は、実は大学受験の年で、ただでさえ両親不在の家を切り盛りして忙しいのに弟が自殺未遂騒動を起こしてしまい、もうすべてが煩わしくなって遺書を破り捨ててしまいました。


ただ、これは主人公にとってラッキーなことだったと美月は考えたのでした。

「お姉さんが遺書を破ってくれたおかげで自殺をなかったことにできる。そうじゃないと腫れ物扱いされて後の人生ずっと辛かったはず」と彼女は主人公に告げます。


これはまさに、事故で走ることができなくなってしまった美月自身が周囲から「腫れ物扱い」されているからで……あー、文字数が足りない。どう考えても足りない。思い切ってえいやっと端折りましたw

(;´∀`)


ハルカ

「最初の頃は『お姉さんが遺書を破ってくれたおかげで自殺をなかったことにできる。そうじゃないと腫れ物扱いで後の人生ずっと辛かったはず』と美月に言われて主人公が姉と仲直りをする、という設定がありました。文字数の関係で消えましたが」


銀歌さん

「おー、ハルカさんの方が優しい世界」

「きっとハルカさんは心を抉るようなエグいのを書いてくるだろうから、私もがんばらなきゃ!と思ったのにwww」


ハルカ

「がんばらなきゃwww うふふふwwww」

「いや、銀歌さんは銀歌さんのままでいいですwww」


ちなみに銀歌さん作の姉が弟をいじめていたのは、「弟が生まれたことで両親の興味がそちらへ移ってしまったのが面白くなかったから」だそうです。

シンプルでわかりやすい。

銀歌さんの作品は奇をてらわずストレートに表現しているものが多く、そんなところも好感が持てます。これもまた個性なのでしょう。



●文字数の関係で変化したこと ②クライマックスのロケーション


もうひとつ文字数の関係で変化したのが、美月が「死にたい」と呟くシーンのロケーションでした。

最初の設定では病院の裏手に砂浜があり、そこで入水自殺をしようとするが車椅子のタイヤが砂にとられて進めなくなる、という予定でした。


ですが、病院の裏に海があることや波の音の描写、主人公が海に移動するのにも文字数を消費するため、近場であるベランダになりました。

(;´∀`)トホホ


ですが、この変更は意外にも良い結果に繋がりました。

主人公と同じ「三階」から飛び降りて死のうとする美月。

自分が死のうとした瞬間のことがフラッシュバックして動けなくなる主人公。

これらの設定が偶然にもうまくはまり、いい感じになったと自画自賛しております。



●ストーリーの展開について


今回、銀歌さんの作品を拝読して私が「すごい!」と思ったのは、プロットの無茶ぶりともいえる終盤の急展開が綺麗にまとまっていたところです。


▼具体的にはこの部分です。


――――――――

怪我を抱えても明るく笑う美月は僕を照らす光だった。

だがある夜、彼女は死にたいと涙をこぼす。

僕は彼女の手を取り、二人で未来を生きようと約束する。

――――――――


えっ、明るかった美月がなぜいきなり死にたいとか言い出すの!?

しかもそこから「生きようと約束する」という急展開。

これにはプロットを作った本人もびっくりです。


ところが、銀歌さんがこのへんの流れを実にうまく処理してあるんです。しかも爽やかなアオハル仕立てという。

そして! そこからの!! タイトル回収!!!

щ(゚□゚щ)フォオオオ!!!

終盤です! とにかく終盤にご注目ください!



●プロット交換をしてみた感想


今回のプロット交換企画で気付いたことは、銀歌さんって「いい話」風に終わらせるのがとってもうまいということでした。

代表作にもそういったエピソードがいくつかありますし、プロット交換企画の第一弾『神様の手料理』もラストがいい雰囲気でした。


今回、お互いのプロットに苦戦しましたが、その分、得るものも多かったように思います。

また、こうして気付いたことを振り返ることにより、今後の創作活動にも生かせることでしょう。良い刺激になったので、ぜひまたプロット交換したいものです。


作品を読んでくださった方、コメントやスタンプをくださった方、そしてプロット交換企画に参加してくださった白井銀歌様、ありがとうございました!



●完成作品はこちら!

(ノベルアッププラス掲載)


・白井銀歌様

『僕の美しい月』

https://novelup.plus/story/690352679


・ハルカ

『命の涙』

https://novelup.plus/story/523600954

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