第13話 前向きになった心

 僕はアッシュやエルザとの食事を終えた後、二人と別れて帰還の呪文を唱えた。

 

 すると、そこはいつもの見慣れた自分の部屋だった。


 時刻を確認したけど、異世界に行ってから一分も経過していないことになっている。


 その辺のところは本当に不思議なんだけど、考えたら負けだという気がしないでもない。


 僕は本当に色々な経験ができたことに感慨深いものを感じながら、自室のベッドに横になった。


 今なら、もう一度、高校生活をスタートさせても良いと思える。

 

 異世界に行って自分の世界が広がった、いや、心の器が大きくなったと言うべきか。


 精神的に一皮むけた僕なら、高校生活にも立ち向かえると思う。


 少なくとも僕にちょっかいを出して来ようとする男子なんてゴブリンやオークに比べれば何の怖さもない。


 僕が悩み躊躇していたことなんて、本当にちっぽけなことだった。それを異世界に行って思い知らされた。


 いきなりで家族のみんなは驚くかもしれないけど、明日から思い切って学校に行って見ようかな。


 もし、現実の世界の荒波に耐えられなくなったらまた異世界に行けば良い。異世界に行って揉まれて来れば、また現実の世界に立ち向かうことができる。


 そう思った僕は居てもたってもいられなくなり、久しぶりに学校の制服に袖を通してみた。

 

 悪くない気分だ。


 そんなことを思っていると自室の扉が開いた。


 計ったようなタイミングで現れたのは妹の留美だった。留美は僕の姿を見てポカンとしている。


「お兄ちゃん、制服なんて着てどうしたの?」


 留美の声は何とも訝しげだった。

 

「ちょっと学校に行って見ようと思っただけさ」


 僕は肩を竦める。


「それってどういう心境の変化?」


 留美はいきなりのことに困惑しているようだった。


「お前には分からないよ。とにかく、今の僕は現実の世界の厳しさに戦いたいって言う熱意に溢れてるんだ」


 異世界での冒険が強烈な刺激となって僕の心を変えたのだ。その心の方向性は悪くないと思っている。


「そうなの」


「ああ。それは別に悪いことじゃないだろ」


「そうだね。お兄ちゃんならきっと学校でもやっていけるよ。今のお兄ちゃんの顔ってとっても輝いているから」


 留美はキラキラした目で言った。


「そうかな」


 さすがに輝いていると言われる程、自分が変わったという自覚はないけど。


「うん。人間として成長したって感じがする」


「そっか」


 人間、何がきっかけで成長するか分からない。何年たっても変わらない人もいればある日突然、豹変する人もいる。


 僕の今の心境はその中間くらいか。


「とにかく、私はお兄ちゃんのことを応援してるし、せいぜい頑張ってよ」


 留美はとびっきりの可愛い笑顔を形作った。


「ありがとう」


 僕はそう照れたように言うと、これからの毎日はとことん面白くなりそうだなと期待に胸を膨らませた。

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魔法が使えない僕が魔法の国に行ったら カイト @kaitogo

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