第8話 迷宮

 僕がアッシュの仲間になることを了承すると、広間の向こうから紺色の生地に金の刺繍があしらわれたローブを着た女の子が近づいてくる。

 女の子の手には樫の木で作られたような先端が曲がりくねった杖が握られている。


「話は済んだようね、アッシュ」


 赤毛の女の子は凛とした顔で言った。


「ああ」


 アッシュは僕を横目にする。すると、赤毛の女の子は滑らかな声を紡ぐ。


「私はエルザよ。アッシュとはパーティーを組んでいるの。もっとも、パーティーと言ってもまだ二人しかいないからアッシュの相棒のようなものね」


「僕はアッシュの仲間になったんです。役に立てるかどうかは分かりませんけど、よろしく」


 僕はできるだけ愛想の良い態度を心掛けながら言った。

 

 相手は十八歳くらいの女の子だし、これから仲間として一緒に行動していくのなら嫌われたくはない。


「あなたはどんな技術を習得してるの?」


「剣を振るうことにはそれなりに自信があります」


「そうは言っても、あなたは何の剣も持っていないようだけど」


「それを言わると困りますけど」


 やっぱり、剣を持ってなきゃ冒険者としては様にならないよな。その上、子供では侮られるのも当然だ。


「大丈夫だ。裕也には俺の予備のブロードソードを貸してやるから。剣の腕に自信があるなら、ちゃんと使えるだろ」


 そう言うと、アッシュは背中に括りつけていた剣を取り外して僕に見せた。


「なら、安心ね」


 エルザは屈託なく笑った。


「それであなたたちはこれからどうするつもりなんですか?」


 指針は訊いて置きたい。


「幾ら冒険者になったばかりでも、この王都アルサスの地下に迷宮があるのは知っているだろ?」


 アッシュは軽い感じで問いかけて来る。


「ええ」


 マギアスの書を読んだ僕は迷宮の存在は知っていた。


「迷宮には、魔界へと繋がるゲートからやって来たモンスターたちがいるから、それを駆除するんだ」


「それは大変そうですね」


「まあ、モンスターって言ったって、所詮はゴブリンやオークだからな。後れは取らないさ」


「でも、そうなると僕もモンスターとは戦うことになるってことですよね」


 怖くないと言ったら嘘になるな。


「そういうことになるな。ま、二人だと何か不測の事態に陥った時、対応できないが、三人なら何とかなるだろ。だから、お前には期待してるぜ」


 アッシュはグッと親指を突き立てた。


「なら、期待に添えるように頑張ります」


「その意気だ」


 アッシュが白い歯を見せてニカッと笑うと、僕たちはギルドの建物から出ることになった。

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