第3話 元の世界
僕は家に帰ると自室でマギアスの書を何度も読み返した。
その結果、魔法の国と言われているアルサントリア魔法王国のことと、それを取り巻く情勢のようなものは、頭に叩き込むことができた。
このマギアスの書に記されている呪文を唱えれば、いつでも魔法の力が支配している異世界に行くことができる。
でも、異世界で何をすれば良いのかは見当も付かなかった。
「お兄ちゃん、入るよ」
そう言って、自室に入ってきたのは妹の留美だった。
留美は中学二年生だけど僕と違ってできは良いので、将来は市内でも選りすぐりの進学校に通うと思われている。
そんな留美は身内贔屓ではないけれどとっても可愛いのだ。
「どうしたんだよ、留美」
「どうしたもこうしたもないよ。お兄ちゃんが学校に行かなくなって三か月が経つんだよ。そろそろ何とかしたいと思わないの?」
「思わないね。高校になんて行かなくても、僕の頭なら大検を取って大学に進学することはできる」
自慢じゃないけど僕は頭が良いのだ。一度、読んだ本の内容は七割方、記憶することができるし。
「学校に通わなきゃ学べないこともあるんだよ」
「かもしれないけど、それで苛められて来いって言うのは、少々、酷じゃないの」
「お兄ちゃんは腕っ節は強いじゃないの。お爺ちゃんに道場で鍛えられてたし」
僕の祖父は武術家なのだ。特に剣術に優れているので、昔は色々な戦い方を祖父から叩き込まれた。
「苛めって言うのは暴力を振るわれることだけに限らないんだよ。むしろ、露骨な無視とかの方が心に堪えるんだ」
「お兄ちゃん、学校で無視されてたの?」
「うん。ちょっと因縁をつけて来るクラスのリーダー格の男子を殴り倒しちゃってね。あれ以来、誰も僕に話しかけて来なくなった」
その男子生徒は見るも無残にボコボコになってしまった。あれ以来、僕を見るみんなの目には絶えず恐怖の感情が浮かぶようになった。
「だから学校に行くのを止めたんだ」
「そんなところだよ」
僕は苦い顔をする。
「ふーん。でも、高校生活をそんな風にすっぽかして後悔しても私は知らないからね」
そう言って、留美は僕の部屋から出で行った。
でも、そんなことはどうでも良い。
今、重要なのは僕が異世界に行く術を得たことと、この本のことだ。
正直、あの世界のこととこの本の謎を解き明かさなければ、夜も寝られない。
とりあえず今日は心を休めて、明日になったらまた異世界に行ってみよう。
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