異世界に転生したと思ったら精子だった?

乱輪転凛凛

第1話

精子だった。


僕は引きこもりだ。一日ずっとベッドで寝ていた。


「あぁ産まれたくなかったなぁ」


それが最近の僕の口癖だ。


なぜ自分から望んで産まれた訳じゃないのにこんなに辛い思いしないといけないのか分からない。


すると突然空が気になった。


「あれ?なにか音がする」


僕は上空を見上げるとなんとそこには巨大トラックが僕の家にめがけて落ちて来ていた。


「うわぁあああ!!トラック!!」


強烈な衝撃音と共にトラックは僕の家の前に落ちた。


「だ、大丈夫だった……しかしなぜ空からトラックが……」


僕はパジャマ姿のままトラックの方に駆け寄った。


運転席は潰れていた。

「大丈夫ですかーー?運転席さーーん!」


僕は荷台の扉が気になった。衝撃で開いていた。

中を覗くと


多くのマグロとイクラが冷凍された状態で置かれていた。


「うぉ……これは密漁?」


僕は直感した。間違いない。これほどのマグロは密漁に違いない。


「この運転手は一体……密漁者か?」

僕は潰れた運転手を覗くと


「兄ちゃん見てもうたなぁ」と後から声がした。


するとヤンキー風の小柄な美少女がそこにいた。


「美少女が本当に空から降ってきた……!」

僕は驚いた。


美少女は自分のことを美少女と言われてイクラの様に真っ赤になった。


「バカ……照れるようなこと言うんじゃねぇ」


「あたしは美少女なんかじゃねぇよホントの美少女は……こいつだ」

するとその美少女は巨大マグロをポンポンと叩いた。


僕は答えた。


「頭おかしいんじゃないですか?」


「とにかく警察を呼びますね。事故だし密漁だから懲役に入ってもらいます」


僕は毅然として言った。


「そいつは困るな」美少女は男言葉で言った。

「お前の家の前に落ちたよしみだ。せめてこのイクラの受精を手伝って欲しい」


すると冷凍されていると思ったマグロの1尾がブルブルと受精したそうに身体を動かしたので


僕はマグロの受精を手伝うことにした。


新鮮な冷凍イクラの入ったバケツにマグロの精子を僕は混ぜていた。


「美味しいマグロに育ってくれよ……」


僕は祈りながらイクラに精子を混ぜていると


すると


バチャーーーン


ポケットからスマートフォンを落として、それが精子まみれのイクラに落ちた。


「うわぁあああ!!防水携帯!!!」

僕のスマホは防水だったのだが、スマホを拾いあげると壊れていた。


「なんで?防水なのに!!」


「マグロの精子は小さくて強いんだ。スマホの隙間に入り込んでショートさせたんだろ」と美少女が言った。


僕は生命の神秘を感じた気がした。


「これ補償効くんですか?」


僕は倒れているマグロに聞くとマグロはなにも答えなかった。


僕は仕返しにマグロを持ち上げてその精子を絞りそれをアスファルトの上にまいた。


するとアスファルトがヌルヌルになり僕は滑って頭を打って死んだ。


暗闇の中にいた。


「ここは……」

全くの暗闇だった。ただなにか多くのものがうごめいているみたいだった。


目が慣れてくると見えてきた。


「こいつらは全員精子か?……」

僕は認識した。


そして自分の姿を確認した。鞭毛に丸い頭部。


「なんてことだ!僕は精子になったじゃないか!」


すると天上から声が聞こえた。

「ニート……ニートよ……聞こえてますか?」


「はい。なんですか。これは」


「ここは異世界のヒューマン種の睾丸の中……あなたは精子です……」


「え?精子なんですか?」


僕は自分の姿を確認した。


「精子じゃないか!僕は精子じゃないか!気づかなかった!」


「あなたは今まで数多くの精子を無駄に放出してきたした。そして、こともあろうに1キロ10万円のマグロの精子を無駄にしました」


「気づかなかった。そんな高いマグロだったんですか?」


「精子一匹一匹に命が宿っています。それをあなたはジェノサイドした」


僕は


「うわぁあああ!!!」


自分の罪の重さに鞭毛が震えた。


「だから精子になって自分の罪の重さを思い知りなさい」


「なんてことだ!自分の精子を殺した罪の重さが正視に耐えない!」


すると突然雷が僕の身体を貫いて、そして僕は死んだ。


そしてまた精子に産まれた。


「前世からの続きです。あなたは卵子に受精して生命の神秘を思い知り罪滅ぼししなさい!」


声は消えた。


目の前に数多くの精子たちがいた。


僕はその数の多さにゴクリとツバをいや精漿を飲み込んだ。



「うおおおおおおお」と精子たちは叫びだして突然エレベーターに乗り出した。


「うお!なんだこれは!」僕は流れに従ってそれについていった。


僕はエレベーターに乗った。


同じ精子たちが「うわぁあああ緊張するなぁ」と言っていた。


「誰が一番か競おうぜ」などと会話していた。


誰かが

「みんな一緒なんだから誰が一番になっても一緒だろ」

などと言い出して

多くの精子がそのとおりだと笑った。


しかし僕が

「精子にはXX染色体とXY染色体があって全部一緒って訳じゃないですけど」と早口で言ったら全員無視しだした。


「あれ?あれれぇ?正しい知識言われてるのに都合悪くなったら無視ですかぁ?」


「なんだろなぁ……これひょっとして知識面で選別始まってる感じっすかw」


などと言ったら、皆んなクスクス笑い出した。

「なんだこいつ……空気読めよ」

などとボソボソと仲間うちで話しだした。


「はい!アホ確定。あなた方は空気読む前にちゃんと本読んでくださいねぇ」


「あとアホ特有の論破された時にまともに反論出来ずに仲間内で悪口言い合って慰め合う展開いつものパターンっすねw」


などと煽っていたら、精子の一人が

「ねぇあの人めちゃくちゃ早口じゃない?」と言い出して多くの精子でクスクス笑い出した。


「あーーまともに話し合いできねーんならもーいいわアホども。一生慰め合っとけ!バーカ!」

などと悪態をついて僕はエレベーターを降りた。


「あーマジ産まれる前から気分悪いわーー!」僕はカタパルトに乗った。


「えええ?こんなロボットみたいにカタパルト乗るの?」多くの精子がカタパルトに乗った。


3,2,1発射!


凄まじいGによって発射される僕たち。


そしていつの間にか僕は気絶していた。


「起きなさい……起きなさい……」


誰かの声が聞こえる。


「ババアか?飯は部屋の前に置いとけって言っただろうが!」


と僕が怒鳴ると同時に目が覚めた。


「ここは……」

目が覚めると巨大な洞窟だった。


「中に入ったのか……いや、中に出されたのか……」


僕は考えた。


すると後から声が聞こえた。


「よう色男。さっきの啖呵胸に答えたぜ」


後ろを振り返るとカウボーイハットを被った精子がいた。


後ろの精子が言った。

「お前名前は?」


僕は答えた。

「僕の名前は……精子だ」


後ろの精子は言った。


「実は俺の名前も精子なんだ」


「なんだか他人とは思えないな」

と笑って後ろの精子は言った。



周りを見回すと多くの精子が静止したように動かなかった。


「あれ?ひょっとして生死の境にいる?発射されたGの影響か?」僕は言うと


カウボーイハットの精子が


「Gと言うか自慰の影響ともいえ……うわぁあああ!!!」


突然洞窟の角度が変わって崖のように垂直になった。


カウボーイ精子は洞窟の出口に落ちていった。


「クソッ!なんてことだ!」僕は洞窟の壁にしがみつきながら言った。


するとカウボーイハットがなぜか上の方からヒラリヒラリと落ちてきた。僕はそれをキャッチすると


「あいつの形見か……お前も一緒に行くか!」とそのカウボーイハットをかぶった。


崖を登ると亡くなった精子が居たので、かぶってたカウボーイハットをその顔にかけてやった。


そしてまた崖を登った。


登り続けると大きな声で誰かが叫んでるのが聞こえた。


一人の精子たちの話を多くの精子たちが聞いてるようだった。


「信仰しなさい!」

と大声で精子が言った。


「信仰して、なぜ自分たちが精子として生を受けたか考えなさい!」


どうやら説法してるようすだった。


信者の一人が答えた。

「きっと睾丸が我々を産んだためです!」


教祖は「喝!!」


と怒鳴った。


「そんなことも分からんのか!」


僕が答えた。


「それはきっと、僕らが睾丸から産まれたからでは?」と言った。


教祖は深くうなずいて

「ようやく儂の教えを伝授出来る人間が現れた!」と言った。



僕も深くうなずいた。


「そうだ。我々は卵子に辿り着かないといけないという固定概念にとらわれている」


その教祖は言った。


「はたしてそれは正しいのだろうか?」


「違う!」「絶対違う!」などと口々に精子たちが声をあげた。


「卵子にたどり着いても結ばれるのは一匹きり、それは公平さを保てていると言えるのだろうか?」教祖は言った。


「不公平だ!我々はこの醜い競争から降りるぞ!」などと

口々に言っていた。


「我々の行くべきところは我々を産み出した母なる睾丸ではないだろうか!」

と教祖がいうと

歓声があがった。


僕は涙が抑えきれなかった。


その通りだった。睾丸なら我々全てを受け入れてくれる。不寛容な卵子と違って。


「祈ろう!いつか母なる大地に戻れる時に!」と教祖が叫んだ。


すると奥から船に乗って、どんぶらこどんぶらこと卵子が降りてきた。


「な……なんだこれはまさか……排卵日?」

僕は憤った。


「聞いてないぞ!排卵日じゃないか!どうなってるんだ!」


僕はスマートフォンを取り出し連絡し始めた。


連絡先はもちろんこの卵子の持ち主だ。


「はい。もしもし」と女性の声が聞こえた。


「もしもし卵降りてますけど!」僕は苛立ちながら言った。


「えっ?そうなんですか?」とその女性は言った。


自覚がないらしい呆れた。


「すいませんがあなたの生理周期教えてもらってもいいですか?確認しますので」


「え?それはちょっと無理です」


「ふざけるんじゃねぇ!!!」僕は怒鳴った。


「今まさに事件が起きてるんだよ!お前の子宮の中で!自覚持てよ!」


「わかりました。今生理周期管理アプリ開くのでちょっと待っててください」


「なにやってるんだよ早くしろよ……」


「分かりました。今日は排卵日です」


「はああああああ?!!!」僕は憤った。どういうことだ。


「妊娠しちまうだろうが!!」

「お前らの都合で射精してんじゃねえ!」

と憤った。


「妊活してますので」とその女が言うと


「妊活?なんでも活、活つけるんじゃねえよ。いい加減にしろ!」


「で、どうすれば良いですか?」と苛立ったように女が声をあげた。


「この排卵された卵を一回戻すんだよ!」


「え?それは……セクハラ発言ですよね?」


「なにがセクハラだよ!産まれるか産まれないかの瀬戸際なんだよ!なんでもかんでもセクハラって言うんじゃねぇ!」


「分かりました。頑張ります」と言って電話は切れた。


卵子はどんぶらこどんぶらこと奥に戻って行った。


「みんな自分勝手すぎるよ……」僕は慟哭した。


「で、これからどうするんじゃ?」と教祖が言うと


洞窟の入り口の方から大きな叫び声が聞こえた。


凄まじい怒号


そして誰かが叫んだ。


「うわぁあああ!!新しい精子だ!しかも獣人の精子だ!」


凄まじいスピードで僕らの種族の精子を殴り倒しながらこっちに迫っていく。


「なんだこれはなぜ他種族の精子が?俺たちがここにいるのに!」


僕の怒りは頂点に達してすぐさまこの子宮の主に電話をかけた。


「おい!お前なにやってんだ!なにやったんだよ!」と怒鳴る。


すると向こうから泣き声が聞こえた。


「ぐすん……ぐすん……さっきセクハラされたから悲しくて慰めてもらおうと思って……」


「はぁ?!」僕は憤った。


「男友達の獣人くんに会ったらそういうことになっちゃって……」


「そういうことってなんだよ!自然な流れで中に出されてるんじゃねぇ!俺たちの身にもなれよ!」


「でも……でも……」


「でもじゃねぇ!明らかお前が貞操観念ゆるゆるなだけじゃねえか!それなのに悲劇のヒロインぶるんじゃねえ!」


すると女の子が

「はい。今までの会話全部録音させてもらいました。法廷でお会いしましょ……」


僕は通話を切った。



「ふざけるんじゃねぇ!」僕は怒ってスマホを叩き割った。


すると教祖のジジイが

「怒っていても仕方ない。肝心なのはこれからどうするかじゃ……」


と言いながら女装し始めた。


「ジジイなにやってんだ!なに女装してるんだ!」


ジジイは言った。

「これで良いんじゃよ……」


と言って獣人の精子の群れに走って行った。


「オイ……なにやってんだ……オイ!!」


向こうから迫る獣人の精子は女装した教祖を卵子と思い込んだみたいだった。


教祖は獣人の精子に囲まれて無茶苦茶にされた。


「ジジイーーーーーー!!!チックショーーーーー!!!」僕は号泣した。


僕は泣き叫びながらその場を後にした。









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