焼きたて!餃子マン!!

@dekai3

ピンチ!餃子マン逮捕寸前!!

 ここはヤムチャランド。

 古今東西の蒸し器で蒸す中華料理の集まる共和国です。


「え~ん、おなかが空いたよ~」


 そんな共和国の端にある小さな公園で、一人の女の子が泣いていました。

 女の子は金髪のツインテールに黒いエナメルの編み編みレオタードを身に着けていて、エグい長さのピンヒールを掃いて手には馬鞭を持っています。


ヒューン


 女の子がえんえんと泣いていると、空から何者かが現れました。


「そんなに泣いて、どうしたんだギョザ?」


 餃子マンです。

 彼はこのヤムチャランドに住んでいるヒーローで、いつも困った人がいないかパトロールして回っています。

 空を飛んでいる最中にこの泣いている女の子を見付けて降りてきたのでしょう。


「おなかが空いて仕方がないの…」


 女の子は餃子マンを見ると泣き止み、わざとらしく餃子マンの腕を両手で握ると、菱の字型に空いているレオタードの胸元に押し付けながら説明します。


「そ、そそそそそうなのかい? それはたったたたた大変だギョザ!!!!???」


 餃子マンは腕に当たる柔らかい感触に緊張し、インエクスペリエンス男性特有の挙動を見せます。

 それを見た女の子は餃子マンに見えない様に舌なめずりをし、餃子マンの腕に体を押し付けて餃子マンの手首が自分の下腹部に触れるか触れないかでもぞもぞします。

 かなりのやり手ですね。素人ではないでしょう。


「そうなの~、だ、か、ら、餃子マンを食べさせてほしいな~」

「ぼ、ぼくをギョザ? しょうがないギョザね~」


 餃子マンはインエクスペリエンス男性なのでチョロいです。チョロすぎて壷や版画を買わされないか心配になりますが、こうしてお腹が空いている人を助けるのも餃子マンの仕事の内の一つなのでやましい気持ちはありません。

 例え股間が餃子の包みみたいにふっくらとしていても、それは餃子だからセーフなのです。中身は餃子の餡です。餡なので大丈夫です。


「じゃあ、これを食べるギョザ」


 モチィ


 餃子マンはそう言うと、女の子に体に密着しているのとは反対側の腕で自分の頭をちぎり、女の子に差し出しました。

 餃子マンの頭は餃子で出来ています。

 中国四千年の技術で作られたとてもおいしい餃子です。


「ふふっ、そうじゃないわ。私が空いてるおなかはお腹じゃなくて~」


 でも、女の子は差し出された餃子を受け取りません。

 代わりに女の子はとんでもない力で餃子マンを引っ張り始めました。


「わわっ、ちょ、ちょっとちょっと、何処にいこうというギョザ?」


 餃子マンが女の子に引っ張られて連れてこられたのは、ショートでだいたい3800円ぐらいの公園の目の前にある休憩所。

 一人で訪れると受付に『お連れの人は後からみえますか?』と聞かれるタイプのアレです。


「おなかなの」

「えっ?」


バタン




~~~~~~~~暫くお待ちください~~~~~~~~




バタン


「ん~、良かったわぁ~、餃子マン」

「はぁっ…はぁっ…」


 女の子と餃子マンが休憩所から出てきました。

 女の子は心なしか顔がツヤツヤしていて、先ほどまで「おなかが空いた」と言って泣いていた女の子には見えません。

 代わりに餃子マンは顔がしぼんでしまっています。かなり色々と吸い取られたのでしょう。


「ふふふ、これでヤムチャランドは私達の物ね」


 二人が休憩所から公園に戻ってくると、女の子は急に餃子マンに敵意をむき出しにしました。


「な、なんだギョザ? 君はいったい…」


 餃子マンはふらふらになりながらも、敵意をむき出しにした女の子から離れます。


「私はサキュバス帝国の幹部、『分からせるメスガキ』のチェリーよ!」


ババーン!!


 なんと、この女の子はヤムチャランドを狙う勢力の一つのサキュバス帝国の幹部だったのです。


「な、なんだってギョザ!?」


 これには餃子マンも驚きます。

 全くサキュバスの素振りを見せない完璧な変装でした。これが幹部の力…


「私の能力は私に手を出した男性を支配下に置き、絶対服従をさせる事。ただでさえ私に上に乗られて抵抗できなかったあなたに、私を倒すことが出来るかしら?」


 チェリーはメスガキ特有の成人男性をなめ腐った上目遣いで餃子マンを見つめます。

 餃子マンは既に術中に落ちてしまっているのか、その目線を受けても怒るどころか逆に腰を ビクンと跳ねさせて膝から崩れてへたり込んでしまいます。


「ふふっ、ほーらぁ、こんな小さな子に踏んづけられて悔しくないのぉ~?」


 そんな餃子マンを見て、チェリーは餃子マンの肩を足で踏みます。

 身長差のせいでチェリーの足の付け根と餃子マンの顔の高さがかなり際どい感じになっていますが、餃子マンはヒーローなので大丈夫です。多分。


「や、辞めるギョザ…君はそんな子じゃないギョザ…」


 餃子マンはチェリーによる成人男性の自尊心の支配を受け入れながら、優しくチェリーを諭します。

 チェリーと出会ったのはほんの三時間前ですが、とても濃厚な三時間を過ごしています。それだけでインエクスペリエンス男性を卒業したばかりの餃子マンは相手の事を心配し、優しい声をかけてしまうのです。


「は、何よ今更! 私が苦しい時、大人は誰も助けてくれなかった。だから私が大人に分からせてやるのよ! メスガキの恐ろしさをね!」


 ですが、その言葉はチェリーにクリティカルでした。

 チェリーが痛い所を突かれて激高したからか餃子マンへの支配が緩み、餃子マンは咄嗟に空へと逃げます。


「あ、こらぁ! 逃~げ~る~な~!」


 チェリーは逃げる餃子マンを見て馬鞭を振り回しながらぷんすか怒ります(かわいい)。本性を出してからのぶりっこは余程の実力が無ければかわいさなど感じません。チェリーも幹部になるのにそうとう苦労したのでしょう。


「僕は逃げないギョザ。それよりもチェリーちゃん、今ならまだ何もなかった事に出来るギョザ。大人しくしてくれないかギョザ?」

「大人しくなんかしないわ、私は『分からせるメスガキ』よ!!」


 ここまでされても餃子マンはチェリーを許す気でいます。

 初めての相手のチェリーにかっこいい所を見せたいのもそうですが、彼はヒーローなのです。ヒーローにとって子供は全て救う対象なのです。

 でも、その気持ちはチェリーには伝わりませんでした。

 餃子マンにヒーローとしての意地がある様に、チェリーにもメスガキとしての意地があるのです。


「そうギョザか…君とは分かり合えると思ったのギョザけど、お別れギョザ」

「何を負け惜しみを……グッ!!?」


バタリ


 これ以上の説得は不可能だと思った餃子マンが諦めて肩を落とすと、チェリーが急に倒れました。


「い、いったい…何を…」


 チェリーは茫然とします。餃子マンが自分を攻撃した様子はありません。これは予め毒でも仕掛けられたとしか思えません。

 ですが、先ほどまでチェリーに手玉に取られていた餃子マンにはそんな事をする余裕はないはずです。

 心当たりがあるとすれば、チェリーが直接体内に入れた物。


「ま、まさかっ!!?」

「そう、僕の餃子は頭だけじゃないギョザ。股間のふくらみも餃子ギョザ。そして、君らサキュバスは餃子に含まれるニンニクが弱点ギョザ!!!」

「そ、そんな~」


ボカーン!!


 チェリーは餃子に含まれるニンニクの影響により、爆発しました。

 そうです。餃子マンの股間は本当に餃子なのです。休憩所ではずっと餃子マンの餃子を食べられていただけなんですね。セーフです。完全なセーフです。


「チェリー……さよならギョザ……僕の初めての人……」


 餃子マンはチェリーの爆発を見届けると、ヤムチャランドのパトロールに戻ります。

 冷たい様にも思えますが、餃子マンにチェリーの死を悲しむ暇などありません。ヤムチャランドはサキュバス帝国にだけ狙われているはなく、複数の敵に狙われているのです。


「もしも平和な世界に産まれ変わったら……その時はもう一度、おなかいっぱいに餃子をオゴるギョザ……」


 頑張れ餃子マン。

 負けるな餃子マン。

 ヤムチャランドが平和になるその日まで、戦うのです餃子マン。

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