[4] 上部シレジア作戦

 モスクワの「最高司令部」は3月にベルリンに向かう攻撃軸の「側面」の掃討が解決したことによって、再び縦深方向に注目するようになった。皮肉なことに「最高司令部」は奇しくもヒトラーがのめり込もうとしていた戦線と全く同じ方面に注目していた。つまりハンガリーである。

「最高司令部」は2つの作戦を遂行するよう各正面軍に命じた。すなわち、第1ウクライナ正面軍の南翼は上部シレジアでオーデル河沿いのオッペルンに出来た突出部から中央軍集団を一掃する。第2ウクライナ正面軍と第3ウクライナ正面軍はブダペストの西と南西からハンガリーの解放を完遂し、それからウィーン攻略に向かうというものである。

 この2つの作戦は当該地域のドイツ軍を拘束することで、ベルリン東方のオーデル河防衛線への増援を阻止するとともに、ベルリン近郊とチェコスロヴァキアに存在するドイツ軍最大の防塞地帯に対する今後の作戦を容易にするためのものであった。両作戦は3月15日に開始されるよう計画された。

 第1ウクライナ正面軍はこの時、ナイセ河を100キロに渡って制圧下に置いていた。ベルリン攻略作戦の発起線は確保され、ブレスラウは包囲下にある。だが、シレジア地方を巡る戦闘は苛酷なものになった。オーラウ橋頭堡の南では、3月いっぱいを通じて第17軍との戦闘が続いた。

 3月1日、中央軍集団司令官シェルナー元帥は麾下の部隊に対してラウバンに対する反撃を命じた。不意の反撃に虚を衝かれた第3親衛軍(ゴルドフ上級大将)は同市を放棄せざるを得なくなった。この知らせを聞いたゲッベルスは狂喜した。

 3月8日、ゲッベルスは宣伝省のカメラマンを連れてゲルリッツに赴いた。そこでシェルナーと会い、2人でラウバンに向かった。街では市場広場でパレードした正規軍、国民突撃隊、ヒトラー・ユーゲントの前でそれぞれ祝賀演説を行った。ゲッベルスは何人かのヒトラー・ユーゲント団員に鉄十字章を授与するところをカメラに収めさせた後、今回の作戦で擱座したソ連軍戦車を視察した。ドイツ領内で戦闘が行われているという事実が抗戦意欲を燃え上がらせるだろうとナチスは考えていたが、実情は異なっていた。

「兵隊は完全にやる気を無くしている」第359歩兵師団に所属していた捕虜はソ連軍の尋問に答えた。「我々は死ぬまで戦えと言われているが、完全にお先真っ暗だ」

 3月9日、シェルナーは再び反撃を命じる。今度はブレスラウ西方40キロのシュトリガウに対するものだった。この時も中央軍集団は同市を奪還することに成功した。第1ウクライナ正面軍は度重なる戦闘で消耗していたが、モスクワの「最高司令部」は新たな攻勢―上部シレジアオーベルシュレージェン作戦の実施を命じた。

 3月15日、第一ウクライナ正面軍による上部シレジア作戦は予定通り開始された。2個戦車軍団(第4・第21)がグロトカウから南に向かって突進した。数日の内にこれらの戦車部隊はノイシュタット付近で第59軍が第7親衛機械化軍団、第31戦車軍団と連結した。

 3月17日、第4親衛戦車軍はラティボルの北に位置する橋頭堡から突破してきた友軍と合流を果した。オッペルンの南東で第169歩兵師団と第20SS武装擲弾兵師団が包囲されてしまった。中央軍集団はオッペルンから上流のオーデル河沿いの陣地を放棄せざるを得ない状況に追い込まれた。

 3月22日、第1ウクライナ正面軍は攻撃軸を南に向けてチェコスロヴァキアとの国境を目指した。第4ウクライナ正面軍(ペトロフ上級大将)がこの攻勢を支援するためにオーデル河の西に進出し、ラティボルに向かって突進した。

 3月30日、第4親衛戦車軍と第60軍(クロチュキン上級大将)はラティボルを占領することに成功した。オッペルンの包囲網を外部から突破しようとする中央軍集団の反撃は撃破されてしまい、包囲された将兵3万人のうち半数が死亡した。

 第1ウクライナ正面軍は同月31日までに上部シレジア地方を制圧して先鋒はスロヴァキア国境に迫った。上部シレジア作戦の成功により、第1ウクライナ正面軍はドレスデンとプラハに向かう新たな攻勢に出る上で有利な位置に占守した。同時にベルリン攻略作戦に参加するため、広範囲に渡って軍の再配置を余儀なくされた。

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