第5話

 目を丸くしている若い男を見下ろす。

 この顔、殺されるとしか思ってなかったな?

「こ、殺すんじゃ…?」

「阿呆か。母親の前で息子殺せるか。母親の気持ちにもなってみろ。己助ける為に我が子が死んで喜べるか?わかれ。」

 そういうとやっと気付いたか大粒の涙を流し始めた。

 その背中を押して母の方へ行かせる。

 あの薬を使ったのは惜しいが、手元でどうにかするには仕方がなかった。

 それに最初の獲物を含めて五人ものこのこと霧の中に来たものだからこいつを殺す必要はなくなった。

 満足だ。

「狼様、ありがとうございます…!」

 頭を下げる親子に目を背けた。

「お礼は、何を?」

「要らん。もう喰った。」

 霧に紛れ失せる。

 流石に薬を使って狼に見せるのは無理だ。

 病や薬の効きに影響でもしたら最悪だからな。


「…で、才造は結局何をしに行ってたわけ?」

「言った通りだが。」

 夜影は呆れた様子でもなく笑った。

 獲物は喰った。

 人を助けた。

 それだけだ。

「狼さん…否、狼様はこれからあの山に住むのかな?」

 からかって放たれる言葉に頭を掻いた。

 なんとなくこう言われることはわかっていた。

「住まん。正直まともな薬草もない山はお断りだ。」

「ごめん、ちょっとそれは予想外。」

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