第14話

 アイワーンの迷宮内は暗い石窟のような場所であり、壁には『善』の戒律の冒険者たちが付けておいたのだろうか、たいまつが至るところに付けられていた。


 また、迷宮内には土の臭いが充満しており、独特の臭いがしていた。


 ここは第一層なだけはあり、死体などもなく、よく整備がされていた。


 さらに迷宮の入り口の付近は商人が様々なギルドと協力して、作り上げた小さなお店を開いている、


 そこではギルド会館や酒場以上に冒険者たちの交流が盛んであった。


 そこにいる冒険者大半は『悪』の戒律の冒険者であるためか、不法に作られた魔物から剥ぎ取られた皮や魔物、それから珍しい武器が売られていた。


 この階層では危険な魔物も少ないこともあり、たくさんの駆け出しの冒険者がいた。


「遅いぞ。そこの二人」


 アレックスは遅れてやってきた二人にそう文句を言った。


「遅れてごめんなさーい」


「同じく悪かった」


 その二人の反応を見るや、アレックスは先が思いやられると思ったのだろうか。


 大きく溜息を付きながらこう言った。


「聖女殿…事の重さを理解しているのでいるのか?今や強大な力を持つ異世界人がこの迷宮に挑もうとしている。さらに神託よりも前に『黒銀の鉾』のメンバーが既により迷宮深くに潜っておる。一刻を争う事態というのを大司教様よりお叱りを受けたのを忘れたのか?」


「まぁまぁ、アレックスさん落ち着いて」


 アレックスは溜息混じりにそう言うと、エゼルミアがなだめながら間に入ってきた。


「それなら言い争っている場合ではないだろうな」


「それは…今言うことか?」


 ヴォンダルの皮肉にアレックスはやれやれと言わんばかりに首を振った。


「確かに冒険者もオレが前来たときよりも増えているし、腹立つけど『黒銀の鉾』のメンバーで見たことあるやつらもいるしな。急ぐなら、早くした方がいい」


「?知っている人いるの?」


「まぁ、半年も冒険者やっていればな。だけど、彼らの戒律はほぼ『悪』だけだ。『善』の君たちとは同じパーティは組めないよ」


「だけど、私は迷宮内なら『善』と『悪』の人たちがパーティもいるって聞いたけど?」


「極稀だけどな。大抵は地上に戻れば、二度と組まないし、もし長時間組んでいるとどちらかがそちらの色に染まるか、価値観の違いから仲間割れを引き起こす。ま、めったにないけどね」


 彼の言うとおり、『善』と『悪』のパーティはめったにない。


 もし仮に組めば、彼の言葉通りになるだろう。


 その果てにはどちらかに染まるのがセオリーであるが、だが稀に戒律によっては就くことができないの『悪』の聖騎士や『善』の忍者といった珍しい存在が生まれることもある。


 戒律は職業さえも制限かけてしまうほどの強い制約だ。


 特に上級職の魔法剣士は『善』と『中立』の者しか付けず、聖騎士は『善』のものだけが就けるのだ。


 反対に忍者は『悪』の者しか付けず、こういった迷宮探索に不可欠な存在である盗賊【シーフ】は『中立』と『悪』の者しか付けない。


 要するに『善』のみパーティはなかなか存在しないのだ。


 『悪』は自分たちだけの戒律だけで組めるのに対して、『善』は『中立』の者の力を借りるのが大半だ。


 稀に『善』に染まる者もいることも事実であるが…。


「ふ~ん」


 ソウマの解説を歩きながら聞いていると、ある程度歩くとソウマが歩くのを止めた。


「【ライト】を使える者はいないか?」


「何で?まだ明るいよ」


 不思議そうにルビアがそう尋ねてきた。


「簡単よ。あそこにある階段はほとんどの冒険者が通っているだろ。あの階段は一見すると、正規の道に見えるけど、実際にはあの階段だと第四層まで行けないんだよ」


「えっ、そうなの?」


「ああ、だからこっちの【ダークゾーン】を通らないと、より深層に行けないんだ。だから、必要なんだよ」


 そう言って、彼はいかにも危険そうな完全な暗闇の空間を指差した。

 

 ダークゾーンと言うのは、おそらく魔力で作られた完全な暗闇空間だ。


 ここを通過するためには【ライト】という光魔法がないと突破するのが困難であろう。


 当然、このような場所には罠も極めて多いのだ。


 そのため、ほとんどの冒険者はこんな危険な道を通ることは少ない。


「お前さんの言うこともわかるが…その前にお客さんらしいな」


 ヴォンダルがそう言うと、迷宮の角から魔物が現れた。


 猪のような牙を持つ豚の頭部をした野蛮な種族であるオークだ。


 軽くざっと見た感じでは6、7匹はいるだろう。


「フゴフゴッ【訳:おい!見ろよ!旨そうな人間だぜ!】!」


 オークたちは冒険者たちの姿を見るや、手にした棍棒ですぐに無防備にも襲い掛かってきた。


 このオークという種族は野蛮で暴力的な種族で分かり合うことはないだろう。


 おまけに知能も極めて低く、彼らは単純なことしか考えれらないのだ。


 彼らには突撃か撤退の二文字しかないのだ。


「オークか」


 独特な悪臭を放つオークたちにアレックスは嫌な顔をした。


「あれくらいの魔物ならばすぐに決着がつくだろう。さっさと片付けるぞ!」


 ソウマはそう言うと、腰に携えた『村正』を引き抜き、オークたちに斬りかかった。


 オークたちの攻撃は大振りであり、余程の戦闘の素人でなければまず当たることはない。


 実力差は明白であったため、あっさりと真っ二つに一匹のオークがソウマに叩き斬られたのだ。


「フゴッ!【あ、兄貴!】」


「フゴフゴッ!【てめぇよくも!】」


 オークたちが武器を構えて、ソウマに緩慢な動作で振りかぶった時だった。


「ウィンド!」


「アイス・ストーム!」


 風の刃と氷の嵐が他の2、3匹をあっさりと仕留めたのだ。


 ルビアとエゼルミアの魔法だ。


 ルビアが使った魔法は僧侶及び聖騎士などが使用する光魔法と呼ばれるものだ。


 光魔法は主に回復や補助が中心の魔法であるが、唯一風魔法のみが攻撃魔法としてあるのだ。


 彼女が使ったのは“ウィンド”と呼ばれる下級魔法だ。


 一方、氷の魔法を使用したのはエゼルミアだ。


 これは主に魔術師と魔法剣士が使用できる闇魔法という攻撃的な呪文であり、ほとんどが攻撃魔法で占められている。


 ソウマが使用したファイアーボールはここに属する。


「オークは私たちエルフにとっては汚らわしすぎて駄目だわ~」


 エゼルミアは笑顔を装っているが、内心殺意に満ちていた。


「フゴッ!【うげっ、エルフだ!目が汚れる】」


「フゴゴッ!【すげぇキモいデザインだな!】」


 エルフとオークはどんな戒律でも相容れず、おそらく種族の血が嫌悪感を生まれつき感じさせるのだろう。


「やっぱりオークは丸焼きが一番よね~」


「エゼル、凍らせているから」


 ルビアの突っ込みを置いといて、彼女は次の呪文を唱えようし始めた時だった。


 それを見て、恐れをなしたのだろう。


 オークたちは彼らの強さに恐れをなしたのか、武器を捨てて逃げ出したのだ。


「逃げちゃった…」


「一昨日来やがれです」


 『善』のパーティの彼らは戦意ないものは見逃すのがセオリーだ。


 彼らはオークに戦意がないことを見るや、武器を収めた。


「ちっ…仕留め損ねたわ」


「エゼルちょっと怖いんだけど。いつもとキャラ違くない」


 ルビアが怯えるのも無理はないだろう。


 しかし、そもそもエルフとオークは根本的に相容れない種族であるのだ。


 両種族ともにお互いを生理的に嫌悪しているのだ。


 それこそ見つけたら皆殺しにする程に。


「ま、とりあえずはざっとこんなものだろう」


 そんなやり取りに軽く引きつつも、ソウマは一息つくと小さな短刀を取り出した。


「ちょっと待って、ニー君何しようとしているの?」


「何って?ああ、素材剥ごうとしているだけ」


 そう言って、ソウマは不器用ながらもオークの皮を剥ぎ始めようとしたが、


「…!あ、急いでいるから後にしよ!ほら早く!」


とルビアは彼の襟首を掴むとダークゾーンに彼を引っ張ってに入っていた。


(オークなんて臭いから嫌!)


 嫌がるルビアは心の中でそう思いつつも、対照的にソウマはちょっと不服気味だった。

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