第四十一話 A級ウェポン

 特殊な状況・宝箱から出現するアンデッド関連……いや、《大霊宮ニルンパレス》関連の品が

ニルヴァーナに関係しているのは恐らく正解だろう。それ以外にも考えれらることはあるが、とりあえずは正解だと思いながら考えを進めた方が発見も多い。


 《黒檀魚ブラックバス》の死骸から漏れ出した魔素によって形成されたクランクベイトを始めとした幾つものダンジョンから、それぞれニルンパレス関連のアイテム、ないしはウェポンが産出されるのであれば僕は全てのダンジョンを潜らなければならない。


「そろそろ外は日暮れじゃないか?」

「そうだね。そろそろ帰ろう、リューシ」

「うん」


 大量の魔石を抱えたカディの腕の下で鞄を広げ、全て仕舞って帰路についた。


 このフィールド型ダンジョンであるベイトリールは、クランクベイトのように個室に宝箱が置いてある訳ではない。言葉は変かもしれないが、野晒しだ。草木に囲まれた空き地等に置いてあって、それを探す訳だが、草も草で背も高く、不用意に触れれば肌を傷つける品種も多く、油断出来ない。


 しかし中には薬効のある品種も生えているので、それらをメインに収集する探宮者達も見受けられた。

 姉さんはともかく、僕も手伝いで薬草の栽培や収集を手伝っていたのである程度は分かった。目に付いた草は出来るだけ摘み取るようにしている。


 こうして減った薬草もまた、リセット日以降は生え揃っているらしいので、半永久的に小銭稼ぎが出来る訳だ。まぁ、大成を目指すのであれば、草を千切っている暇はないのだが。


「お、宝箱」


 背の高い草よりも背の高いカディが道から少し外れた草地の中に宝箱を見つけた。姉さんが空へ舞い上がり、ちゃんと確認するが、『あっ』という声が聞こえた。


「他の探宮者が見つけちゃったみたい」

「どうする?」

「譲ろう。変に揉めたくない」


 こうした事は数回あった。クランクベイトでも個室の反対側の入口から同時に入ってきて、さぁどうしよう? なんて場面もあった。多少、柄の悪い人間が多いことを考慮すれば、譲ってしまうのが一番安全で簡単だった。


 それ以来、譲ることが多くなった。これからもきっと譲るだろう。


「ニルンパレスの品だった場合は?」

「……んー…………」


 カディの言葉に答えが詰まった。そうか……その事を失念していた。


「貰えるようにお願いする?」

「それで貰えたら苦労はしないだろうな……」


 やっぱり駄目か。いや分かっていたけれども。


 しかしそうなると全ての宝箱を独占しなければならなくなる。それはどう足掻いたって無理だし、どうしようもないと諦めるしかないだろう。


「今までは……と言ってもまだ2回だけど、いつもとは違う状況で見つけた場所の宝箱やモンスターから手に入ったから、多分普通の宝箱からは見つからないと思うよ」

「ふむ……まぁ今はそう割り切るしかないか」


 人が見つけた宝箱を横から割り込んで開けて、違ったからいいやでは許してもらえないだろう。今まで通りで問題ないな。


「小手みたいだねー」

「小手か……」


 そういう防具なら身に着けられるから欲しいなと思った。普段は日除けの手袋だけだから、それに合うウェポンを手に入れられたら少し安心出来る。


 そうなると他にも欲しい物は増えてくる。大きな鎧は無理でも、部分部分を守る防具は欲しい。


「良い防具が見つかるといいな」


 誰にともなくそう呟く。守られるだけでなく、自分で守れるようになっていきたい。



  □   □   □   □



 ダンジョンを後にしてギルドへ向かう。雨は上がり、日はとっくに落ちて周囲は夜の空気に満ちている。道すがら屋台で1つ2つと料理を買ってしまうのは匂いの所為だ。ダンジョンに潜って疲れ、空腹になって出てきた所に店を構えられては買わざるを得ない。上手い商売だ。


 食べ終えて串をゴミ箱代わりに少しの間、鞄に仕舞ってギルドへ入る。疲れた顔の探宮者達が談笑しているのを横目に通り抜け、まっすぐヴィオラさんの元へと並んだ。


「バラガさんは帰っちゃったのかな?」

「早上がりだったのかも」


 見たところバラガさんは不在だった。まぁ遅い時間に帰ってきてしまったからしょうがない。居るのはヴィオラさんと数人のギルド員さんだけだ。遅番なのかな。


 少ない人数で形成された列はすぐに捌かれ、最後尾の僕の番となった。


「おぅ、おかえり」

「ただいま戻りました」


 僕の顔を見て書類にペンを走らせるヴィオラさん。うん、これで帰還処理は問題ないだろう。


「では」

「おいおいおいおいちょっと待てって。そりゃないだろう!」

「冗談ですよ」

「お前……最近ちょっとふてぶてしいな」


 そんなことは……ないと思う。


「リューシって結構冗談とか言うよ?」

「ふーん……ま、気安い間になれたと喜んでおくよ。それよりよぉ、探宮者達が言ってたぜ。例の白い小僧が珍しいもん見つけたってな」

「白い小僧……」


 間違ってはいないが、それが代名詞として定着してるかと思うとげんなりする。


「見せてみろよ」

「あんまり人前で出したくはないんですけど、まぁ……これくらいなら」


 周囲を見るがいつの間にか帰ったのか、無人だった。ギルド員さん達も帰り支度を始めている。これなら大丈夫かな。


 そう判断した僕は鞄を下ろし、中から例の白い盾、『幽冥の盾』を取り出す。


「おぉー……こりゃすげぇな……」


 盾を手に取ったヴィオラさんは顔を近付けたり、裏返したりと隅々まで確認する。


 そうしてクルクルと回して見ていると、鞄を手に通りすがったミシカさんと目が合った。


「あ、どうも」

「こんばんはー、リューシ君。あれ、それ何?」

「ベイトリールで見つけたウェポンです」

「へぇ……」


 そう答えるとミシカさんの目がスッと細くなった。仕事モードの目だった。きっと何処かに身に着けているであろう鑑定のウェポンの効果で、盾を見定めている。


「『幽冥の盾』……ね。それ、多分高位ウェポンだよ」

「そうなんですか?」

「うん。ウェポンにはレア度ってのがあってね、高位の鑑定具だとそれが表示されるの」


 ふむふむ……多分高位だとか、これは低位だろうなんて会話は今まであったが、実際に見たことがないから雰囲気で言っているのかと思っていたのだが、そんな分かりやすい基準があったとは。


「同じ高位でも色々あってね。詳しく分けると低位から高位まで9つの基準があるの。私がギルドから支給されてる鑑定効果のある高位ウェポンはB級ウェポンなんだけど、その盾はレア度が表示されないの」

「ミシカさんが持つ高位ウェポンよりも上ってことですか?」

「そういうこと」


 その言葉に息を呑んだ。ただの盾ではないとは思っていたが、そんなにも高級品だったとは。


「もしかしたら最高位のSS級ウェポンかもしれないけれど、そんなの文献の中の伝説にしか存在しないだろうし、S級ってのももっともっと深度が深い場所で、しかも稀にしか出てこないから、多分A級くらいだと思う」

「それでもすげーじゃねーか! 売れば5年は遊んで暮らせるぜ?」


 あの湖にずっと眠っていたウェポンはA級ウェポン……なら、『大霊宮の柱』はランクとしてはどれくらいなのだろう?


「いや、まぁ、売らないですけどね」


 そんな事を考えながら上の空で答えると何故かヴィオラさんが残念がっていたが、僕はニルンパレスの事が気になってしょうがなかった。

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