不登校の出来事

長男と自動車学校

「車校でも行くかぁ」

3年前の11月、長男が呟いた。


 長男は高校を2年生の終わりで退学した。春と秋に高校卒業程度学力認定試験を受けた後は特にやる事がなかったのだ。


「おお!いいじゃないか!」

真っ先に賛成したのは夫だ。

しかし、ここで長男が気付いた。

「あ、でも俺、まだ18歳になってない。誕生日過ぎないと入校できないかな…?」

「あ…いや、でも…駄目かぁ?来月の誕生日で18になるし…調べてみたら?」

という事でホームページなどで調べた結果

「仮免は18歳にならないと取れないけど、その前に入校はできる!」

と長男が言い出した。そして免許取得までの各コースと、その値段を父親に提示…ちなみにAT限定ではなくマニュアル車も運転できる普通免許を取りたいと言う。


 長男が調べた車校の話しを聞いて夫は

「もちろん、普通免許でいいぞ。よし!いつでも優先で受講できて、一番早く免許が取れる、このコースで入学だ!多少金額が高くてもいい!早く取ってしまおう!12月の誕生日が過ぎたら即、仮免取得。そして年明けには本免許取得だ!」

と言った。本人よりも父親の方が張り切っている。その理由は明確だが、あえてここでは述べないでおく。


 我が家の場合、こういう時に心配するのは母親の役目だ。だいたい私は自動車学校に良い思い出はない。不器用で緊張しやすい人間だったので、教習ではいつも思うようにハンドルやアクセル、クラッチが動かせず (AT限定免許などない時代だ) 叱られてばかりで、各段階全て、友達より数時間を余分に受けていた。今でも運転は好きではない。


 長男の教習初日、車校の先生はどんな人なのか、厳しくされないか、イジメられないか…口にはしなかったが、心配しながら帰りを待った。


 私の心配をよそに長男はご機嫌で車校に通い続けた。

 どうも我が家の長男は年配の人たちとコミュニケーションをとるのが得意なようだ。

 高校中退の話しをすると「じゃあ、将来はここで働け」と言われたりもしたらしい。

 そしてこれは長男から聞いた、初めての路上教習の話し。


「T字路を曲がろうとしたらエンストしてさぁ…あ、やっちまったと思ったけど、すぐ普通にエンジンかけ直してスタートできたよ。隣で先生が驚いてた。『今、エンジンかけなおしてって言おうと思ったのに…言う間もなく発進したね…家で運転してた?無免許で…』て言うから『してません!』て否定しといたけど。ホントに初めてなんだけどなぁ。」


 そんな感じで全く緊張もせずに教習を受け続けた長男は、計画通り18歳の誕生日と同時に仮免を取得した。

 そして、それ以後は年明けに本免許を取得するという計画通りではなく…計画よりも早く、年末のうちに普通運転免許を取得したのである。


「よし、今日はどこへ行く〜?」

と週末になると夫は長男を誘う。大好きなラーメンを食べに、長男の運転で東西南北に車を走らせる。そして、ビールや日本酒を呑んで帰ってくるのだ。


「まあ、20歳になるまでは付き合うよ。その後は次男に任せる」

 長男は苦笑ぎみに言い、しばらくは親子仲良く出かけていた。

 しかし大学に入学してからは友人や先輩と忙しく走り回っている。青春を充実させている21歳になったウェイウェイ大学生には父親に付き合っている時間はあまりないのである。



 


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