三男の居場所 5 スポーツ少年団 野球部
4年生でインリーダークラブに入った三男だが5年生になり、今度はスポーツ少年団の野球部に入部することとなった
5年生の夏の始めだったか、三男が言った
「今度の土曜日に野球の練習しに行くことになった」
"…へ?"
である。いったいどういう事かと聞くとクラスのスポーツ少年団に入っている男の子と話していて、一度体験に来たら?と言われ、じゃあいく…と。
我が家はプロ野球の試合は家族で何度か見に行ったことがあり、家ではたまに兄弟でキャッチボールをすることはあった。
しかし、スポーツ少年野球である。キャッチボール程度では済まない、打球練習やノックの練習があって、監督やコーチから大声で時には厳しく指導をうける場所だ。しかも三男を誘った同学年の友達は皆、3年からやっている。それがわかっているのか、いないのか…"じゃあ行く"って…。あらためて三男のよく
当日になって"やっぱり行けない"とか言い出すのでは?と一瞬、心配も顔を出すのだが、その心配な気持ちは抑えて
「わかった。行ってきな。お母さんは少し後で行って、挨拶するわ。」
とだけ答えた。
さて土曜日当日の午後、三男は体操服姿で自転車にのり学校に向かった。
「行ってきまーす」
と普通に出かけるのだった。
普段は大人しい性格なのだが、身体を動かす事は大好きなのだ。「行ってきまーす」の声も心なしかはずんでいた。
「行ってらっしゃい。気をつけてね。後からお母さん、見に行くから」
1時間半ほど後、私は学校のグランドでキャッチボールをしている三男を見た。普通に他の部員にまざっている。たまにキャッチし損ねて後方へ転がっていくボールを取りに走るが、それは他の子ども達にも時々みられるので、さほど技術の低さが目立つものではなかった。
私が見はじめて少しするとコーチらしき男性が休憩の声を子ども達にかけた。三男は私の姿を見かけると、いったんグランドの端まで行き、なにやら大きな荷物を持ってこちらに走ってきた。
「これ、ユニフォームだって」
三男からさしだされた大きな袋には白色にブルーの文字やラインのはいったユニフォームらしきものが入っていた。一番上には真っ青な野球帽…
もう既に入部が決まっているのだった。
実は三男は5年生の4人目のメンバーだった。もともと部員の少ない野球部なのだが、三男の学年はさらに極端に少なく、そのうえこの年に1人辞めてしまったばかりだったという。
そんな状況の野球部に誘われた三男は見学に行き、団長と呼ばれる老齢の男性にいきなりユニフォームを渡されたらしい。
いきなり渡されたユニフォームを断れなかったのか、断らなかったのか未だに謎だが、こうして三男はスポーツ少年団の野球部員となったのだ。
野球部の練習は土曜日の午後と日曜日の午前中だった。月1回のインリーダーの遊びの会は土曜日の午前中だったので、試合日は別として、基本的にインリーダーの活動と野球の練習が時間的に重なることはなかった。
午前中に遊びの会に参加して、その日の午後に野球の練習に参加する。そんな日が月
に1回ある程度だった。
入部の手続きについてコーチという若い男性と話しをした時に三男の学校の状況を説明した。その日に三男の様子を見ていたコーチは、
「え? いや…普通に皆と一緒にやってましたよ?」
と、やはり半信半疑な反応をするのだった。
三男は5年生から卒業までインリーダーと野球部のかけもちという状態を続けた。
野球部では、同学年の部員とケンカになり「行かない」と言い出した時もあったが、やはり身体を動かすことが好きだったためか、辞めることはなく、ケンカもウヤムヤのうちに終わり卒業時には4人で仲良く写真を撮ったのだった。
野球部の同級生とケンカをしたことを私はコーチから聞いた。
「
とコーチは困った顔で私に言うのだった。
なんだかんだとあったが、同級生が4人という少なさが、やはり三男には良かったのだと思う。
野球は少なくとも9人いないとチームが作れない。三男たちの学年が試合の時には一つ下の学年からメンバーを補っていた。つまり三男の学年の試合の時には半数以上が一つ歳下のメンバーで構成されていたという事だ。
三男は初心者なので一つ下のメンバーよりも上手いわけではなかったが、それでもやはり器用さからか初心者のわりに上達は早かったと思う。
6年生になったばかりの練習試合、三男は打席に立ってはヒットを飛ばし、その試合でのヒーローとなった。彼の野球人生で一番輝いた日だったのではないかと思う。
卒業まで続けたスポーツ少年団の野球だったが、三男は中学に進学してからも野球を続けた。経験者の少なかった野球部でピッチャーを任され、彼が自己を肯定できる一つのこととなったと思う。
余談だが、私はスポーツ少年団の保護者として校区の青少年育成市民会議に顔を出す役となった。4人の保護者で保護者会会長、副会長、会計、育成会担当の4役を分担したのだ。
何故か卒業して4年経つ今も役員として各種行事の手伝いをしている。
これもご縁なのだろうか…?
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