第13話 ◆ 食甚(しょくじん)

◆ 食甚


「なんだあれ?」

「え? あれ、あそこ吊り下がってんの? あれ、舜じゃねえか?!」


 青いテントの幕間から入った4人は、プラネタリウムのような幕内に一瞬見惚れた。しかしすぐ、ブランコに気を失ったようにうなだれている少年の姿に気づき、その下に駆け寄った。


 入って来た4人を見て、黒猫の紅炎(ホンイェン)が目を細め、それからちょっと首を傾げた。

 入り込んだ中学の玄関で目をつけたはずの3人と違う……

 昨日金色の目で催眠をかけ釣っておいたのだけれど、その3人と顔ぶれが違っていた。かけ逃げした催眠効果が、昨日発揮され終えてしまっているとは、紅炎は思ってもみなかった。


(ダンチョにはナイショにゃ)


 内心舌を出して黙っておく事にした。


「舜くん?! 気を失っているの?」

 麻衣も驚いて声を上げた。

「降ろしてやった方が良いんじゃねえか」

 京市がつぶやいた。


(シュン…)

 少年少女が呼ぶ名前を確認するようにつぶやき、闇の中でほくそ笑んだモノがいる。


「あ! あっち!」

「なに?」

「あれ、マァちゅん?」

「え? 篠月なら病院いるんじゃなかったのか?」


「ふたりとも… あんな高いところでよく寝てられるわね」

 高所恐怖症の偲は身震いした。


 真司がドームを支える蜘蛛の足みたいな支柱に登り始めている。

「落ちたらどーすんのよ!!」

 呼び戻そうと叫ぶ偲に、

「ネットが張ってあるから平気だろ」

 京市も、別の支柱から登り始めていた。

「京!」

「あたしも、高いところは平気」

「マイやんまで」 

 新体操部の麻衣も、真魚に似た少女が揺られる空中ブランコそばの支柱を登りだした。眠っている人魚姿の少女は、やっぱり真魚に似ていた。


「なによう! もぉうっ! 高所恐怖症はあたしだけなの??」


 いつも威勢の良い偲なだけに、高いところが苦手なのは歯がゆかった。


 柱を登っていくごとにニセモノの夜が迫って来る。足もとを遠退く円い広場は月面のようで、そこかしこで光る人造水晶が少年少女たちの姿を下から色とりどりに照らした。

 真司はそう言えば、偲の兄に連れられて、小学生の頃ふたり一緒に自転車の乗り方を教わったのがここだった事を思い出した。

 京市も父親とここに来ていた。京市の父は警官でもあり、剣道実技を教える教官でもあった。あの火事の日、一斉捜索に来ていた警官の一人だった。

 麻衣は母親と来て、ここで祖母とたまに会っていた。

 祖母はいっしょには住んでいなくて、待ち合わせをするのがこの公園だった。


 真司も京市も麻衣も、こんな時だけれど星空に囲まれた浮遊感は不思議で心地良く、この美しい空間に心を奪わそうになっていた。

 ショートヘアを耳にかけた麻衣の横顔が星明かりを受け、ブルーライトに浮かぶ三日月のように照らされている。真司は柱を登りながらもついその横顔に見惚れていた。


 オォオーーーォオオンン!!!


 その時、怨霊が哭きわななくような声が、ドームに反響した。

 観客姿だったモノたちが鬼火に変化し、ドームは青白く冷たい魂で海のように満たされた。青い鬼火が鳴門海峡のように渦を巻き、真司たちの登る支柱の下から、後を追うように伝い上がって来た。


「うわっ! わっ! なんだこれ?!」

 真司は足もとに伸びてきた青白い影を蹴ってみたものの、実体を感じられず足は空振りするばかりだ。広場を埋めつくした鬼火は柱へ登る少年少女を追って、上へ上へと寄り集まって来る。


「いやぁああっ!!」


 麻衣が青白い亡者の影に追いつかれ、足首、すね、ひざ、ももまで上がった鬼火にとりこまれそうになっていた。


「麻衣さん!」

 手の届かない場所から真司が叫んだ。

「マイ…」

 マグレが麻衣の乗ったブランコを見上げ、聞こえた名前をつぶやいた。


 京市は、柱の上からその人魂の海の中に、知っている者がいるん

じゃないか? という気がして思わず探した。


 フォオオオン!

 その時、エンジン音がドーム内に響いた。


(なに?)

(だれ?)


 惑星アクロバットで使われていたオフロードバイクの1台が砂煙

りを上げ、麻衣の登った柱めがけて突進して来る! 鬼火の海を割き、柱に体当たりするかのような勢いで、あわや激突?! かと思われたその瞬間、急ブレーキをかけたバイクはハンドルを軸に後輪

をコマのようにすべらせ、柱の下に集まっている鬼火たちを蹴散らした!


「おおーーーっ!」

 見事なアクセルターンをかましたバイクに、真司たちは柱の上から喝采を贈った。砂埃が晴れ、ライダーの姿が見えると、


「シーちゃん!」

 麻衣が驚いて叫んだ。

「おま! いつからバイクなんて?!」

 乗れるのかよ? と真司も柱の上から嫉妬まじりに声を投げた。


 真司も偲と同じで、中学を卒業して16才になったら、すぐにでもバイクの免許をとりたいと考えていた。子どもの頃から遊んでくれる偲の兄が白バイ隊員だった影響も大きかった。

(まだ2年も待たなきゃと思っていたのに)

 剣道着のはかま姿のまま、オフロードバイクの上でポニーテールを揺らす偲を見て、真司には助けられた頼もしさとともにうらやましさと嫉妬が混じり合った。


「あたしのはポニーテールじゃなくって、暴れ人魚魔亞冥土(マーメイド)の尾ビレだからね♪」


 フォオオオン! とエンジンの回転を上げ、偲が結んだ髪の毛を誇るように、指で下から持ち上げてさっと振った。


(またがれるじゃねえか)


 心の中でつっこんだ京市と、うらやましがる真司の柱の下へも魔亞冥土Verの偲は走り、集(たか)る青白い鬼火をアクセルターンで蹴散らした。現実のバイクじゃない幻想遊戯団の乗り物だから蹴散らせるのか? ただの風圧から一時的に吹き飛んでいくだけなのかはわからないが、ともかくその場しのぎには効果があるアタックのようだ。

「でも、どーーーすりゃいいのよ?! これ??」

 しかしそうしたものの、偲はただ走り回るだけで、この先どうすれば良いのか何もわからなかった。偲のバイクを追って、鬼火たちはより激しくとぐろを巻き、大蛇のようにねじれ追いかけて来る。


「カッハッハッハッハッハッ!」

 笑うマグレの声が響いた。

「ウケてる場合ですか」

 黒猫から変化した紅炎が、マグレへ進行を促した。

「ゲートの時間が迫っています」

 そういう紅炎の横で赤髭が額の毛を逆立て、青い稲妻を立ち昇らせている。

「行ってみろ」

 氷河の裂けめから漏れた氷擦れのようなマグレの声に促され、赤髭がバイクほどもある大きな体を弾ませ、偲を追い始めた。


「きゃあああーーー! なんかきた! なんかきた!」


 必死でハンドルにしがみつき前傾姿勢で逃げ回る偲に、突進した赤髭の俊足が追いついた。

「なんか、ヤバそうなんだけどーーー!」

 身を低くして半泣きで逃げる偲へ、赤髭が山猫姿で飛びかかり、太い爪を振り上げた。

「きゃあああああーーーーーっ!」

 紅く鋭い爪が、偲の背中を突き刺すかと見えたその刹那、


 ボボボボッ、ドドォン、ドォーン!!!


 と、和太鼓のような爆音を轟かせて、ドームの壁を突き破り、飛び込んできたものがあった。

「なに?!」

 マグレはおびき出した少年少女以外に、この結界を破って飛び込んで来た者が現れた事に驚いた。ドームの内と外を完全に仕切り、万が一招かれざるものが破ろうものなら、放(はな)っておいた白獅子と夜獣(くろひょう)が噛み殺すはずだった。


 飛び込んで来たもの、それは巨大なスカラベのように見えた。


 エジプトで崇拝される太陽を転がすとされる甲虫だ。光沢のある深いグリーンのボディに丸いフォルム。ふたり乗りにはあまりにも不経済な、ムダにでかい4000㏄のエンジンを積み、スピードメーターには270kmまでもの表示があるモンスター。士朗の愛車

MGRV8が、ドームの中に踊りこんで来たと供に、白バイも1台、いっしょに飛び込んで来た。


「なんかひいた! なんかひいた!!」

(幼児誘拐! スピード違反! 器物損壊!! 不法侵入!! 人身事故?!!!)


 半泣きになって頭を抱える沙羅の隣で士朗はサイドブレーキを引き車を停めた。士朗のMGに撥ね飛ばされ、偲から離れた赤髭が宙

返りしてドームの端へ着地した。


「どうなってる??」

 青白い人魂の海に飛び込んだ士朗も十児も、現実感のない異空間の様子に驚いた。飛ばされ着地した赤髭は、突き刺さなくて良かったというように、ほっとした表情で爪をひっこめ、全身をグルーミングして緊張をほぐしていた。

「いや、リラックス早いわ」

 寝そべった赤髭に、紅炎がヒールで踏んづける仕草をしてつっこんだ。


「士朗ちゃん♥」

 ほっ、とした偲が士朗の愛車の横へバイクをつけた。

「こら! おまえ!!」

「げっっ!! お兄ちゃんまで!」

 士朗と十児はバイクを乗り回す14才の少女を両側からはさんで叱責したが、偲は

「公道じゃないもん!」

 と兄の十児を見上げ、舌を出した。言いながら目には涙が浮かんでおり、ハンドルから浮いた手は小刻みに震えていた。

(……怖かった)

 気を張っていた偲だったが大人たちの姿を見ると安心したのか急に涙腺がゆるんだ。


「シンたちが舜くんとマァちゅんを降ろそうと柱を登ってるの!」


 エンジンをふかしながら偲が空中ブランコを指差し、口早に二人に説明した。


「やっぱりここにいたのか。何をしようとしてんだこりゃ?」


 ボボボボッォオオン!!


 停車していると、鬼火の海に沈められてしまいそうになり、3人は後輪をすべらせながら各々三方へ走り出した。

「交機ナメんなよ!!!」

 ウィリーで青白い海をかき分ける十児へ続き、偲も前輪を上げた。


「そこは狂聖12(クルセイダース)って言ってよね!」


「おまえは! 入れてねえ!!」

 勝手にメンバーを名乗りたがる妹に兄が釘を刺した。舜のそばまで登った真司がブランコに手をのばした時、「ぎっ…」と音がして空中ブランコが動きはじめた。


「あっ!」


 五芒星(ペンタグラム)が回転を始めた。そこに下がっている5台のブランコも、赤黒い太陽の周りでいっせいに回り始めた。


 つかもうとした真司の手から離れていく舜の体が、京市の登る柱へ近づいて来る。しかし京市が柱からいっぱいに手をのばしても、ブランコのロープには届かない。麻衣は、人魚の座るブランコが離れていくのへ、柱を蹴って飛びついた! 

「うをっ!」

 落ちる! 冷やっとしたふたりだったが、麻衣は遠ざかろうとするブランコのロープをうまく掴み、真魚の眠るブランコの上に座った。

「麻衣さん、すっげ!」

 いつも大人しい感じの麻衣が見せたアクロバットに、真司は鳥肌を立ててますます惚れた。


 ぎっ… ぎっ…


 5台のブランコを揺らし、五芒星はゆっくりと回転をつづけた。

 ロープにもたれ眠る人魚のブランコに飛び乗った麻衣は、人魚の肩を抱いて隣に腰かけるかっこうになった。


「マァちゅんなの?」


 麻衣は眠る人魚の髪をかき分けて、顔をよく見た。やはり真魚だ。

 真魚を支えようと肩に手を回した麻衣だったけれど、真魚の近くはなにかおかしかった。空気がぬるく濃いというか、ここだけ時間の流れが遅いというか、息はできるのだけれど、まるで真魚の周囲だけ、水の中にいるような抵抗を感じた。真魚の髪を分けた時も、まるでスローモーションのような動きで毛先が浮き上がり髪がゆらいだし、頬に手をあてようとした時も、水を押しているような感触を手のひらに感じた。

 ドームの宙空に浮かんだ太陽が、赤い炎から白く輝く光の球へと変化していた。


 ボボボボッォオオン!!

 オォオーーーォオオンン!!!

 ドルルルルッルゥウンンン!!!


 エンジン音と、亡者たちの呻き声がドーム内に木霊し合う。

 そして太陽は端からかじられていくように、暗い部分がだんだん大きくなっていった。それにしたがい回転する五芒星のスピードが少しずつ上がってゆくようだ。5台のブランコは、遠心力で少しず

つ外へひろがった。

 真魚といっしょにブランコの乗った麻衣は、振り落とされないようしがみつくので精一杯になっていた。ブランコは立ち昇る鬼火と雲を巻き取り、プラズマを発生させ、稲妻を光らせ始めた。


「橘!」

「大丈夫か! 山岸!!」

 柱にしがみついた2人の少年が、互いを呼び合うのを聞いて、ドーム中央でマグレがまたうなずいた。

「タチバナ… ヤマギシ…」

 さきほど麻衣の名前を確認した時と同じく、マグレは聞こえた名前をつぶやき片眼鏡の奥で金色の瞳を光らせた。


「そんなに乗りたければ乗せてやろう」


 マグレが白い手袋をはめた右手を上げ、回転するブランコに合わせ少年たちの方向へ、さっと手を振ると、柱にしがみついていた真司と京市が ファッ! と、通り過ぎたブランコにさらわれた。


 左手には水晶を削りだした杖が青く光っている。マントの奥から、マグレがなにかを取り出した。


 赤い果実。ザクロのようだ。


 腕を振り上げ、マグレがそれを地面に叩きつけると、ザクロはッバーーーン!! と割れ、ルビーのように透き通った果肉が散らばった。赤い宝石のようなザクロの実は、大きな果実でも、小さな果実でも、どれもみな365粒詰まっているのだという俗信が、柘榴(グラナダ)というスペインの都市にはあるそうだ。赤い宝石粒が、マグレの立てた人差し指に従い、一列の輪になって円形広場の周囲をとり囲んだ。暗く光る血のような赤いザクロ石が、秒針のように点滅した。


 マグレは杖をシルクハットよりも高く掲げた。青いプラズマが集まり白く輝き出した太陽球が、かじられてゆくようにだんだん暗い部分をひろげ、その下でマグレが何か唱えはじめた。


「…ノナノモトニメイズル。ウシナワレシタマシイヲコノサクノトキ、ヨモツヒラサカヨリココニヨビモドスベシ……

 ヤマギシ ヲニエニ、カズヤヲ、ヨミガエラセシメヨ。

 タチバナ ヲニエニ、セイジヲ…

 マイ ヲニエニ、ツクヨミヲ…

 シュン ヲニエニ、ショウゴヲ、ヨミガエラセシメヨ……」


 マグレは杖先に集めた稲妻で空に星型を描いた。1つ、2つ、3つ、4つ…… 描かれた星型は天井で回転する五芒星へ昇り重なり、青く明滅する五芒星はどんどん濃く、より暗い青へと色をますます落とした。地上では雲に隠れて見えないが、幻想遊戯団のドーム天頂に浮かべられた模擬太陽へその現象を写し、欠けてゆく姿が見えた。


 太陽に地球から見える月が重なり起こる日蝕は、月が「朔」すな

わち新月の時でなければならない。


 この時、月が地球に近ければ、月が大きく完全に太陽を隠す皆既日蝕となり、月が地球から遠ければ、月が小さいため重なった太陽を覆いきらずに周囲が輝く金環日蝕となる。月と太陽が同心円上に重なる金環の時、月の表面が凸凹しているので太陽の輪環が連なるビーズのように見える。


 描いた星を打ち上げていたマグレは、最後に水晶の杖で円環を描き、宙のダイヤモンドリングに向かってそれを打ち上げた。そして振り上げた杖のまますぐさまもう一つの輪を描き地に叩きつけるかのように杖を振り下ろした。


 ドォオオオオーーーーーーーーーーーーーンンッッッ!!!


 月と太陽が同心円上で重なる「食甚」の瞬間が訪れた。食の最大とも言われる瞬間だ。ダイヤモンドリングと呼ばれる銀環が強く輝くほど、中心の穴は一層暗く見えた。耳をつんざく地響きが轟き、天地に描いたふたつの輪をつなぐ暗く太い柱がそこに出現した。柱は真っ暗な瀧か稲妻のようにちりちりとけぶり、その柱は居合わせた面々に世界の死を突きつける十字架のようにそびえた。浮遊する惑星がグランドクロスを描いていた。

 底なしの闇をより濃く深く貫き、暗き門(ゲート)が開かれる。回転速度を落としゆっくり回る五芒星の先で、ブランコに囚われトランス状態に陥った少年少女たちは、生け贄の神籠(ひもろぎ)のように吊り下げられている。古代、鳥によって空へ魂を還すと考えられていた鳥葬、風葬などに用いられたのが神籠(ひもろぎ)だ。竹などで編んだ籠の中に、弔う遺体や、時には人身御供を入れて吊るした。


 黒い柱から、灰燼(かいじん)のような腕(かいな)が4本生え出てきた。


 ずるり

 がざり

 ぐずり

 ぞろり


 ジギタリス、鈴蘭、蛍草が、ブランコからロープへ這い上がるように遡(さかのぼ)り咲き連なった。それらはみな下を向く花ばかりで、まるで眠る少年少女たちへの供花のようだ。柱から枝のように伸びた4本の黒い腕(かいな)がそれぞれブランコを捕まえた。マグレが更にひとつ輪を描いて振り上げると、光の輪がマグレの杖先から宙のダイヤモンドリングへ向かって黒柱を登り4本の腕へぶつかって灰燼の黒い腕に血管を走らせた。血管に稲妻が流れ、全身が焼け炭のように見える影がずるりと4体、柱から体を乗り出し、掴んだ4台のブランコへ足をかけ、それぞれ乗り移った。

 ブランコに乗り移った灰燼たちはそれぞれ、眠る少年少女へ目を落とし、しばらく見つめて動かなかった。麻衣のブランコに乗り移ろうとした影に、麻衣にもたれ眠っていた人魚が「はっ!」と目覚め思わずブランコからはなれた。

 麻衣も、舜も、真司も、京市も、昏睡状態となっている。


 ブランコの雷雲となりゲートを呼び出すエネルギーとなった青い鬼火たちが消えた地上では、士朗が車から降り外に出ていた。十児と偲もバイクを止めて、空中ブランコを見上げている。

 沙羅先生は車の中でずっと頭を抱えていたのだけれど、ようやく降りて来て、周囲を見渡した。ナゾの童女(わらめ)も車を降り、「シュンちゃんが……」そう言ってブランコのひとつを見上げ目で追っていた。

 しかし、

「どしたの?」

 爪先に、傷ついた銀色の仔猫を見つけ、そこにしゃがんだ。

「……かわいそう」

 瞳を潤ませ幼い手で傷ついた銀毛をなでる童女の姿に気づいて、人魚がゆらゆら宙を泳ぎ降りて来た。


 焼け炭のような黒い灰燼たちは、胸や腕を開いて舜や麻衣たちを包み捕り込んだ。体内へ少年少女たちを捕り込みそれぞれが身を重ね1体となると、ブランコへすわりなおした。


 麻衣を包み込んだ女性型の灰燼は、ロープへ両腕を回し、真ん中で手首をつかみ、足をぶらぶらさせ太陽の銀環を見た。他の3体の灰燼たちも体の大きさを確かめたり、重さを量ったりしているかのように、ブランコの上で立ったり座ったりを繰り返していた。


「さて、真骨頂」

 マグレがぼそりと独りごちた。

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