割りのいい仕事

サトクラ

割りのいい仕事

 私の職場には、一目見てヤベー見た目の先輩がいる。サイドが刈り上げられた金髪に、耳には所狭しとピアスがおどる。はじめは一定期間で増えるソレを数えるのを密かに楽しみにしていたが、鼻や舌にもピアスが光ってるのを見つけた時に、このまま全身ピアス塗れになるのではとちょっと怖くなった。あれからピアスを数えるのはやめた。しかしこの分だとヘソや鎖骨にも穴が空いてるに違いない。そんな絶対に関わりたくない女に何故か店の裏口で絡まれている。


「アタシさぁ、たんきなんだよね。」

「よ、よく存じております。」


 脳裏によぎるのは、2日前の深夜2時。派手な金髪が視界の端に映ったので、つい視線を向けてしまった。ピアスが月明かりに照らされてキラキラ光るのをぼーっと眺めていたら、前方から歩いてきた酔っ払いがまあ結構な勢いで彼女とぶつかった。容姿は派手だが華奢な彼女は2、3歩たたらを踏むと、次の瞬間右脚を蹴り出した。アクション映画に出てくるような見事なハイキックは酔っ払いの米神にぶち当たり、酔っ払いの眼鏡と前歯?を宙に飛ばした。どう見ても過剰攻撃である。気が短いにも程がある。


「なら、アタシが言いたいこと分かるよね?」

「で、でもっ…っ」


 過去の恐怖体験を思い出していると、鼻どころか眉と顎にまでピアスが増えた彼女に凄まれた。顔が近い。睫毛と睫毛が触れ合いそうだ。せめて後30センチは離れて欲しい。あまりの距離の近さにドギマギしながら口を開きかけると、ガンッと音を立てて顔の真横を蹴り付けられ、思わず反論の言葉を呑み込んでしまった。


「でもじゃなくて。ちゃんと約束してたよね。今週中に返事くれるって。早く腹括って貰わなきゃ、こっちにも都合ってもンがあんだからさぁ?ね?」

「うぅ………。」


彼女が怒るのも分かる。こちらの都合で返事を先延ばしているのは事実だし。でも私の心の準備が中々出来なかったんだからしょうがない。なあなあで承諾して、直ぐにダメになってしまったら私もそうだが彼女にとっても傷が付く。そんな不幸な事態に陥らないためにもこれだけは確認しておかなければと、彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながら言葉を紡いだ。


「和泉さん、絶対に手は出さないって誓える?それを約束してくれるんだったら、この間のお話うけても良いよ」

「マジ!?いーよ!約束する!神に誓っても手は出さねぇ!」








「…じゃあ、明日から週休2日のパートタイムとして改めて宜しくお願いします。」

「さっすが店長!いやー、どこも短期バイトしか受け入れてくんなくて困ってたんだよね!電話ではパート昇格可って言ってたのにさぁ。意味わかんなくね?」


−−−そりゃ履歴書と今の容姿が違いすぎるからね。もはや別人だよ。


とは流石に言えなかった。以前メールで送られてきた履歴書には、やや目力が強いが真面目そうな黒髪美人が映っていたが、この短期間でいったい彼女に何があったのだろう。まあ、見た目の派手さに反して勤務態度は真面目だったし、変な客が来なければ大丈夫だと思う。唯一の難点は他のバイトちゃんたちが怖がって、彼女のシフトの時は私が必ず出勤しなければいけないことだろうか。



 2週間後、厄介なクレーマーに難癖をつけられた彼女がブチ切れて警察のお世話になることはまた別のお話。

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