対談風『今はまだ「人の心がある」と主張してますけど。』

涼暮皐

担当編集×作者対談(ネタバレなし前編)

【担当(以下、担)】

なんか涼暮すずくれさんのTwitterで僕のこと「人の心がない」って言われるの心外なんですけど。

ここらでしっかり腹を割って話して、涼暮すずくれさんの僕に対する誤解を解いておきたいんですが


【涼暮(以下、涼)】

はあ……。


【担】

あわよくば「本当に人の心がないのは涼暮すずくれさんの方だった」と気づいてもらって、それを発信してくれれば、僕も「人の心がない担当さん」って言われずに済みますし。


【涼】

はい?


【担】

なので、ちょうど良いタイミングですし、今後に向けて、「おさいも」のキャラクターの話とか、魅力の話とかできればと思います。僕の人の心を証明するために。


【涼】

なるほど、わかりました。意味がわかりません。


【担】

わかってもらえないところからスタートしてる時点でちょっと自分の「人の心」に自信なくなってきた……


【涼】

その自信、どうかそのまま永久に失っていてくださいね。


【担】

まぁいいや、まずは灯火とうかちゃんの話をしましょうよ。


【涼】

よくないけど……まあ、はい。メインヒロインですからね。筆頭人の心です。


【担】

筆頭人の心っていう割には、主人公からの扱いが最初完全に「犬」ですよね……


【涼】

でも、かわいくないですか、犬。

尻尾振りながらずっと後ろをついて来るんですよ、犬。

愛らしいじゃないですか、犬。


【担】

その可愛い犬なはずの灯火とうかちゃんに対する飼い主伊織いおりくんの行動、寝てるときにはリード引っ張って起こしてるし、走り出したら引っ張って止めてません?


【涼】

いや、犬のほうから来てますからね。責任は犬側にありますよ。むしろ毎回、律儀に構ってあげてる伊織いおりは優しいまでありますね。あ、犬じゃなかった、灯火とうか


【担】

灯火とうかちゃんの扱いひどくない!?


【涼】

いや、犬で話を進めてきたの担当氏なんですけど。酷くない、じゃない。


【担】

でも灯火とうかちゃんにも責任がある、と言われると反論できないですね。普通あんなにぐいぐい来られたら対処に困りますもん。多分誰でも、伊織いおりとおなじツン反応返しますよ。


【涼】

ぐいぐい来る後輩はホラーですからね。いきなり家の場所を突き止めて現れたら、それはもう現実的に考えて恐怖ですよ。


【担】

「恐怖! 自宅を特定して毎朝迎えに来る小悪魔は実在した!」が本作のスタートですからね。


【涼】

まあ最初から知ってたので一応セーフ判定ですが。それを思えば、伊織いおりはむしろ誠意ある対応をしていますからね。


【担】

朝6時半に押しかけられてもきちんと家に入れてあげる伊織いおりくん、聖人だなと思いました。


【涼】

やってることホラーでも、まあかわいい後輩に懐かれてる分にはいいか、みたいな……そういう譲歩があるわけですよ。


【担】

ただ、涼暮すずくれさんの作品だと聖人は痛い目見るはずなのに「あれ、こいつ後輩に好かれてるだけだぞ?」って。最初30ページくらい疑心暗鬼になりながら読みましたよ。灯火とうかちゃん可愛かったのですぐ忘れましたけど。


【涼】

聖人は痛い目見るはずなのにって何。ぼくがいつそんなことをしましたか。


【担】

えぇ……(困惑)

まぁでも間違いなく灯火とうかちゃんは可愛いので、正直もう何やられても許されるな、って思いました。僕の心の支えでしたよ灯火とうかちゃん。伊織いおりと立場変わりたいんですけど。幸せにしたい。


【涼】

無限に幸せじゃないですか。割と。


【担】

涼暮すずくれさんの口から「無限に幸せ」って出てくると不穏さしかないな。


【涼】

別に伊織いおりも、相手が灯火とうかだから塩対応なわけじゃないですからね。奴は基本、誰に対しても同じですよ。

むしろ灯火とうかは、冷たくされてなんならちょっと喜んでますからね。快感入ってますからね。そういう意味では需要と供給のバランスは保たれていると言っていいです。


【担】

いいカップリングだ……


【涼】

あとはふたりの間のことなので、ぼくが口を挟むことではありません……。


【担】

涼暮すずくれさんが口を挟まないなら僕が挟むことで2人を幸せにしてみせます。読者の皆さんのために。


【涼】

担当氏が口を挟んだら不幸が増すだけでは……?


【担】

いえいえ、ちゃんと幸福度も120%増しにしますよ! 


【涼】

「も」じゃん。


【担】

まぁ幸福度を演出するためには、時に不幸も必要ですが。


【涼】

ほら。


【担】

灯火とうかちゃんは「かわいい」で結論が出てしまっているので、伊織いおりの話をしましょう。


【涼】

露骨に話を反らしましたね。


【担】

そろそろけのかわがされそうなので……


【涼】

けのかわで防げるのは一発だけってのがセオリーだと思いますが、まあはい。


【担】

伊織いおり、本当にぶれない芯のある主人公ですね。涼暮すずくれさんから最初にもらった原稿を読んで「あ、こいつは本当にしっかり芯がある。基本の考え方がぶれないな」と、正直最初から好感度高かったんですよね。


【涼】

めっちゃ嫌われそうな気がして怖かったですけどね。伊織いおりは性格がアレなので。いや、性格というよりは考え方と態度が。


【担】

原稿読んだ直後の打ち合わせでも言ってましたね。確かに、万人ばんにん受けは多分しないだろうな、という点で言えば確信がありました。

でも、彼が持っている芯、絶対にぶれない考え方の部分は、本編を読み進めるにつれてどんどん説得力が上がっていって、読み終えたときには「伊織いおりかっけぇな」ってなったんですよ。


【涼】

芯がないと灯火とうかも懐きませんからね。


【担】

伊織いおりのキャラがはじめから定まっていたことと、伊織いおりに対する灯火とうかちゃんの可愛さがあふれていたので、「これはラブコメで走りましょう」と決断できた、ってのは正直あります。


【涼】

押してダメならもっと押しますが、押してイケたら飽きますよ、あの女。


【担】

めっちゃ説得力ありますけど、メインヒロインを「あの女」よばわりする著者初めて見ましたよ……


【涼】

ちょっと伊織いおりの気持ちが入っただけです。言葉の綾です。

積極的にがんばる女の子には、ただ流されたり逆に拒否ったりするだけじゃなく、壁は作った上でそれなりに構ってあげる主人公が合うんですよ。ぼくの中で。


【担】

二人の会話劇、もともと「盛ってください」とオーダーしたとはいえ、リズムもよく走るような感じだったので、涼暮すずくれさん的には合ってたんですかね

それにしても、「それなりに構ってあげる」ってまさに犬と飼い主の関係ですね


【涼】

伊織いおりだって、なんだかんだ灯火とうかがかわいいから、ああなんです。この男は基本的に押しに弱いんですよ。本当はめちゃくちゃ構いたいところを、必死に我慢した結果がアレなんです。むしろ伊織いおりがかわいいまでありますからね。


【担】

そう聞くと、伊織いおりもちゃんと男子高校生ですね


【涼】

飼い主だって、ペットがかわいいから飼ってるわけじゃないですか。


【担】

伊織いおり灯火とうかを飼ってる……


【涼】

いや飼ってませんけど。


【担】

将来的には飼うのでは……?


【涼】

あんまり女の子に失礼なこと言わないでくださいよ。畏れ多くもメインヒロインですよ。そういうこと言ってるから人の心がないってバレるんですよ。せめて社会性の皮を被ってくださいよ。


【担】

社会性の皮を集めた人間ですよ僕は。いてもいても次々に社会性の皮が出てきます。タマネギのような存在。


【涼】

ちょっと何言ってるかわかんないですけど……どっちにしろ涙の生みの親なのでは?

まあ、飼う飼わないの話で言うと、伊織いおりはどちらかといえば飼われる側じゃないですかね。


【担】

やっぱり! 伊織いおり灯火とうかのパワーバランス、今は伊織いおり灯火とうかですけど、これ絶対いずれは灯火とうか伊織いおりになりますよね!?


【涼】

灯火とうか伊織いおりの弱点をおおむね学習しましたからね。

あの男は理屈に弱いので、これこれこういう理由でいっしょに来てほしいとか頼まれれば断れないんですよ。


【担】

伊織いおりによって灯火とうかの小悪魔力が磨かれ、気づけば立場は逆転し……


【涼】

しかも一見理屈っぽかったら無茶苦茶言ってても納得しますからね。


【担】

確かに、一見無理筋むりすじでも筋が通っていれば伊織いおりは首を縦に振るタイプですよね。そこも含めて、彼の持つ「芯」のらしさだなぁ。


【涼】

「いっしょにお弁当食べましょう」は断りますが、「わたしは伊織いおりくんせんぱいのためにがんばってお弁当を作って来たんだから食べてほしいなー、食べてるとこ見たいなー」だったら納得しますからね、伊織いおりは。


【担】

ちょろ男だ。


【涼】

一巻だと最初まだ、塩梅あんばいがわかってないので、灯火とうかはストレートしか投げない。だから灯火とうか伊織いおり籠絡ろうらくするのは無理でしたが、変化球覚えた瞬間に割と簡単に打ち取れますよ、伊織いおり

あいつ、基本的に罪悪感塗れで生きてますからね。その分、できる限り、他人に譲歩しようとする性質があるので……。


【担】

つまり2巻からは灯火とうか小悪魔伝説が始まると?

タイトルも「今はまだ「幼馴染の妹」ですけど。」から「今はまだ「姉の幼馴染」だけど。」に変えます?


【涼】

いや絶対変えませんけど。でも、伊織いおりは自分からは相手に行かないですからね。相手側から来なかったら、それはそれで、本当に離れるのが伊織いおりって男ですよ。


【担】

絶対に他人に越えさせないラインをきちんと持っていて、そこを基準に他人との距離感を調整してますよね。基本的には全員遠ざけてますが。


【涼】

伊織いおり、価値観は普通ですからね。感情なんて自分では制御できないと知ってますから。その上で「すごく申し訳ないけれど自分は人を遠ざけると決めているから……」みたいな態度でいるんで、だいたい常に周りに申し訳ないなと思って生きてます。本当は。


【担】

常に周りに申し訳ないと思ってるところ、ちょっとシンパシー感じますね。


【涼】

「近づかれたら冷たい態度を取るしかないので、できれば近づかないでほしいな」と思っているし、それでも近づいてくる人には実際めちゃんこ甘い。


【担】

そこが伊織いおりの魅力でもあり、長所でも短所でもある。


【涼】

何言われようと絶対譲らないところは本当に譲らない男でもありますからね。


【担】

伊織いおりくん、辛すぎるわ……。でもそういう主人公のむくわれなさ、好きです。


【涼】

むくわれない主人公が好きって言った、この人……。


【担】

むくわれない主人公、いいじゃないですか。我々読者にはその姿を見て愉悦ゆえつを覚える権利だってあるはずですよ


【涼】

愉悦ゆえつを覚える権利を主張する人は、人の心がないと痛罵つうばされる義務も背負うべきでは……?


【担】

あとは「ほっとくし、ほっとかれたい」みたいな感覚が根っこにあるあたりにも、ちょっとシンパシー感じます。


【涼】

人類は担当氏にシンパシー感じないと思いますけど。


【担】

ちょっとまって、人類まで広げました今? ひどくない?


【涼】

人の心があるかどうかの話なので、枠が人類でもおかしくないでしょう。


【担】

涼暮すずくれさんの中で僕はアンドロイドなんですか……? 僕は人類、夢を作る側。


【涼】

某.net程度、担当氏と比べたらかわいいもんですよ。社会において本当に怖いのは単純暴力じゃない。


【担】

涙腺崩壊太郎るいせんほうかいたろうに改名して人心アピールしていこうかな……


【涼】

他人の涙腺崩壊るいせんほうかいを見て腹筋崩壊ふっきんほうかいしてる側のくせに……。


【担】

あ、でもラスト周辺で、伊織いおり灯火とうかがあるやりとりをするシーンとかはうるっときましたよ。


【涼】

いいんですよ、そんな無理しなくて。


【担】

無理してないですし! あのシーンこそ伊織いおりの「芯」と、灯火とうかの「小悪魔を演じる」部分の集大成じゃないですか!


【涼】

いいんですよ、そんな無理(して人間のフリ)しなくて。


【担】

できますし。無理してないですし。私の仕事は人を楽しませることなんですが……?


【涼】

プログラムに支配されるロボットみたいなこと言い出した……。じゃあもう、無理せずとも人間のフリはできるってことでいいです。


【担】

いろんな枠組みや関係性の支配を受けながらも、精一杯等身大で頑張る伊織いおり灯火とうかが、あのラストシーンには凝縮されていると思いました。というか、あそこの伊織いおりは本当にかっこよかった。


【涼】

まあ言ってみれば一巻の間、伊織いおり灯火とうかも常に無理してたところありますからね。ラストで弾けた、みたいな……。


【担】

ですよね、それが全部剥がれてはじけて、そしてエピローグでもう一度灯火とうかが笑顔になる。いい話だった……と素直に思いましたもん。読み終えた後。


【涼】

そうですね。笑顔ですね。……エピローグまでは。




――後編に続く。

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対談風『今はまだ「人の心がある」と主張してますけど。』 涼暮皐 @kuroshira

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