第27話 春休み

 カメラが止まり、明らかに崇範がホッとした顔をする。

「じゃあ、ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 言いながら報道陣が撤収し始めるのを見て、美雪は車を降りると、崇範のところに小走りで近寄った。

「深海君!」

「え、東風さん!?」

「どうしても直におめでとうが言いたくて。えへへ。

 ケーキ買って来たの」

「ありがとう。

 あ。も、もしかして、今の」

 ハッとしたように崇範が狼狽える。

 美雪は赤くなって俯き、崇範も赤くなって俯く。

「あ、あの、本当はこの前からずっと言おうとしてたんだけど、なぜかいつも邪魔が入って」

「う、うん。そうね。そうだったわよね」

「それで、その、春休みに、どこかに行かない?」

「い、行きたい、です!」

「それから、あの、好きです!」

「わた、わた、わたしも、好きです!」

 それでお互いにお互いの返事にほっとし、視線を合わせて微笑むと、急に恥ずかしくなってまたも俯く。

 新見と明彦が、溜め息をついた。

「節度ある付き合いにも程があるだろう」

「まあ、何か問題が起こるよりはいいですけどね」

 いつの間にか美雪に気付いたカメラが録画を始めており、全てを撮られていたと知った2人は、言葉もなく蹲った……。


 学年末テストが終わり、試験休みになる。撮影も始まるが、数日はまだ暇がある。

 その間にと、崇範と美雪は加藤、田中、美雪の友人達と6人で遊園地に行く事になった。

 崇範のコメントも崇範と美雪の付き合いも好意的に報じられ、ファンサイトもいつしか鎮静化していった。

「進路、どうするの」

「奨学金制度のある大学を受験しようかと思ってる所なんだ」

「へえ。学部は?」

「手に職をつけたいのと、法律に興味があるから、法学部かな。それで弁護士の資格を取りたいな。

 東風さんは?」

「私は、獣医さんかなあ」

 特設ステージ前で6人でヒーローショーの始まりを待ちながら、そんな話をしていた。

「深海は、ビッグな俳優を目指すんじゃないの?」

「そんなに僕が凄い訳ないよ」

「え、何なの、その変な自信は」

「そうだよな。特撮ヒーローの時は物凄く自信満々なのにな」

「あれは別人だから。

 でも、特撮ヒーローの仕事は楽しかったな」

「うん!かっこいいしね!」

 他の4人は、もういい加減慣れた。

 と、ステージにお姉さんが出て来て、客席に向かって声を張り上げる。

『こんにちはーっ』

「こんにちはーっ」

 子供達が笑顔で応える。目がキラキラと輝き、ワクワクが止まらないという顔でステージを見つめている。

「ああ。こういうのがいいんだよ。怪獣をやっつけて皆が笑顔になった時とかね」

 崇範は、会場を見て小声で言った。

「うん。深海君は、最高のヒーローだよ!」

 美雪が言い、視線が合い、笑顔がこぼれる。

『大変、怪獣が現れたぁ!助けを呼ばなくちゃ!皆は誰に助けを呼ぶ?

 さあ、大きい声でヒーローを呼んでね!せえの』

「アスクルー!」

「深海くーん!!」

「東風さーん!!」

 大声が青空に舞い上がった。



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