第4話 第1次試験 試験内容


魔導師試験会場受付


魔導師達は我先に我先にとごった返している。


「みんな急いで~、期限の時刻まであと少しで~す」


ピンクの髪で全身紫の服をした女を含むを何人かの人が受付に立ち、魔導師達に手を振る。


「個性的な人がいるな」

「うむ......」

「早く行きましょ!」


ラナは俺とガルフの腕を引っ張りエントリー受付に向かう。だいぶ懐かれてしまったらしい。


「魔導師試験に臨まれるかたですね?」


ピンク髪の目立つ女が受付に当たった。


「頼む5人だ」

「は~い、ではお名前とお写真撮らせていただきすねぇ」


アル、ヘイブ、ラナ、ガルフと名前と写真を撮っていくと最後は俺の番。


カメラの前に立つ。

「顔リラックスしてねぇ」

「はい」


シャッ!


「はーい終わり、次は名前」

「クラトス=ドラレウス」

「あれ?」

「え、どうかしたか」

「あーなんでもない、付いてきてもうすぐ試験が開始されるわよ」


俺たちは女について行き、建物の中から外へつながる道を歩いて行く。そして出口らしき場所から外にでると。


目の前には深い森が辺りを柵で囲まれていた。


「前と......同じか?」


前の1次試験は森の中でできるだけ早く指定の位置までたどり着くというものだった。俺とナシアはどうにか協力しあって突破したのを覚えている。


森の前にはマイクの前で一人堂々とした男が一人いた。


「(見たことないな)」


前回来た時は威厳あるじいさんだった。


「それでは......期限だね」


男が腹から声を出してしゃべり始めた。




「僕の名はエルマ、普段は表舞台には出ないから僕の事を知ってる人は少ないだろうけど、まぁそんなことはどうでもいい」

「......」

「魔導師試験では毎年人が死ぬ、今年は何人死んで何人生き残るだろうね」


エルマの発声するなんの変哲もない声の一音一音はまるで暴風のように魔導師達を威圧する。この時点で心折られる者も中にはいるだろう。


「まぁ長話はこの辺にして......1次試験を始めようか。まずは『無情の森』という森について。神の奇跡は起きないとされている『無情の森』では神に祈らず己の実力で生き残ることが求められている」


『無情の森』元々の名は『暗闇の森』という魔物が生息するだけの森であったが、試験の会場に『暗闇の森』が選定されると試験内容の過酷さ、残酷さから『無情の森』とまで呼ばれるようになった。まさしく無情で子供であろうが弱ければ殺されることもある。


「そして今年行う試験内容を説明する」

「(内容は......)」

「明日の10時からは『無情の森』で72時間過ごし、そして特定の時刻までに森から試験官の待つ建物、そこまで行くことが試験内容だ」

「7......72時間」


クラトスは驚愕した、72時間のサバイバルを行えというのは前代未聞の内容であった。1次試験では長くても40時間耐久がほとんどで、大体は早く出口に着くことが求められるリレー形式な試験であった。


辺りもざわつく。


「そんなの聞いてない」

「おかしいだろ!」

「こらこら話を最後まで聞く」


エルマは子供を窘めるように注意をして話を続ける。


「72時間耐久すると、ある場所の柵が8時間のあいだ開く、まぁつまり今年の1次試験は長時間かかる試験だな」


一部を除く魔導師はみな困惑する。


「よしでは今回のルールを説明しよう」

「(正直ルールなんてもう必要ない既に......高難易度だ)」

「まぁまずは意図的な殺害行為は禁止、これは当然」

「(表向きはな......)」

「ルールというのはポイントを集めること」

「ぽっポイント?」

「僕たちの調査で住んでいる魔物の種類は大体把握している。そしてランクごとに魔物のポイントをつけるからそのポイントを溜めること。当然高ランクの魔物の方がポイントは高い」


魔物にもランク魔導師と同じようにランクがある、基本魔物と同じランクだと苦戦するため自分より低い魔物と戦うようにするのが魔導師には求められている。


「(ランクは正規になるとわかるようになるが、非正規だと相手の強さが把握されずに依頼されたり、自身の強さもランク付けされることは少ないからわからないし、結局直観で相手の強さを把握する力が非正規には求められていく)」


エルマはカバンから何やら取り出そうとしている。


「(しかし、今年の試験......)」

クラトスはいままで試験に関心を寄せていたわけではないが、どういった試験が行われたのかは一応把握していた。そしてこのような内容は今までにないものであった。



「ああ後ポイントをためるために必要な特製の腕輪をつけてもらうよ。まぁ細かい内容はこの用紙にも書いてあるから......腕輪と用紙ちゃんと貰おうね」


エルマは紙をヒラヒラと振っている。


「......ふぅ疲れた、僕は会場の建物で休むから、僕はこの辺で、また会えるのを楽しみにしてるよ」


そういうとエルマは一礼して去っていった。




「......」


エルマがいなくなった後でも茫然としている魔導師は多かった。

多分リタイアを希望するものいるだろう。


「クラトス......今年ははずれだったな」

「だな」


1次の先はまで予想できなくても今回は最高レベルの難易度だ。


「ラナ大丈夫か?」


俺はラナが心配になった、正直あの仲間では1次の通過は難しいのではないか。


「あっ大丈夫よ......」

「お嬢様......」


全然元気がないな......、こんな子供なら当然か......だが殺し合いをする必要はないだけ幸いだったか。


「まぁ俺たちで協力して魔物を倒そう」

「そうだな、我らは魔物退治に慣れている」


そういってラナを励ますと少し元気が出てきたらしい。


「ねぇ皆でお食事しない?もう夕方だし」


あぁもうそんな時間か、ただ此処に来ただけなのにすっごい疲れた気がする。


「そっそうですねお嬢様」

「私もその方はよろしいかと」


アルとヘイブも承諾したようだ。



こうして俺たちは料理店で夕餉を取ることにした。




◆◇◆◇


レストラン ラザイ 夜


「おいしかったな」

「うむ」


クラトスはラナ達と夕飯を食べ終えて、あまり人通りもない、おそらく明日に備えて皆休んでいるのだろう自分たちも予約していた宿屋に帰ろうとするが......。


「そこの子供、ポデュンノの家の奴か」


横道から突如現れたのは体から血を流している、ボロボロの男だった。


「どうだろうな」


だがその男からは助けを求める瞳でなく殺意と敵意の眼をしてラナを見る。

クラトスはこの男は敵であると判断して警戒する。


「隠しても無駄だ、そうやって庇おうとしていることが示唆している」

「っ『サンダーブレイド』!」


その男はラナに魔法を放とうと腕を構えるがクラトスは咄嗟に剣魔法で思いきり振り払い、相手からラナを見えづらくさせた。


「今だ!ラナを避難させろ」

「はい!」

「クラトス!我も戦う」

「頼んだ!」


ガルフが魔力を集中してため込んでいる間、クラトスは男がラナに向かわないように攻撃をする。


「なんでラナを?」

「ポデュンノ家の娘は絶対に殺せと言われてたからな、理由は知らん」

「んで?殺せそうか?」

「なめるな」


男は両手で魔法陣を展開して


「『大地の鉄槌』」


巨大な石の塊をクラトスの頭上に発生させる。


「『竜切断』」

赤黒い魔力が剣を纏うとそれを岩の塊真っ二つにすると、

「ガルフ!」

「任された!」

クラトスはしゃがんでその後ろにはガルフはいた。


「しまった!」

「遅いな!『オルトルバスル』」


ガルフの両手から激しい光線が放たれ、男は吹き飛ばされた。


「死んでるか?」

クラトスが近づこうとすると。

「ちょっっっとお持ち!」

「っ?」


空から水色のドレスと金色のウェーブのかかった髪をした女が降りてきた。

それと一緒に大きな白い鳥も降りてきた。


「そこの男は悪行三昧な腐れ外道ですので迂闊に近寄ってはあぶないですわよ」

「あっそうですか」


急な事でクラトスはもちろんガルフやその後ろに隠れていたラナ達も驚いていた。


「貴方たちは正規の魔導師というわけではなさそうですわね」

「まぁこれから」


女は白い鳥に着けてあったカバンから電話をすると、すぐさま新たな魔導師がやってきて男を回収していった。


「ではでは私はお仕事がありますので......試験の合格をお祈りします。さぁあああああ!白鳥ちゃん行きますわよ!!」

「くえ~」

「(白......鳥?)」


嵐のように現れた女はそのまま飛び去って行き、クラトス達は地上で空を眺めていた。



◆◇◆◇


宿屋 夜


「明日の10時から試験か......」


クラトスはガルフと一緒に部屋を借りて休むことにした。

ラナと二人の仲間も隣の部屋を借りていた。


「どれくらいのポイントが求められるのであろうか」

「そうだよなぁ」


クラトスにとってはそれが一番の気になるところであった。どれくらいのポイントを求められて、ランクごとに何ポイントを得られるのか。


「早く寝よう.....明日からサバイバルだろ?」

「......そのことなのだが、持ち込みはありなのか?エルマ殿に聞くべきだったがあの時は試験内容に驚いて聞くに聞けなかった」


確かに持ち込みの有無は重要だが何も説明を受けてはいない。


「あり......では?魔導師なんだから武器を持つこともあるだろうよ」

「我もそう考えているが武器以外、例えば食べ物、飲み物や魔道具などはどうだろう」


魔道具は魔法のような効果を持っている道具のこと、中にはマントや鎧の魔道具も存在し、その有無によって強さがガラリと変わる魔導師もいる。


「まぁ考えてもしょうがないだろ、寝ようぜ」

「う~む、そうだな」



こうして眠りにつくクラトス達、さてさてこの先彼らは試験を乗り切ることはできるのであろうか?



つづく

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