桜の下で恋をします

文屋旅人

第1話 一年目

 中学の入学式。

 駅の近くに、大きな桜の木がある。

「……ふぅ」

 とりあえず、僕は新しい学校に向かうためにこの桜の木の下で少し休憩をとった。

 桜の花吹雪に送られるというのも悪くないと思ったからだ。

 そんな時だった。

「きゃぁっ」

 素っ頓狂な声がした。

「うわっ」

 僕はそのまま前のめりにつんのめる。

 がしゃんと音がし、本が地面に叩きつけられる。

「すすす、すみません!」

 僕の方を向いていない、ショートカットの女の子。身長は、140くらいだろうか? 盛んに手が空をかき混ぜていた。

「えっと、僕はこっちだよ」

 そう声をかけると、女の子は僕の方を向いた。

 狸のような顔、といえばいいのだろうか。

 目が大きく、顔が丸い。地味な女の子だった。

「えっと、すみません……メガネが……」

 眼鏡? そう思って周囲を見ると、分厚い眼鏡がどんと置いてあった。

「はい、これ」

 と渡した瞬間、視界の端に時計が映る。

「って、あああああああああああああっ!」

 まずい、電車が出るまであと二分。

「ごめん、眼鏡そこにおいておくね!」

 僕はそういって走り去った。

 まずい、遅刻する。

「あ」

 なんか声がしたけど、走らないといけない。

 遅刻だ遅刻!

 入学式遅刻とはシャレにならない!



 結局、僕は入学式に遅刻して大目玉を食らうのであった。



          続く

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