Ⅴ-私たちらしさ

「そうだ、すーちゃん。さっき撮ったプリクラ見たいな。すーちゃん持ってるよね?」


「ああ、持ってる持ってる。今出すからちょっと待ってね」


 制服の内ポケットをまさぐる。すぐに硬い紙が指先に当たり、私はそれを引っ張り出した。


「はいよ、京子」


「ありがと、すーちゃん」


 京子はプリクラを受け取ると、まじまじとそれを眺め──そして、すぐに困惑顔をした。


「『京子と澄子 友情よ永遠なれ』……えと、すーちゃん?」


「うん? プリクラってこういうもんじゃないの?」


 彼女が読み上げた文は、プリクラで撮影を終えた後に写真に書き込みをする機能──所謂「ラクガキ」で私が書いたものだ。普通の女子高生が書きそうな内容を書いたつもりであり、怪訝な顔をされる要素も、まして半眼で睨まれる要素も、ないはずである。


 ……京子は、無言で自分がラクガキした方の写真を指差した。──「スミコ&キョーコ ズッ友」と丸文字で書かれていた。


「意味同じだよ」


「そうだけど‼」


 憤慨する京子を、私は苦笑しながら宥める。


「まあまあ、私たちらしくていいじゃん」


「むぅ、そうだけどさー……しっかりしてよぅ、今日のあたしたちは『普通の女子高生』なんだよ?」


 尚も不満げな京子。


 しかし私に言わせれば、京子の『普通の女子高生』のクオリティが高過ぎるだけなのである。普段は私と一緒に階段でお昼ご飯を食べているというのに、どうしてこうも女子高生に詳しいのか。


「……っていうか、すーちゃん。『私たちらしさ』って何?」


「え?」


 かと思えば、突然首を傾げ始める。


「『自分らしさ』は他人が決めるやつだと思ってるの、あたし。でもそしたら、『私たちらしさ』は? お互いから見た自分? それとも第三者ら見た、あたしとすーちゃんの関係のこと?」


「……京子」


「なぁに?」


「『普通の女子高生』はそんな話しない」


 ──前言撤回。彼女も私と同じ、『普通』に擬態しきれない変な女子高生である。


 京子がこういう疑問を口にし始めると、彼女なりに納得のいく答えが得られない限りずっとその話しかしない。彼女にはよくあることだ。仕方がないので、私も一緒になって彼女の疑問について考える。


「よく分かんないけどさ、京子の言う『普通』の話と一緒なんじゃない?」


「どゆこと?」


 またも小首を傾げる京子。


「さっきの、各々が思う『普通』の被る範疇が世間一般にとっての『普通』だって話。──私が思う『私と京子らしさ』があって、京子が思う『自分とすーちゃんらしさ』があって、そういうのの集合体っていうか、被ってる部分が『私たちらしさ』……っていうのはどう?」


 私は、京子ほど考えるのが得意な訳ではない。が、それでも、私なりに、京子と一緒に納得できるような『私たちらしさ』を、私たちの『普通』を、探している──。


「いいねぇそれ! この会話がまずあたしたちらしいや」


「違いないね」


 流行りのシュークリームを片手に、私たちは笑い合った。

 ──普通じゃない話題をしながら浮かべたこの時の笑顔は、たぶん、紛れもない『普通の女子高生』だったと思う。

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