エピローグ

 星花祭での結婚宣言、翌週。

 土曜日の午後、宮子は久々に、市内の大きなお屋敷……火蔵かぐらの実家へ戻った。

 静流を連れて。

 父へ、お見合いの話を断るのと、政治家としての跡継ぎ候補に、名乗りを上げる為に。


 別室で静流を待たせていた宮子が、清々しい表情で戻ってきたのを見て、静流は、胸を撫で下ろす。

 うまく、いったみたい。笑顔を零す静流へ、宮子はニマニマ。


「ふふ、お父様も認めるしかなくてよ。静流の、あんな熱い告白を聴かされてはね」


「う……。マイク切り忘れたのはわたくしですけど。恥ずかしい発言は、宮子さんの方が多かったかと」


 照れる静流へ、宮子が語る。


「お相手の人も、来ていてね。笑って、許してくれたわ」


 宮子の表情が明るいので、静流、ちょっと嫉妬ジェラシー


「お見合い相手の方が、ですか。……なんだか、満更でもないように見えますけど、今さらその人が気に入ったとか、言いませんよね?」


「ふふーん? 静流ってば、もしかして、妬いちゃってるのかしら♡」


 小悪魔モードに入る宮子。けれど、


「当たり前です。宮子さんは、わたくしの伴侶なんですから」


 静流の言葉に、照れて黒髪を弄った。


「そ、そう。……ふふっ」


 とっても嬉しそう。照れ隠しにか、宮子は破談になったお見合い相手について、話し始める。


「でも、有望な政治家の卵っていうのは、変わらないから。これからは、ライバルね、その人。わたくし、負けませんけど」


 ちなみに、と宮子。


「その人は、お父様を本当に敬愛していてね。……はっきり言って、恋愛的な意味で。いつか法改正して、お父様と再婚するのが夢みたい」


「え。……その人、殿方ですよね?」


 さらっとすごいこと話す宮子に、静流固まる。


「わたくしたちだって、女同士でしょう。そんなに、驚くこと?」


「う、それはまぁ……」


「お父様も、男子校の御神本みかもと出身ですし、在学中は今の、あそこの理事長と熱愛してたらしいし。理解は有るのよ。……一番、いい形になったのでなくて?」


「やめてください情報量が多いです!?」


 静流はパンクし掛けるけど。

 まあ、まとめれば。静流と宮子の仲は、認められて。お見合いが無くなった相手のことも、火蔵の家のことも、そんなに心配しなくていい、ということらしい。


「ふふっ……」


 和室の縁側。涼しくなってきた秋風に、黒髪を揺らして、宮子は微笑む。


「でも、今日、一番嬉しかったのは……お父様は、恥ずかしがって、話してくれなかったけど……」


 宮子が産まれた時のこと。父から聞いた話として、元お見合い相手が、教えてくれた。

 宮子と言う名前。ずっと、市の書類から適当に付けられた、愛の無い名前だと信じてきた。父は、母も自分も要らなかったんだと、心のどこかで恨んでいた。

 けれど。


「わたくしを産んで、お母様が亡くなった時、お父様は後を追いかねないくらい、落ち込んでいて……。周りが、書類の中から無理やり決めさせたのが、わたくしの名前みたい」


 わたくし、ちゃんと愛されていたのね。宮子はそう言って、にこっと笑った。


「継母や弟たちはともかく、お父様からは、溺愛されてきた自覚は有るけど。……正直、罪滅ぼしなんじゃないかって、冷めた目で見てたの。そうじゃないって、独りじゃないって分かったのが、何より嬉しい」


「……今さら、そんな話ですか」


 静流は膨れて、腰に手を当てた。


「独りじゃないなんて、何を今さら。今までも、これからも。私が、貴女をずっとずっと、愛しています。側にいます。宮子さんには、私がいるんです!」


「そうね。そうだったわね」


 微笑みを交わす2人を、秋の虫の音が祝福する。

 恥ずかしくなってきた静流が、


「さて。じゃあ、帰りますね?」


 そう言うと、宮子が……過去最大の小悪魔スマイル、めちゃくちゃ、えっちな表情かおで。


「あら。帰さなくてよ。今日は土曜日。明日はお休み」


「そ、それが何か……?」


 だいたい悟った静流が、後ずさりで逃走しようとするけど。

 宮子に回り込まれた。


「今夜は、愉しみましょうね……♡」


 実家に連れてきたのだから、もう、「まだ早い」なんて言わせない。

 宮子の鉄の意思を感じて、静流も、覚悟を決めるしかなかった。


 そして、翌朝。

 お布団の中で、真っ赤になっていたのは。

 宮子の方だった。


「……そうかもなーって、予想はしてたけど。静流ってば、激しいのね」


「だ、だって……我慢してた時間は、私の方がずっと、長いんですから!」


 そのまま昼まで……夜まで……翌朝、学校に遅刻しそうになるまで!

 しとねの上では、火と氷が逆転するのだった。


 ※ ※ ※


 第65回星花祭の、「mizericordeミゼリコルデ」×「クリスタル*リーフ」のライブ映像は、星花女子学園のホームページで、その後も閲覧可能。

 ただし、伝説の結婚宣言はカットされた、編集版だけど。

 それでも、人々の記憶には残り続ける。語られ続ける。


「あーっ!? また、例の宣言の動画が、アップされてる! ……わたし様のクイズ動画より再生多いとか、生意気だぞ!」


 黒髪にツインテールの女の子が、自室で動画を見ながら、奇声を上げる。

 中学1年の、多賀島たがしま紗幸さゆき。春から、星花女子学園に転入予定。


「まあ、わたし様がこの学校に行ったら? もっともっと、目立っちゃうだろうけどな! ふぇ、ふぇはははは!」


 ※ ※ ※


 春。新入生たちが希望に満ち溢れて、校門を通る新学期。

 でも気を付けて。星花女子学園には、とっても厳しい風紀委員長が。


 桜の舞う中、今日も晴れやかに鳴り響く、「氷の女王」の警笛ホイッスル


「そこ! 手を繋いで登校など、不埒ですよ。学園の風紀を乱すことは、この雪川静流が許しません!」


「まったく変わってないわね貴女!?」


 宮子が呆れる。

 2人が恋仲になって。時が流れ、最上級生になっても、学園での静流は、えっちなコトにとても厳しい風紀委員のまま。


「ていうか、さっき、ピンクの髪の子とかいたけれど。そっちは取り締まらないの?」


「髪は、まあ、私も銀髪ですし。私のは地毛ですけど、取り締まるのも野暮と言うか」


 えっちなコト以外には、とってもガバガバ。それが今年の風紀委員だ!

 それでも。手を繋いだり、腕を絡めたり、肩寄せ合ったりは認めない。なぜならそれは、将来を誓った者同士にだけ許される、えっちな行為だから!


「む、愛瀬まなせ先生! 何ですか中等部の子の手など握って! 犯罪ですよ!!」


 生徒の手を握って、連れて歩く、若い教師。

 明るい髪色のふわふわロングヘアに、Hカップの巨乳が目立つお姉さん……愛瀬まなせめぐみ。


「ち、違うの! 先生、ただ新入生が、道に迷ってたから……!」


 妙に慌てる、めぐみ先生へ、静流はジト目。


「その割には、ぎゅーって握ってません? 不埒の匂いがします」


「だって……私……。ちっちゃい女の子が、好きだからー!!」


「はいアウトぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 天高く、響く警笛ホイッスル、桜舞う。

 星花女子学園は、今日も賑やかだ。


 風紀委員長として活動に励む(ただし活動内容は偏っている)静流へ、宮子はニマニマ、サキュバスっとした笑顔。


「と・こ・ろ・で。昨夜ゆうべも、静流ってば、お熱かったわね♡」


 耳元に囁かれて、頬を染める静流へ、さらに誘惑。


「思い出したら、また、シたくなってきちゃった。ねえ、この後……♡」


「だ、だめですぅぅぅぅ! 学園の中は中! 外は外! 公私は分けるものですよ!?」


 赤面する静流へ、宮子は笑って、桜舞う中を、くるくる回る。

 ピンク色のシャワーに、黒髪がなびく。


「どうせ、わたくしたちの仲は、もう世界中が知ってるのだし。開き直って認めるしかないじゃない。毎日毎晩、熱く溶け合ってる仲だって」


 合唱部で鍛えた伸び伸びした声。隠す気、まるで無し!

 登校中の生徒たちがそれを聞いて、皆、顔を真っ赤にしている。

 ……もちろん、一番頬が紅潮してるのは、静流。


 ピ―――――――――!!!!

 ひときわ鋭く、警笛ホイッスルが鳴った。


「火蔵宮子! やっぱり、貴女は私の宿敵。取り締まり対象です! ……もう、一生、取り締まりますっ!!」


 それでも。手を繋ぐのは。指を絡めるのは、いいわよね?と宮子に微笑まれて。

 静流も、おずおずと、手を差し伸べた。


 最初は、人さし指の先っぽ。高鳴る鼓動が、どくん、どくんと指先から伝わって。微かに汗ばんだ、第2関節、中指、薬指。

 指が、キスする。掌が触れ合うと、まだ肌寒い春風の中で、お互いの体温が心地よかった。

 この手を、離さないように。離れないように。

 じらいながら求め合い、絡まる指と指。

 ああ、白くて、柔らかい手が、鼓動を感じさせて。まるで、手が心臓になったよう。唇に、なったよう。


 火は穏やかに。氷は、雪解け水になって。

 爛漫の、花を咲かせた。


~Fin~



 ※ ※ ※


【後書き】最終回登場ゲスト

多賀島たがしま紗幸さゆき

 星花女子学園、中等部2年に新たに転入する、黒髪ツインテールのロリ娘。

 暗記系に抜群に強い頭脳を持つ、天才少女で、「クイズ姫」としてテレビにも出演。動画の配信もしている。星花期待の「出来るチビっ子」だ!


愛瀬まなせめぐみ

 27歳、星花女子学園で歴史の授業を受け持つ、若き女教師。ゆるふわロングの童顔で巨乳。重度のゲーマーでオタク。とくにアイドル大好き、女の子大好き。

 可愛い顔して、星花きっての「ダメな大人」だ!


 それでは、この2人が主役となる、次回作。星花女子学園プロジェクト第10期作品、「先生。恋のQuizが解けません!」でお会いしましょう。

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氷の女王に、お熱いくちづけを 百合宮 伯爵 @yuri-yuri

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