第40話

 星花女子学園、高等部には「氷の女王」と恐れられる、風紀委員がいる。

 学園内でイチャついていると……。


「お姉さま♡ 私、もう我慢が……ちゅぅぅっ♡」


「もう、聞き分けの無い子ね。寮まで我慢なさいと……ちゅっ♡」


「そこまでですっっ!!」


 ピ―――!!

 愛用の警笛ホイッスルが火を噴く!いや火は噴かないけど大きな音で鳴り響く!


「学園は勉学の場! キスなど不埒ふらち! 天が許そうと、この風紀委員、雪川静流しずるが許さなくてよ!!」


 クォーターならではの銀色の髪に、蒼の瞳。

 八重歯を覗かせて怒る、見た目はロリっ娘、氷属性の自称クールビューティ。

 高等部2年、雪川静流である。


「図書室でデート。そこまでは許しましょう。けれど身体を密着なんて、えっちなことはですね……」


「エッチなコトなんてしてませんわ!?」


 注意された生徒が、頬を染め反論。


「だいたい雪川さんこそ、あの・・火蔵かぐらさんとお付き合いしてるのでしょう!? そ、それこそ、言葉に出来ないようなコトをいっぱい……!」


 それを言われて完熟トマトのように顔中真っ赤にして、もじもじ羞じらう静流。


「じ、実はその……この前、宮子さんと……」


 おお、あの清純派、ピュアピュア乙女の雪川静流!

 学園1のサキュッ娘、火蔵宮子と、どこまで進んでしまったのか!

 氷はドロッドロに溶けているのか……!?


「手を……繋いでしまいました!!」


「はい?」


「手を繋いで、デートを! ああ、お父さま、お母さま、お姉さま。そして今川義元公! オトナになってしまった静流を、お許しください……!」


 大変恥ずかしいコトをしてしまったとばかりに、しゃがみこんで頭を抱える静流へ。

 聞いた生徒は、図書委員に注意されるのも忘れて、叫ぶしかなかった。


「ピュアが過ぎる!!!!」


 雪川静流。あの夏の日々を越え、2学期になっても。

 何ら、進展無し。


※ ※ ※


「ねえ、わたくしたち、付き合ってるのよね?」


 放課後の菊花寮。宮子の部屋で、2人お勉強中。

 宮子が長い黒髪を弄りながら、尋ねる。


「ええ。ですからこうして、毎日放課後は一緒に勉強してるのでしょう?」


 とっても清い交際……。宮子が爆発した。


「何なのよこれぇぇ!? 清純にも程がある!」


「学生同士ですもの。これが、健全なお付き合いという物ですっ」


 これでも静流には相当恥ずかしいらしい。ほんのり赤くなっている。

 けれど宮子の欲求不満は限界だ。


「結局りんりん学校の時から、キスもしてないし。わたくし、溜まってるのですけど。色々と」


 すらりと長い脚を、スカートから露出させて、誘惑のポーズ。

 小悪魔スマイルで挑発してみせる。


「ホントは、興味ある癖に。いいの? 今ならわたくしのコト、好きに出来るのよ?」


「そ、そういうのは、結婚を前提としてですね……っ」


 直視するのも恥ずかしいと、視線を逸らしうつむく静流へ、宮子ぶっちゃける。


「ああ、もー!! いいから! わたくしと! エッチなコトしなさぁぁーい!!」


「夫婦喧嘩うるさーい」


 隣室の子に怒られた。

 ……そんなこんなで、あまり変わってないように見える、雪川静流と火蔵宮子の関係性。

 けれど、進歩ゼロというわけでもなくて。


「……よくてよ。他の子ともエッチしない代わりに、言うコト聞いてもらう約束ですもの」


 ぺろりと舌なめずりする宮子。瞳の中にハートが浮かんで見える……。


「ふふっ。じゃあ今日は、一緒にお風呂入りましょうか♡ あんなトコロやこんなトコロ、隅々まできれいきれいしてあげる♡」


「え、えぇぇぇぇっ!?」


 そして寮の個室のシャワールームで、密着しながら泡まみれ。


「ふにゃぁぁぁぁ……ん♡」


「ふふふ♡ また、わたくしたち、全身同じ匂いになってしまうわね♡」


 ぬるぬる……ぬるぬる……。とてもえっちな音声が発生してる気がするけど、シャワーと湯煙が掻き消してくれる。

 桃色成分を摂取して、ツヤツヤになった湯上がり宮子さん。ぐったりしてる静流を湯船に残し、鼻歌交じりで出てくる。

 気分よく、身体をバスタオルで拭いていると、机の上のスマホが光っているのに気付いた。

 メールの通知だ。


「お父様から……?」


 文面を読んで、宮子の顔色が変わる。


「お見合い、ですって……!?」

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