いかれた祭り。

 島高文化祭前日のこと、生徒会長馬締と副会長片井は各展示物の最終チェックのため、校内を見回って歩いていた。しかし、やはりこの学校の文化祭、一筋縄ではいかなかった。まずは校庭から。

 校庭の片隅にとてつもなく巨大なシーソーが設置されていた。作ったのは工作部。


「なんだこれは?」

「見ての通り、でかいシーソーでさぁ。子供の頃憧れませんでした? 今やってお見せしますんで」


 会長の問いに、自慢気にそう答える工作部長。シーソーの動作は電動ボタン式。しかし、ボタンを押したその瞬間、巨大シーソーが凄まじい勢いで傾き、端に座っていた部員が凄まじい勢いで空へと発射された。部員は星になった。


「これはシーソーじゃねえ! 遠投投石器だ!」

「いや~明日までには直しておきますんで」


 衝撃映像を目にし紛糾する会長に対し、失敗失敗てへぺろと舌を出す部長。呆れて物も言えなかった。


 その後も、科学部が作った電動シェアサイクルは漏電し爆発。水泳部が作ったウォータースライダーは崩落。流れるプールも激流のあまり人が塀に激突。

 校内に移っても、ロボット研究会が作ったロボは重すぎて立ち上がった瞬間に床が抜けて落ち爆発。大破。遊戯部は渡り廊下を占拠して巨大カーリング&ボーリング場を作っているなど、言語道断の連続だった。全てやり直しを指示。

 唯一黙殺したのは美術部。美術室に入っても何も展示されていなかったため不思議に思い問うと、部長「おお、会長が気付かないなら成功だ! この床ですよ! この床、紙に書いた絵なんです! 他の教室の床と見分けが付かなかったでしょう。これぞ芸術でしょう!?」


 返答に困ったので黙殺した。


 そして翌日、不安だらけの中始まった文化祭にて、事件は起こった。

 開催から一時間ほど経ったその時、一人の冴えない顔をした青年が息を切らし、校門を潜って駆け込んできた。手には大きなカバン。

 青年は人ごみを抜け、校舎の玄関口へと入ると、両手を膝に着き肩で息をし始める。

「どうしましたか?」

 たまたまその場に居合わせた会長と副会長が声を掛けると、青年は血相を変えて訴えた。


「助けてくれ! やくざもんたちに追われてんだ! このかばんに五百万入ってる。俺の婆さんが奴らに騙し取られた金だ。こっそり取り返そうとしたんだが見付かっちまった! 人ごみに紛れようとここに入ったんだが失敗した。もうすぐそこまで来てる!」


 それを聞くや、会長はスマホを取り出し、各所にメールで指示を出すと、青年に答えた。

「わかりました。そういうことなら、ご協力いたしましょう」


「オラ――――ッ! 金返せや――――!」


 その後、いかにもなヤクザ達が玄関口に姿を現すと、会長と副会長と青年はそれぞれ手に持つ鞄の口を開け、中に札束が入っていることを見せ付けてから、バラバラに逃げ出した。会長と副会長は、青年のかばんから自分のかばんに三分の一ずつお金を移していた。


「待てやコラ――ッ!」


 それを見たヤクザ達、三手に分かれて会長達を追い始める。

 まずは会長サイド。二階突き当たりの教室へと走り、鍵をかけて篭城を狙った会長だったが、焦りからか上手く鍵が閉まらず、ヤクザ達の侵入を許してしまった。そして、教室の隅に追い詰められてしまう。


「へへへ、金を返してもらうぜぇ~」


 会長に迫るヤクザ達。


「はっ!? ああ―――――っ! ぐふっ!」


 だったが、教室の中央に踏み込んだ瞬間、突然そこの床が抜けて落下。階下の床に激しく叩き付けられて卒倒した。


 そう、ここは前日にロボットが穴を空けた教室。そしてその穴を美術部が描いた床の絵で隠すことで落とし穴を作り出していたのだ。会長が鍵を閉めるのに失敗したのも芝居であった。


 階下の教室で、会長の指示を受けて動いた各部長達、卒倒したヤクザ達を見ながら「見たか! これが芸術だ!」「芸術は爆発だな!」とハイタッチを交わしていた。



 だが、全てのヤクザが落ちたわけではなかった。

「ヤロー! ふざかやがって!」

 いきり立ち、穴を迂回して会長に迫るヤクザ達。と、会長は教室の窓から外を確認。窓枠には巨大なシーソーの板が接続されていた。

 会長は窓から飛び出し、シーソーの坂道を駆け下りる。と、ヤクザ達も「待てコラー!」とシーソーに飛び乗ってくる。

 が、会長が下り切った瞬間に、工作部長、スイッチをオン。


「ああああああ―――――っ!」


 シーソーが360度回転し、ヤクザ達は凄まじい勢いで空へと発射された。ヤクザ達は星になった。


 一方副会長、校舎最上階隅の教室まで駆け抜けた彼女は、その窓枠に作られていたウォータースライダーの入り口へと滑り込む。

「待てやコラーッ!」

 と、追うヤクザ達も次々とその入り口に飛び込む。

 コースを軽快に滑って逃げる副会長。一方で――


「ああああああ――――っ!」


 崩落。軽い女の子ならよくても、野郎の体重を支える耐久性は、このアトラクションにはない。

 落下の衝撃に何とか耐えたタフガイも二人いたのだが、副会長を追ってドーナツ状のプールを横切ろうとした瞬間、激流に襲われて塀に叩き付けられ、意識を失った。


 最後に青年。必死に逃げる青年、カーリング遊び用のよく滑るオイルが撒かれた渡り廊下を足裏で滑り抜ける。

「待てコラ――――ッ!」

 そして追うヤクザも同様に滑っていったのだが、そこでその先に立っていた遊戯部員達が、巨大なボーリングのピンを並べて道を封鎖する。


「はっ!? うああああああ――!」


 ストライク。その衝撃で、二人を残しヤクザ脱落。

 そして、青年は校舎を出ると、そこにあったシェアサイクルにまたがり、逃走を図る。

「待てやコラーッ!」

 それを見た追っ手達もその自転車にまたがり、走り出した――


 ところで、サドルが突然ジェット噴射。


 ヤクザ達の体は勢い良く飛翔。彼らはそのまま空の彼方へと消え去って、星となった。


 その様を見て、科学部部長、ニヤリと笑い、満足気に言った。



「これぞ、長年温めていた奥義・暗器サドルロケットバスター・罠ギミック改」



 その後、警察が到着し、ヤーさん達は逮捕され、一件落着となった。

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