占いアプリ

 夏休みのある日のこと、平野と水野は、福引で当たった豪華客船旅行を楽しんでいた。しかし航海の途中で嵐に遭い、船がまさかの難破。二人は漂流の末、小さな無人島に漂着していた。


「あー、まさか無人島に流されるとは……ねえ奈美、何か助けを呼ぶ方法はないかな? ケータイも圏外だし……」

「まあまあ、落ち着いてみおとん。電話は圏外だけど、この良く当たる占いのアプリはまだ使えるみたいだ……。これで何かヒントを得られるはずだよ……」


 平野は慌てる水野をなだめるようにそう言うと、アプリを起動し、画面に表示された占いの結果を読み上げる。



「……えー、水野美音さんの今日の運勢……ラブ運絶好調。素敵な出会いが待ってるぞ! 財政運もグッド。ムダ遣いを防げちゃいそう」



「……ふざけんな――っ! 待ってねえよ! 出会えねえよ! ムダ遣いなんてしたくたってできねえよ! ここ無人島なんだよ――っ!」


 状況を考えれば、まったくのとんちんかん。水野、それに激怒し、アプリに怒号を向けるが、平野はそれにも構わずに続きを読み上げる。


「健康運の方もバッチリ。ただし、外出の予定を入れると災いが起きる兆しがあるので厳禁」


「……人をおちょくってんのかこの機械――っ! 外出の予定? 入れたくても入れられねえんだよ――っ! っていうか、そもそもなんだこの占い! 外出しちゃダメって、じゃあ最初のラブ運絶好調はどうなったんだよ! 素敵な出会いをさせろよ! 」


 それに水野はさらにボルテージを上げるが、なおも奈美は読み続ける。


「勝負運も良好。今までの自分から脱皮して、新しい人生を始めるならこの間」


「……言われなくたって始めるよ――っ! 始めたくなくても始めるよ――っ! 生きるか死ぬかの勝負だよ――っ!」


 もはや水野の怒りを煽るだけの占い。


「ラッキーアイテム、ダンボールハウス」

「そんなもんがラッキー呼ぶイメージ湧かねえし、なんならダンボールハウスにすら住みたくても住めねえ状況なんだよ今! どうしろってんだ!」

「……あれ、役に立たなかった? 占い」

「もういいよ! それより、この島、見るに渡り鳥の休憩場所になってるみたいなんだ。で、私メモとペン持ってるから、これにこの島のおおよその位置とSOSを書いて、と」

「ほうほう」

「これで、よし、と。で、もし、あの鳥を捕まえられたら、これを鳥の足に巻き付けて。もしかしたら助けが来てくれるかもしれないから」

「おお、よーし、わかった! 任せとけい!」



 威勢のよい返事をして鳥達の方へと向かった平野。と、それから小一時間後、彼女が意気揚々と水野の元に戻ってきた。


「おーいみおとん、あの鳥捕まえられたから、言われた通りにしたよー!」

「え、ホントに!? よーし、これで助けが来てくれるかもしれないぞー!」


 まさかの朗報にガッツポーズの水野。


「おまたせー。はい、例の鳥!」

「へ?」


 しかし光明が差したことを喜んでいたそんな彼女に、平野はなにやら異なことを言って、なにかを差し出した。


 その手には、ローストチキン風に調理された鳥肉が乗せられていた。その足には、水野が平野に手渡した紙が巻き付けられていた。


 水野は驚愕の表情で、その紙を指差しながら言った。


「持つとこ! 持つとこの紙! チキンの持つとこっ! いや確かに渡した紙を足に巻き付けたけれども! こんな解釈してたのかよっ!?」


 まさかの大ボケに、しばらく瞠目したまま硬直する水野なのであった。

 しかし、それを食べ体力を維持したおかげで、その後救助が来るまで生き延びることができたので、結果その方がよかったというオチがついた……。色んな意味で、瞠目に値する平野のミラクルプレイであった。

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