第2話 神は子作りが大事とか言い出した、泣きたい

「まずは子づくりだな!」

 とりあえず落ち着いて、いの一番にゼウスが言い出したのがそれでした。

「ふむ、成程。即ち手ごろな女を孕ませて我々の分霊を作るということかな?」

 おいロキ、お前ノリノリになるんじゃないですよ。

「とりあえず適当に村から略奪しよう♪」

 セトはなんか略奪しようとかいいだしてるし……碌な奴がいないのです。

 否、そもそもこの世界がどうにもこうにも秩序だっていないじょうたいです。

 私は月の神です。

 そして、この世界に月は三つあります。この三つの月のうち、一つの月を通してこの世界の大まかな形を見て見ました。

 混沌です。

 嘗て日ノ本が天沼矛によって作り上げられたときの混沌よりも、この世界は醜悪です。

 秩序を蹴り飛ばしたような暴虐が平然と通るこの世界は、何とも私の顔を曇らせるのに十分です。

 親が子を殺し、子が親を殺す。

 嘗て本朝にもあった末法の世の地獄を煮詰めたような悲嘆。

「だが、子が親を犯したりできるから繁殖はできるな」

「うるさいですね。神の心を読まないでください、天空神」

 人が少し思いにふけっていると、このデリカシーなどない神は笑いながら言い出しました。

「無茶を言うな、俺様は偉大な天空神だ。天と地を言祝ぎ結ぶ雷の化身だ。お前さんの姉ならともかく、お前さん程度の心など読めるわ」

「これだから無駄に有能な変態は……困ったものですよ」

 などといいますが、正直この異世界とやらは何とも混沌とし過ぎています。

 いや、混沌とし過ぎているからこそ我々はこの世界に送られてきたのだろう。

「だからこそ、子供を作るのだよ」

 ゼウスは嘯きだしました。

「……なるほど、貴方の逸話としては確かにありうる。ヘラクレスをこの世界に作り出す、と」

「そういうことだ。俺様の最高傑作、天空の神の種から産まれ出でた史上最高の英雄。歴史を越えても人々に羨望される英雄、それをもう一度この世界に作り出す」

「ふむ……ただスケベなハートで言っていたわけではないんですね」

「んなわけあるか。俺様はいつだって最高で最強の神だ。いつも手を考える、それは当然のことだ」

 見直しました。

 なるほど、これが英雄たちが絢爛豪華に活躍するギリシア神話の最高神。

「しかしながら、異世界の何も知らぬ者たちを孕ませるというのもひどい話ですよ?」

 とりあえずギリシア神話のゼウスに孕まされた者たちの末路を見ていると、すがすがしいほどに悲劇なのですっごく躊躇します。

「ん? まぁ、そんなもんだろう」

 そしてこの天空神は全くと言っていいほど気にしてない……。

「まぁ、仕方がないですね。もしそれを行うなら……」

 あまりこれは使いたくなかったですが……

「初めに雨にでもなって私を孕ませてみなさいな」

 姿を変える。

「ほう、お前さん……女になれるのか」

 ゼウスはにやりとする。

「私は記紀に性別の記述がない月の神です。それ故に、人々が望みうる面を持っています」

「なるほどね、まぁ生真面目だな」

 そんなことを言いながら、ゼウスは伸びをしました。

「まぁ、それは最終手段にするさ。俺様はまずは暇なときにナンパをしてみるグフフフフ」

 そういいながら、ゼウスは空を見だしました。

 恐らく、空を通してこの世界を見ているのでしょう。

 さて、如何にしてこの世界をよくするか。考えどころです。



          続く

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神ですが引きこもってたら異世界転生させられました、泣きたい 文屋旅人 @Tabito-Funnya

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