第15話 聖女召喚編 魔獣出現

マリカが遅れて門にやってきた。


「あれ?バギは?」


俺が狩にでる時はバギが護衛のため必ずついてるのが常なのだが2日目の今、門には来ていない。


「まだ会議が長引いてんだろうなー。行っちまうか?」


バルフは平然と言い退けた。何のための付き添いかわかってるはずなんだが…


「んー、今戦況が変わってるからな。待った方がいい気がするけど。俺の事で迷惑かけたくないしな。」


「でも早くしないと時間内に戻れなくなるよ。それか収穫なしになるかも!!」


マリカが追撃してくる。昔と違い、いろいろ自分でも隠せるようにはなったのは確かだ。バギはあくまでも保険だ。


「3、4時間くらい大丈夫かな。なんだかんだヒト族とも出会した事なかったし。」


半ば諦め気味で承諾した。


「そうそう!それに今日の稼ぎ少なくなると困るでしょ!!行こう!」


マリカは元気よく俺とバルフの手を取り引っ張って門を潜り抜けて狩へと向かった。

門を潜った際に何やら揉めているようだったが俺たちは気にもせずに森の奥へと獲物を探しに入って行った。


しばらく歩いて森の異変に気付いた。太陽が沈み始めた時間帯、明るい日差しが木々の間から周辺をてらしている。そんな時間帯にも関わらず動物がいない。小鳥の声すらしない。 


「バルフ、何か変じゃないか?」


「ん?ああ。ここまで気配がわからないのはおかしい。臭いすら残り香は捉えられるが動物達はいないようだ。」 


「俺の目も周辺の生き物の反応が捉えられない。」


「なんだろうね?とりあえず残り香あるなら追ってみようか!」


ユリカだけ呑気だ。


「まあ、せっかく来たんだ。それしかないな。俺が先頭、ユリカは真ん中、レイが後方だな。時間もあんまないし、なんか嫌な感じがするから急ごう。1匹狩れるか採取ポイント見つけられたら戻るぞ。」 


「了解。」


「バルフは心配性だな〜。大丈夫だって!」


呑気か!!内心ツッコミながら、戻る選択がなかったことに不安を覚えつつもバルフの言った順で縦一列になり一気に走り始める。しばらく進んだが、町と防衛のための村の中間地点の目印を確認したところで足を止めた。


「戻るか?」


「それか野菜とか実を収穫しながら戻るのが良いかもね。」


結局何も引っかからずにここまで来てしまった。


「でーもー、収穫時期を考えると安全エリアはあんま取れないよ!外のエリア行く?」


マリカが不満そうに言ってきた。マリカのいう安全エリアは町と村の間の森のことだ。このエリア内は現在地を知るための目印や防衛のための魔法陣が展開もしくは隠されているため安全なエリア。このエリアでは収穫しすぎて植物が取れなくならないように4分割をしてとる時期を変えている。しかし、それでも物によっては取れなくなる可能性があるため収穫事態を外まで行く時期がある。残念ながらそれが今の時期だった。


「マジか?今その時期だっけ?」


「うん。残念ながらね。どうする?安全エリアなら諦めて戻るしかないよ。1回目は普通にいたのにどうしたんだろう?何かから逃げてるみたいだよね?」


「確かにそうだな。ちょっと一周してみるか?どうせ外に出ないなら調べてみようか。」


「そうだな。でも既にやってんじゃないか?」


「いや、俺たちと同じタイミングで出た奴らは恐らく外に出てる可能性もあるからまだ知られてないかも。」


「なら村近くまで行って一周して異変があれば知らせればいいんじゃない?」


「ああ。何かあるなら調べたほうがいいからな。体力作りがてらいくか。同じでいくぞ。」


「ああ。」「うん!」


3人で建設中の魔法陣が組み込まれた防壁までくると防壁に反って動いた。未だに獲物どころかそれ以外の動物さえ見つからない。途中建設している作業者に声をかけられたが、どうやら彼らも森の異変には気付いていたらしく町には知らせたことを聞いた。作業者も撤退するらしい。まだ調査隊は組まれてないだろうからと様子見までは頼まれた。ただ何かあれば直ぐに逃げるように念押しされた。それと通達のための連絡係はすでに村から派遣したらしいが外に出てる奴らがいたら町に戻るよう通達が出てると言ってもらうように頼まれた。


しばらく結界内の隅にそって走る。急にバルフが足を止めた。俺も右眼は使ってるが特に何も変化がない気がするが。


「なんかこの先に嫌な感じがする。それに恐らくここが分岐点だ。」


「分岐点?」


「ああ。この先から動物達は逆にこっち向かって逃げてる。この先に原因の何かがいるって事だ。」


「そうか。なら右眼で先を見てみるよ。変わりに近くが見えなくなるから、無いと思うけどよろしく。」


「うん。」「ああ。」


マリカは俺が間になるように動いてくれた。俺は眼帯を外して右眼に魔力を流し始める。魔力を流す度に森の奥にどんどん進み情報が入ってくる。……人が見えた!!…どうやら体育座りをして俯いている。森に1人?とにかく非常事態だと認識した。


「人がいた!!1人だ。なんかあったみたいだ!!急ごう!」


3人で急いで目的地まで走る。


「!!マーヤ姉!!!」


マリカが姿を確認出来るところまで行くと1人スピードを上げて近づいた。マリカの声にマーヤさんが泣きじゃくんでる顔を上げてマリカに気づき自ら近づき抱きついた。


「マッ…マリカーーー!!!」


マリカに抱きつきさらに泣きつづけた。マーヤさんは鬼人の女の子だ。左腕に裂傷、右脚に切り傷が確認できた。他は無事そうだが余程怖い思いをしたのか凄く怯えていた。


「マリカ!!一先ず、落ち着かせてから止血してあげないと。バルフ!!周辺に警戒して!!外の方は俺がまた右目で見るから!みんな剣を抜いて!いつでも戦闘できるように備えて!!」 


「了解。」「うん!」


マリカはマーヤさんをあやさしながらゆっくり離れてから薙刀を出してから止血に取り掛かる。バルフは近くの木に登り、剣を抜き耳や嗅覚を使い周辺をを見遣る。

俺は刀を抜いた後、直ぐ様マーヤさんがきたと思われる方向に向けて右眼に魔力を流し始める。しばらく伸ばしたところで木々が倒れて場が荒れているところを確認できた。間違いなくここで戦闘があったことがわかる。その中心に人が寝そべっていた。寝そべっていたが……体温も魔力も感知出来ない。近づいて行ったが…俺は途中でやめた。直ぐに周辺を探る。一先ず近くにはいないと判断して魔力を切った。


「バルフ!!向こうに1人遺体が確認できた。間違いなく獣にやられたみたいだ。ヒト族では無いよ。マリカ、マーヤさんは大丈夫そう?」


マリカはゆっくり首を横に振った。


「バルフ!そのまま警戒を頼んだ。ただ俺たちの会話は聞いといてくれ!」


「ん?なんだその無茶振りは!?とりあえずわかった。」


「マリカ!緊急事態だ。フォローを頼む。」


「…うん。」


「マーヤさん。向こうにいる亡くなってる人は誰ですか?」


「え!?…いゃあああああああああーー!!!!」


俺の問いに発狂し始めてしまった。尽かさずマリカがマーヤさんを抱きしめた。


「静かに!また来るかもしれない。」


俺の声に反応するように息が一瞬止まり、ヒューヒューと震えながらマリカに抱きついている。


「マーヤさん。状況を知りたい。もう1人はどうしたんですか?」


自らを落ち着かせるように息遣いがゆっくりになっていく。俺は彼女が話し始めるのを待った。


「…ザクは…アイツを追っていっ…た。アイツに出くわして…最初は狩ろうとし…て、だけど私が…気付かれ…て。気付いたらアイツは…私の目の前にいて…それでサザが…私を庇って……。」


また息が荒げ始めて言葉が続かなくなった。マリカが背中をさすりながら落ち着かせていく。


「わかった。その後はどうやって逃げれたんだ?」


「急に…馬車が来て、アイツを攻撃…して、アイツは馬車を追っていった。それでザクは…私に結界まで逃げるよう言ってから…後を追っていっ…た。私は訳が分からなくて…でもサザはもう息してなくて…。」


「そうか。何故ザクはそんな無茶を?」


「レイ。サザはザクのお兄ちゃんなんだよ。」


マリカが変わりに教えてくれた。


「…そうか。なら仕方ないか。バルフ!降りてきて!!」

 

バルフが降りたのを確認してから皆を見た。


「じゃあ、マリカ。マーヤさんを連れてさっきの作業員のとこまで行って状況報告と結界の強化、討伐隊を急いでお願いして。俺とバルフは後を追うぞ。」


「「え!?」」


「ダメだよ。危険ずぎるよ!!」


2人は俺の顔を見ながらマリカが反対した。それをマーヤさんは複雑な顔で見ていた。俺たちでは力不足だがザクが心配なんだろうと思う。


「大丈夫だ。マリカ、あくまでも助けに行って逃げるだけだ。倒す訳じゃ無い。」


「でっ!でも…マーヤ姉だって立派な狩組の先輩なんだよ!サザだって私達より強いのに…。」


「ああ。わかったよ。レイが言うなら大丈夫だろ。俺とレイなら適してるかもな。ザクが無事なら逃げるのは可能だろう。相手は動物だからな。」  


「バルフ!!?」


マリカがバルフを睨みつける。


「そういうことだ。強くても相手は動物だ。なら勝機はある。」


「でも…もし…。」


「大丈夫だ。マリカとの約束があるんだ。死んでらんねーよ。」


バルフがマリカに笑いかけた。


「だな。無理はしないさ。どっちにしろ仲間は見捨てられないからな。マーヤさん、ソイツの特徴は?」


「アイツは熊の姿だった。でも熊よりも全然デカくてなのに素早くて、わかんないけど風魔法を使えるかもしれない。後は身体中が毛じゃなくて鱗みたいになってた。」


ずいぶんと異様な姿だな。聞いたこともない。アルマジロみたいなのかな?更に風魔法か…おそらく、気付いた時に目の前に来たからか…。まあ、あり得る話か…まあ動物が魔法ってのは聞いたことないがな。

俺はあらゆる可能性を見出し考えをまとめていく。


「わかった。ありがとう。よし!バルフ行くぞ。途中、グズの木があったら補給しよう。魔力切れはやばいからな。」


「そうだな。了解。…マリカ。納得しろとは言わないが心配すんな!俺はお前の為にしか命かけないからさ。」


「…バカ。」


あれ?なんかいい感じじゃね?なんか2人の空気の変化に嬉しくなった。 


「んー。もう!!バルフもレイも本当に無理しないでよ!?あんた達がいなくなったら連合軍入っちゃうからね!!」


「そりゃあ困るな!!わかったよ。」


「了解!じゃあ、行くぞ!バルフ、俺が先行して馬車のタイヤ跡迄は追うな。それ以降があればバルフに交代する感じで。」


「了解。」


俺とバルフは2人を残し結界を抜けて馬車の後を確認して後を追った。


『アルベルト視点』


私達は門前払いを受けるのがわかってて門に行くのは無意味と考え、途中で馬車を止め作戦会議を開いていた。っと言っても今から何ができるのか?なんの用意もできていない状況で来てしまい見当もつかない。今はサジ、ミリ、この村に入ったことのある騎士2名を含めて話し合っていた。


「カーンとカイルといったな。最後に入った時の村の様子はどうだったのだ?」


「はい。恐らくではありますが、以前から私達がスパイとバレていると思います。今まではそれでも町まで自由に行き来できていたのですが、急にです。理由を説明するわけでもなく強制的に村の外まで追い出されてしまい、それ以降行き来ができなくなりました。やはり戦況の変化が関係しているかと。」


「戦況?確かに巻き返しが少なからずあったとは聞いたが勝ちは揺るがないのではないのか?」


「はい。噂も含まれますが、どうやらシャルグ国の支援があらゆる理由をつけられ届いておらず物資不足で戦況が一気に巻き返され今では危ういという話でございます。」


「なるほど…。」


「驚かれないのですね。」


「ああ、予想はしていたからな。だが今の噂を聞いて確信した。やはり今が好機。なんとしても会わなければならなくなった。道を間違えば無意味な戦闘によりヒト族だけでなく亜人にも被害が及ぶだろう。あちらもそれは望まないはずだ。それにシャルグ国の動きが気になる。この同盟をなさなければ父上達を討てなくと我が国にも亜人のみなも、もう生き残る未来はないかもしれん。」

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転移転生戦乱?物語 クロロロ @kysas10

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