幕間

パックが解説 ~赤薔薇と白薔薇の世界~ 前編

 ハロー、久しぶりのかわいいパックだよ。

 イングランドの赤薔薇と白薔薇について説明しとけって、ウィリアムに丸投げされたんだけどね。ほんとキャラ使い荒いよ。


 別に知らなくても物語の進行には支障ないんだけど、知っているとより楽しめるから、興味のある方は読んでみてね。


 ウィリアム・シェイクスピアは全部で11本のイングランド史劇を描くんだけど、すべて連作なんだ。中でも『ヘンリー六世 第一部・第二部・第三部』『リチャード三世』の4作は一続きの話になっていて、今回説明するのはこの部分。ちなみに作品ベースで説明するから、史実と違う部分があるからね。


◆用語説明 

赤薔薇=ランカスター家 

白薔薇=ヨーク家


 薔薇は両家の徽章だよ。事の発端はハル王子(第二幕第七場で、フォールスタッフと漫才繰り広げてた人)の父親ヘンリー4世が、先王をクーデターで追放し王位を奪ったこと。実はヘンリー4世のランカスター家は傍流家系に過ぎないんだ。


 その後英雄王ハル王子(ヘンリー5世)がフランスを半ば征服しランカスター家も安泰かと思いきや、これが急死しちゃう!すると同じく傍流家系のヨーク家リチャードが「ランカスターより俺の母親の血筋の方が直系に近くね?」と野心を見せるわけ。


◆何が難しいって

 登場人物の多さに加え、同名人物が多すぎるんだよ!ヘンリーとリチャードとエドワードばっかりでさぁ、親子で同じ名前とか勘弁してほしいよね。エドワードがエドワードを殺したりしてさ、おいどっちだよ?って。


 そこで、覚えておかなきゃならないのはこの人たち!


・ヨーク公リチャード そもそもの癌はこの人

・ヘンリー6世と王妃マーガレット ヘンリーより主役感強い恐妻

・エドワード4世と王妃エリザベス・グレイ ヨーク公リチャードの長男

・リチャード(グロスター公→リチャード3世) ヨーク公リチャードの三男

・ウォリック伯 加担した方に王位をもたらす「キングメイカー」


 王と王妃はセットで覚えるべし。でないと誰が誰の妻かごっちゃになるからね!

 じゃ、作品に入っていくよ。



◆『ヘンリー六世 第一部』

 オープニングは、ハル王子ことヘンリー5世の葬儀から始まる。急死したヘンリーに息子は一人だけ、それが幼王ヘンリー6世なんだ。ヘンリー5世の弟たちが護国卿となり、フランスとの百年戦争を続けていく。


 しかし国内ではウィンチェスター司教と護国卿グロスター公ハンフリーが対立、更にヨーク公リチャード(この時点ではまだ公爵に復権しておらずリチャード・プランタジネット)が「俺の母親の家系の方が直系に近いんだから、王位につくの俺だろ」って虎視眈々と権力の座を狙っていた。


 一方フランスでは救世主ジャンヌダルクが出現。イングランドの守護神タルボット卿との一騎打ちという、史実にはないサービスショットでイングランドを破る。


 ハル王子のランカスター家(赤薔薇)と、リチャードのヨーク家(白薔薇)、共にご先祖様ば同じ人なんだけどね。親戚同士が骨肉の争いを展開したのが1455年から約30年間続いた薔薇戦争で、第一部はそれよりもちょっと前の時代だよ。


 赤薔薇を取るか、白薔薇を取るかの論争でリチャード・プランタジネットが「今日の争いはやがて血を呼ぶことになるだろう」と予言する。

 

 そして白薔薇の一人、「キングメイカー」ウォリック伯の計略でヘンリー6世はリチャード・プランタジネットの復権を認め、ヨーク公に叙任してしまうんだ。お父さんのハル王子が意図的に封じていたのも顧みずにね!


 しかもこのヘンリー6世、ヨーク公リチャード(白薔薇)とサマセット公(赤薔薇)の決闘を阻止しようとして「こうして私が赤薔薇を付けたからと言って誰も私がヨークよりサマセットに心を傾けていると思うことはない」って無意識に赤薔薇を付けちゃうんだよ。当然白薔薇勢は反発するわけさ。


 ヨーク公に囚われたジャンヌダルクは処刑され、アンジュー公女(フランス人だよ)マーガレットに一目惚れしたサフォーク伯は、彼女をヘンリー6世の妃にしてヘンリーを操作しようと目論む。


 こんな風に争いの種が撒かれたところで第一部は終了、第二部へ続くってわけ。ウィリアムの奴、気になる終わり方させるよね!



◆『ヘンリー六世 第二部』

 冒頭は、サフォーク公(伯爵だったのが公爵になる)がフランスからマーガレットを連れ帰りヘンリーへ妃として引き合わせるシーン。でもこの二人、愛人関係にあるんだ。婚姻によりサフォークが領土をマーガレットの父(フランスのアンジュー公兼ナポリ王)に割譲したことで、ヨーク公がランカスター家へ恨みを募らせる。


 護国卿グロスター公ハンフリーとウィンチェスター枢機卿(第一部では司教だった)の対立は未だ続いていて、サマセット公(第一部の赤薔薇白薔薇論争で、ヨーク公と張り合った人)は二人を蹴落とそうと野心を見せる。一方ヨーク公は、ランカスター家との対決を口にする。


 もうわかんなくなってきた?だよね。勢力図が変わってきたから整理するね。


■ランカスター派

□ヨーク派


■国王ヘンリー6世 —— ■王妃マーガレット —— ■愛人サフォーク公

■サマセット公


ヘンリーの叔父グロスター公ハンフリー ⇔ ウィンチェスター枢機卿とサフォーク公


□ヨーク公リチャード

□ネヴィル一家(ソールズベリー伯・ウォリック伯親子)


の3つの軸があるよ。

加えてマーガレットとグロスター公妃エレノアも女の戦いを繰り広げているよ。


 まず罠にかけられたのはグロスター公妃エレノア。呪術師を使いヘンリーへ危害を加えようとしていると嵌められ、追放されてしまう。権力を欲するサフォーク公とマーガレットは、グロスター公に謀反容疑をかけ逮捕、そして暗殺するんだ。

 ショックのあまりヘンリーは失神したり途中退場してしまうんだけど…王様に向いてないんだろうね。


 だんだん □ヨーク公VS■サフォーク公&マーガレット の構図になってきたよ。


 するとアイルランドで反乱がおこり、サフォークとマーガレットはヨーク公にアイルランド行きを命じる。ヨーク公は反乱を鎮圧したらその兵力を維持したままランカスター家と倒すつもりだと独白。ついに己の野心に武力を持たせるんだ。


 そしてグロスター公の暗殺は、王妃の愛人■サフォークと枢機卿の仕業だと告発する□ウォリック伯。うまいよねー、真犯人でヨークの敵サフォークはもちろんのこと、邪魔な枢機卿まで一気に退けちゃうんだもん。


 ■サフォークは追放され、フランスへ向かう途中洋上で海賊に殺される。嫌疑をかけられた枢機卿も心労で死んでしまうんだ。愛人を失ったマーガレットは、彼の生首を抱えて悲しみに暮れる。


 そしてヨーク公の息がかかったジャック・ケイドが反乱を企て、ロンドンへ進軍してくる。ジャック・ケイドを退けたところに、ヨーク公がアイルランドより帰還、その兵で■サマセット公を討伐すると言う。しかし真の狙いはヘンリーの頭上から王冠を奪うことだ。


 □ヨーク公が王の幕舎でサマセット公は逆臣だと訴えるその場に、当のサマセット公と王妃が現れ、逆にヨーク公こそ王へ反逆を企てていると反論。両者はセント・オールバンズでついに戦となる!


□ヨーク公リチャード、その息子エドワードとリチャード、ウォリック伯

■ヘンリー6世、マーガレット王妃、サマセット公、クリフォード卿親子(親子ともクリフォードという名前)


 ■クリフォード親は□ヨーク公に殺され、■サマセット公はヨーク公の息子□リチャードに殺される。■ヘンリーとマーガレットはロンドンへ逃げ、ランカスター家包囲網が結成されたところで第二部は終了。


 第一部から登場してた人が失脚して世代交代したからね。

 後編に続く!

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